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【闇鍋】目指せ攻略!最新VRゲームをプレイ!

【準備中……】

【準備完了!】


「こんばんはお兄ちゃん!イドラですよ~」


 あの悲惨な放送から半日。私は気を取り直して、同じ日曜日後半に予定していた別の配信を行っていた。というか始めた。


『ふぁむ』

『おやふぁむ』

『おやふぁむ』


「いやまだ寝ませんからね?」


 日曜午後ということもあり同時接続人数は結構増えるかと思っていたが、実際はそうでもなかった。まあ日曜午後は他に凄い人気のバーチャル美少女で目白押しだからね。仕方ない。


「と、いう訳で!私は今日最近オープンベータの始まった新作VRゲームをプレイしたいと思います」


『ほーら新作に飛びつくー』

『人気取りたいの透けてるぞノー哲』


「うるせえ」


 ノー哲とは私の渾名だ。

哲学系バーチャル美少女を名乗っておきながら、配信では哲学的な要素が一切出てこなかったことからそう名付けられた。

もっといい渾名に変えろと言いたいところだが、それを止められる権利は私は持っていない。なので仕方なく私はそれを受け入れている。


 ロケハンしてくれた友人Cからの情報では、このゲームは『バーチャルリアリティローグライクタワーディフェンスリアルタイムストラテジースペースカードゲーム』だそうだ。いやなんだよそれ。闇鍋にも程があるでしょ。


「早速この!『バーチャルリアリティローグライクタワーディフェンスリアルタイムストラテジースペースカードゲーム』こと『Overse』、プレイしたいと思います!」


『なっが』

『なんやそれ』

『割と面白そう』


 視聴者からの反応は上々である。よし、これはいけるな。なんかWikiに英才教育用ゲームとか書かれてたけど大丈夫でしょ。


「いやー、この『バーチャルリアリティローグライクタワーディフェンスリアルタイムストラテジースペースカードゲーム』の情報を手に入れるのは苦労しましたよ~まあね、私はお兄ちゃん達とは違って特別な妹アンテナ張ってるのでね、まあ別に普通のことかな~って思うんですけど」


『イキんな』

『寿限無やめろ』


「なんだと」


 テンプレと化したキレ芸をして私は早速ニューゲームを選択する。

このゲームのあらすじはざっくり言うとこうだ。「なんかたくさんある宇宙を破壊しようとする悪い奴が現れたからそいつを倒す為に敵陣地へ乗り込んでいく」。

うん、分かりやすいのはいいと思う。


「早速やっていきたいと思います。……お、難易度が選べるみたいですね~んまあやっぱりイドラ的にはハードかなって思うんですけど、そういえばVRハードで新しい型の奴出ましたよねそうそうそれでなんか凄いミニゲームができるって聞いたんですけどどう思います?私やってみたいんですよね~」


『???』

『難易度の話どこいった』


「あぁそうそう難易度の話でしたね、こういうゲームって大概なんかイージーがハードじゃないですか。というかどの難易度がどれくらい難しいのかっていうのが初見じゃ全く分かりませんよね。そういうのほんとやめて欲しいんですけど、というかもっと分かりやすくして欲しいんですけど、そういうのってどこに向かって言ったらいいんですかね?」


『その辺に書いとけノー哲』

『難易度の話しろ』


 私はなんかよく話題が逸れることがある。

友人Cにも相談してみたのだが、『別にそのままでいいと思う。私そんなイーちゃん好きだし』との返事を貰った。だからそのままよくノリで話を進めてしまうのだが、どうやら私の話にリスナーはついて行けてないらしい。頭が弱いのかな。


『難易度の話しろ』


「はいはい分かりました。難易度ですけど、イージーノーマルハードベリーハードの四つがあるんですよね。まあやっぱりイージーでもクソ難しそうというかCちゃんが「イージークソむずかったぞ」って言ってますからイージーでも良いとは思うんですがやっぱりイドラ的にはハード行きたいな?って気持ちがありまして」


『じゃあハード行けよ』

『ハードクッソ難しかったゾ~』


「おや先駆お兄ちゃん。ハード難しかったんですか、ならハードですね!」


 私は躊躇いなくハードを選んだ。なんかハードだと全体的に敵が強くなるらしい。それで次は『指導者』と呼ばれる――まあざっくり言えば主人公のキャラみたいなものを選ぶ必要がある。


