第七十四話 魔王立図書館
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さぁ、リリスちゃん、ここから頑張ってルティアスを救出しなきゃですね。
それでは、どうぞ!
ヴァイラン魔国へ転移したわたくし達は、早速行動を開始する。入国して、アルムの権限で転移門を使わせてもらって、一気に魔王都まで向かう。
「では、ボクは魔王に謁見の許可をもらってくる。何かあれば、いつでも呼んでくれ」
「えぇ、わたくしは、ルティアスの家の方に行ってみますわ」
今は、『絶対者』としてではなく、リリスとしてこのヴァイラン魔国に居るわたくしは、アルムと別れて急いでルティアスの家へと向かう。
本当は、ルティアスを危険に晒したわたくしはルティアスの家に踏み入れる資格なんてない。けれど、わたくしが頼れるのは、そこくらいしかなかった。ミーア達に関しては、ルティアスが平民だと言っていたので、情報収集という観点から見れば論外だ。
身体強化を施した状態で走り続けていると、少し小高い位置に前に教えてもらったルティアスの家が見える。
緊張で喉がカラカラに渇いていたものの、わたくしはそれを無視して家の前まで来る。そうして、ドアのノッカーに手を伸ばしたところ……先に、ガチャリと扉が開く。
「っ!?」
「ん?」
目の前に居たのは、どこかルティアスに似た顔立ちの魔族の男性。ルティアスと同じ白い角に、ルティアスより濃い色の青い髪、そして、ルティアスとは違う青い目を持つ男性は、わたくしを前に首をかしげる。
「あなたは……弟の片翼じゃありませんか?」
「弟? ルティアスのお兄様ですか?」
十中八九、外に出る用事があったのであろうその男性は、わたくしを前にして扉に手をかけたまま話しかけてくる。
「はい。ラディス・バルトランと申します。本日はどういったご用件で? もしかして、結婚の日取りが決まったとか?」
にこやかに告げるラディス様に、わたくしは要件を思い出して必死に口を開く。
「ルティアスが、危険な状態なのですわっ。初対面で不躾かとは存じますが、どうか、知恵を貸してくださいましっ」
頭を下げて頼み込むわたくしに、ラディス様は大きく目を見開いた後、『とりあえず入ってください』と家に招き入れてくれた。
「それで、ルティアスが危険とは、どういうことですか?」
応接室らしき場所で腰掛けた後、鋭い視線で問いかけられ、自身の責任だと自覚のあるわたくしは、息が詰まりそうになるものの、順を追って全ての説明をする。
「……なるほど、確かに、それは危険ですね」
ラディス様は、全てを聞き終えると、顔面を蒼白にして握った手を震わせていた。
「申し訳、ありません。わたくしが、力不足だったせいで……」
「いや、リリスさんを責めているわけではありません。しかし、そうなると、少しでも情報が欲しいところですね。……よし、魔王立図書館に行きましょう」
「魔王立図書館、ですか?」
「えぇ、説明は道中にでもしますので、急ぎましょう」
そう言って、ラディス様はわたくしを連れて外に出る。
「馬車を呼ぶ時間も惜しい。リリスさん、身体強化をしてついて来れますか?」
「はい、いけますわ」
貴族らしからぬラディス様の言動に多少驚きはしたものの、それ以上にルティアスが心配で、すぐさま返事をする。
「よろしい。では、行きますよ」
そう言った直後、ラディス様は身体強化をした上で走り出す。わたくしも遅れまいと、同じく身体強化をして走る。道中、ラディス様は走りながら魔王立図書館はこの国の全ての蔵書が集まった場所なのだと説明を受け、日本の国立図書館のようなものなのだろうと考える。そして、そこに解決策がなければ、ルティアスは代償を払うこととなるだろうと話されて、胸がズキリと痛む。
(どうか、ルティアスが助かる方法が載ってますようにっ)
五分ほどで辿り着いた魔王立図書館。ただ、そこは、何やら厳重な警備体制が敷かれていた。
「これは、いつものことですの?」
「……いえ、違います。どうやら、間が悪かったらしい……」
苦虫を噛み潰したような表情のラディスを見て、どういうことだろうかと辺りを確認してみる。
(あの、馬車は……)
そこには、一台の豪華な馬車が止まっていた。そして、そこにも警備の者らしき人物が居る。
(誰か、要人が来ている、ということでしょうか?)
そうだとするならば、本当に間が悪い。
ラディス様は、それでも館内に入れないか、警備の者に確認を取りに行っていたが、どうにも反応は思わしくなさそうだ。そうこうしているうちに、魔王立図書館の扉が開く。
「あっ……」
警備……いや、護衛に固められて歩く黒目黒髪の少女を見て、わたくしは、誰がここを利用していたのかに気づく。
(あの人は、ユーカ様?)
二人の魔王陛下に嫁いだ魔王妃、ユーカ様。その彼女の姿と、パレードで見た灰色の髪が居た。
きっと、彼女が帰れば、館内に入れる。そう思って待っていると、ふいに、ユーカ様と目が合う。
「ハミル、ちょっとあの人のところに行ってみても良いですか?」
「うん? 良いよ?」
チョンチョンと灰色の髪の男性の袖を引っ張ったユーカ様は、なぜか、わたくしの方を見て、そう告げる。
(えっ? えっ? えっ?)
何がなんだか分からないままに混乱していると、ユーカ様は、護衛を引き連れてわたくしの側までやってくる。咄嗟に膝をつけたのは、令嬢としての経験があればこそだっただろう。
「初めまして。あなたは、ルティアスさんの片翼さんですよね?」
ただ、そう問いかけられた瞬間に、わたくしの混乱はピークに達するのだった。
思わぬ形での前作ヒロインとの対面。
ジークは居ませんが、ハミルも一緒です。
明日の更新は、夕夏ちゃんとの話し合いになりそうです。
それでは、また!




