第七十三話 ルティアスの危機
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今回は……えぇ、ルティアスの方がピンチです。
それでは、どうぞ!
聞き覚えのある呪文。二度と聞きたくなかった呪文が聞こえた直後、『破壊のクラウン』は、目の前でピタリと止まり、その顔を苦悶に歪める。
「ガッ、グアァアッ」
混乱した頭でも、体は勝手に動いて、戦えるまでに体の治療を行った後、すぐさま炎を纏わせた剣を振るう。
「ギアッ、イタッ、イタイィィィッ」
パコンッという音とともに、両腕がカラカラと落ちる。
(っ、外したっ)
胴を切り裂くつもりが、両腕だけを落とす結果になった。わたくしは、すぐにもう一撃、今度こそ胴を真っ二つにしようと動いて……次の瞬間、『破壊のクラウン』の胸に、黒い穴が開く。
「アッ?」
ピンポン玉サイズの穴は、真っ暗闇をその向こうに映しており、わたくしは、それが何か理解する前に、そこから飛び退いていた。
グンッと一気に広がった穴は、『破壊のクラウン』の胴を全て呑み込む。
「アァァァァアッ、イヤダ、コワレタクナイッ! コワレタク……」
バキッバコッという音とともに、『破壊のクラウン』の残った部分が穴に吸い込まれていく。そして、数秒後には、何一つ、『破壊のクラウン』が存在していた痕跡は残っていなかった。
「……これ、は……闇の神級魔法、ですの?」
わたくしが知っている闇の神級魔法は、辺り一面が暗闇に閉ざされ、一瞬のうちに敵を滅ぼす魔法だ。けれど、今の魔法は辺りを闇に閉ざすこともなければ、時差だってあった。それがどういうことか、そして、闇の神級魔法を使った者がどうなるのかを思って、わたくしは、まだ完全には治りきっていない体でその姿を捜す。
「ルティ……ルティっ!」
ルティアスの姿は、すぐに見つかった。ルティアスは、わたくしとさほど離れていない距離で、うつ伏せになって倒れている。
「『絶対者』っ、無事か!」
かなり離れていたのであろうアルム達が戻ってきて、わたくしに声をかけてくるものの、それに反応している暇なんてない。
「ルティっ、ルティっ!」
よろけながらもルティアスが倒れているその場所に向かい、膝をつくと、震えそうになる手でルティアスを仰向けにしてみる。
「……っ」
ルティアスは、顔の半分のところまで、刻印が刻まれている状態で、わたくしは、思わず息を呑む。
「『絶対者』? これは……闇の神級魔法? いや、それにしても進行が早過ぎる」
アルムがルティアスの様子を見て告げるその言葉に、わたくしは、何も答えることができなかった。これが、二回目の闇の神級魔法だと、一回目の刻印をまだ消していなかったのだと、説明することができなかった。
(何度もチャンスはありましたのにっ)
口づけをするチャンスは何度でもあった。それなのに、わたくしは恥ずかしさの方が勝って、まだ時間はあるからと先延ばしにし続けてきたのだ。
(いいえっ、まだ間に合いますわっ)
後悔はしている。だから、わたくしは、今できることに全力で取り組む。
(女も、度胸、ですわっ)
わたくしは、ルティアスに代償を払ってほしくない一心で、意識を失ったままのルティアスのその唇に、そっと口づけを落とす。
「っ」
背後で、アルムの息を呑む音が聞こえた気がして、人前だったことを思い出したわたくしは、すぐに顔を上げてしまったものの、口づけは確かに行った。けれど……。
「っ、何で!」
ルティアスの顔にまで達していた刻印は、少しだけ引きはしたものの、まだそこに存在している。
「……『絶対者』。もしかして、ルティアスは闇の神級魔法を使うのは二回目か?」
「っ……」
その問いかけに、わたくしは思わず黙ってしまう。
「……二回目だとしたら、ルティアスは助からないかもしれない」
「っ、どういうことですのっ!」
今は『絶対者』としてこの場に居るにもかかわらず、わたくしは思わずいつもの口調で問いただす。
「言葉通りだ。……ヴァイラン魔国やリアン魔国に行けば、何か分かるかもしれないが……」
「っ、すぐに向かいますわっ!」
リアン魔国とやらは知らないが、ヴァイラン魔国ならばすぐにでも転移できる。ルティアスの家も知っているから、もしかしたらそこを訪ねれば協力を得られるかもしれない。
「待て。それなら、ボクも行く。ボクは、魔王と交流があるから、彼らに協力を仰ごう。ルティアスは魔将の一人だから、少なくともヴァイラン魔国の魔王は動いてくれるはずだ」
「分かりましたわ。よろしくお願いします」
そう言って、わたくしは一旦ログハウスに戻り、ルティアスをベッドに寝かせ、前にかけた時魔法をさらに重ねがけしておく。そうして準備を整えたわたくしは、魔の森で調査隊を帰還させたアルムと合流して、ヴァイラン魔国へと転移したのだった。
世の中はクリスマスなのに、それなのに……ちっともロマンチックな口づけじゃないっ!
いや、別に狙ってたわけじゃないんですけど、なぜか、クリスマスのこの日にこんなお話になってしまいました。
口づけというより、人工呼吸のレベルの何かでしかなかったよね?と思いつつも、そろそろ、ヴァイラン魔国のあの人を出そうと思います。
それでは、また!