 現在使える指導者は三人。

一人目。指導者の中でも一番人間に近い奴。吸血鬼らしい。保持している特殊能力は現時点では『ボス級』の敵を倒した時にHPが10%回復する能力。


 二人目。単眼の奴。マニアックな層に人気が出そうだ。保持している特殊能力は現時点では5秒毎に確率で敵の侵攻を止めることのできる能力。


 三人目。本。まんま本だ。人ですらねぇ。保持している特殊能力は現時点では敵の侵攻ルートを先読みできるアクティブスキルを最初から持っているという能力。


 コメントでは初心者は本がオススメとのことだったので私は本の奴を選んだ。

もし先駆お兄ちゃんに嘘をつかれてたらどうしようね。まあそれはそれで美味しいか。


 そして私はこの段階であの事を言うことにする。


「まあ実は私もロケハンしたんですけど、これ一人でやるのは無理だって話になりまして」


『やらせやめーや』

『まあこのゲームはしゃーない』

『もしかしてコラボ?』


「友人Cです……」


 中央に机の置かれたVR空間に、メガネを掛けた緑髪の女性がのそりと現れる。

彼女は友人Cだ。私がモデルを完成させたことによって遂にVRゲーム配信にも現れることができるようになった。


「えー、初めて見る、という方も多いと思う。よろしくお願いします」


「よろしくCちゃん!」


 私達はハイタッチをする。

やはり、Cちゃんは初めてのバーチャル美少女デビューということもありまだまだ固い。

もうちょっと頑張って美しくいこうよ、ね?

私はCちゃんの手を握る。


「いや……私ただのサポーターだから」


『はよしろ』

『ゲーム気になる』

『寸劇はいいからゲームして(500)』


 チッ。一人くらい尊いとか言えよな。

訓練されたリスナーは多少の百合営業では尊いとか言って死んではくれない。バーチャル美少女達が世に溢れかえったことで百合は過供給状態にある。そのため百合でリスナーを尊死させるためには、しっかりと関係性やシチュエーション等の部分で魅せていかなければならないのだ。


 それに男でもおっさんでも美少女になれる時代だしね。皆中身がおっさんなんじゃないかって警戒してるのさ。


「はぁ……」


 Cちゃんはその説明を聞いて当惑している。いやどっちかっていうと呆れてる?まいいや。


『心の声漏れてるぞ』


 うるさいいいんだよ。


「じゃあ早速ゲーム始めますね!行くよCちゃん!」


「おー」



 *



 Cちゃんは真面目ダウナー系のバーチャル美少女だ。


「こういうタイプは人気出ないから。アミちゃん。貴方のサポートに徹したい」


 その言葉を聞いたのは3ヶ月ほど前だったか。


「どういうこと?私と一緒にバーチャル美少女デビューするって約束だったじゃん!」


「……ごめんね。それはできない。だって……こんなキャラ、人気出ないでしょ?」


 私とCちゃんは昔に同じゲームを遊んでいてウマが合って仲良くなった。

その時は大体私が子供の頃だったか。

そして私達は有名な配信者を見て思ったのだ。「こういう人気な配信者になりたい」、と。


 そしてそれから時は経ち。

日本のネット規制は酷くなっていった。海外に逃げることも考えたが、考えた時にはもう遅かった。配信者として活動するためには顔を出す必要がある。しかし現代の日本で顔を出して配信なんてしてしまえば即逮捕だ。


 だが、そんな中現れたのが“バーチャル美少女”としての配信だ。バーチャル美少女なら顔を出す必要はない。声なら変えられる。

目標を定めた私達はどうにかして配信機材を買い揃え、バーチャル美少女になれる環境も整えて。

そして今からやっと栄光への階段に差し掛かった。そんな時なのに。


「そんな……Cちゃんは人気のバーチャル美少女に……配信者になりたくないんですか!?」


「……。昔はその欲があったんだけど。今は、もう」


 そう語るCちゃんの顔は少しだけ悲しそうだった。

あぁ、きっとCちゃんにはあの時から今までの間に何かがあったんだろう。私は察する。


「それ、本当?」


「……本当」


 ……いや、その言葉が本当な訳がない。

私とCちゃんは長年親友同士だったのだ。お互いの考えていることは手を取るように分かる。


「――Cちゃんだってさ、本当は人気のバーチャル美少女になりたいんでしょ?そんな自己顕示欲がにじみ出てますよ」


 私は続ける。


 ……あのね、Cちゃん。私は貴方と、Cちゃんと一緒にバーチャル美少女になりたかったんです。Cちゃんのいないバーチャル美少女ライフなんて本望じゃない。

Cちゃん。別にそのキャラでも有名になってるバーチャル美少女はいます。バーチャル美少女は良い文化。誰だって望んだ自分になれるし、何だってできる世界。


 だから。私がCちゃんのことをプロデュースしてみせます。


 お互いがお互いをプロデュースし、サポートする。

これは約束。私とCちゃんの間の約束だ。


 私は小指をCちゃんの小指と結んだ。



 *



「Cちゃんレバー下げてくださいぃ!」


「分かった」


 Cちゃんは余裕綽々で船内横断をこなして反対側の壁にあったレバーを下ろす。

私は手札のカードから宇宙船団を一枚切ると、今度はCちゃんが立っていた場所にまで走る。


 このゲームは宇宙船の壁に取り付けられたボタンを押さないと手札の引き直しができない。

しかし手札の設置地点や手札を切ることができる場所は船内の中央にしかない。


 そして、プレイヤーに求められるのはそれをこなしながら船内中央にあるテーブルの上で繰り広げられる宇宙戦をコントロールする手腕だ。

手札に存在するカードを切ることで戦況に変化を与えることができるのだが、これがまた難しい。


 カードには種類がある。


 一つ、モンスターカード。

このカードは使うことで戦場(これをフィールドと呼ぶ)にモンスターや宇宙船を召喚することができるカードだ。ゴジラから宇宙戦艦等様々な種類がある。


 二つ、マジックカード。

このカードは使うことでフィールド上に何かしらの影響を与えることのできるカードだ。レアカードにもなるとブラックホールの生成や超新星爆発を起こす等ができるらしい。


 三つ、その他のカード。

このカードは上のどちらでもないカードを指す。

持っているだけで効果を発揮するカードや、惑星をアップグレードするカード等がある。


 これらを全て使いこなしながらクッソ複雑な戦況をコントロールし、割とすぐ手札を使い切るのでその度にボタンを押しに走らなければならない。


 それがこのゲームが『英才教育用VRシャトルラン』と呼ばれる所以だった。


 だけど今回はCちゃんが居る。一応配信なので撮れ高の為に私がフィールドを見張る戦略担当、そしてCちゃんが肉体労働担当だ。


 だが、Cちゃんと私の渾身の協力プレイがあってもこのステージのボスには及ばないと見えた。

敵勢力は強さを増し、どんどんと私達の居る宇宙船へと迫ってきている。私達の乗る宇宙船が破壊されてしまったらゲームオーバーだ。


 今いる宇宙船のフロントガラスからでも敵船の影が見える。

もうダメか……。そう思ったその時。私の手札に最後の切り札が見えた。


「来た!――『狂戦士の魂』!」


 これはHPを30消費して、更に手札を全て捨てて発動できるカードだ。山札からカードを一枚引いてそれを発動するカード。更に引いたカードがモンスターカードならその効果を繰り返す。


『切り札!』

『あっぶねぇぇぇ!』

『うおおおおお!』


 現在の宇宙船のHPは40。狂戦士の魂の発動で30削られるので、残り10だ。

Cちゃんはレバーを下ろしてもらうために向こう側に行ってしまった。

もう手札を交換しに行っている余裕はない。これでマジックカードが引かれるまでにどれだけモンスターカードを引けるかが勝負だ。


「一枚目!『超時空戦闘機』!」


 私の宇宙船の元に迫っていた敵軍の目の前に三隻の超時空戦闘機が召喚される。


『来い……来い……!』


「二枚目!『恒星寄生虫』!」


 近くにあった恒星に一匹の大きな炎のムカデっぽいものが飛来する。


『うおおおおおお!』


「三枚目!『超合金ロボ』!」


 私達の乗る宇宙船を守るかのように二体の巨大ロボットが召喚される。


『行ける!行けるぞ!』


「四枚目!『超新星爆発』――あっ」


 一番近くにあった恒星が収縮し、次の瞬間爆発する。その爆発は周囲にあった全てのものを消し飛ばし(私達の宇宙船にはダメージが入らない設定になっているが)、私の召喚した折角のモンスターも消し飛ばした。


「困る」


 狂戦士の魂の効果はマジックカードを引くと終了する。

当然敵船も消し飛ばせたとはいえ、どんどんと新たな敵船は量産されてこちらへ向かってくる。つまり……。


「人生オワタ」


 乗っていた宇宙船は崩壊して私達は宇宙に叩き出された。


【この放送は終了しました】



【闇鍋】目指せ攻略!最新VRゲームをプレイ!【英才教育用VRシャトルラン】

731 回視聴


イドラ

チャンネル登録者数 1,363人

 調子に乗るという言葉は良い意味にも、悪い意味にも使われる。

 良い意味で調子に乗っていたつもりが悪い意味だった、ということは日常茶飯事だ。

 何かの流れに乗る、という行為は悪い行為ではない。

 だが、その流れが良いものなのか悪いものなのかの判別はしっかりとした方が良いだろう。


3 件のコメント▽

 友人C

  もっと分かりやすい投稿者コメント書いたらどう?

  ▲ 3

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