第七十二話 国家滅亡級の魔物
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今回は、バトル回です。
それでは、どうぞ!
「なぜ、アルムが一緒に来る?」
(どうしましょう。転移で送り返すべきかしら?)
「ボクも、戦える。いや、ドラグニル竜国での国王の役目は、国民をこういった脅威から守ることも含まれるから、ボクが行くのは当然だ」
そう言い切るアルムに、なら、今までのあの依頼の数々は何だったのだと問いたくなる。
「国家滅亡級だった場合、守れる自信はないぞ」
「守られるつもりはないから、問題ない」
きっぱりと答えるアルムの様子に、わたくしはどんなに言っても無駄だと悟る。
「それに、魔の森には何度か足を運んだこともある。ボクが気づけることもあるかもしれない」
「……分かった」
真剣な瞳でこちらを見るアルムに、わたくしは白旗を揚げる。もう、説得は無意味なようだった。
そうして、わたくし達は黙々と魔の森を探索し始める。森はやはり静かで、アルムもその様子が異常だと断じて注意深く調査を進めていく。
「ここまで魔物に出会わないのは初めてだ……」
ポツリと呟くアルムに、わたくしも無言でうなずく。普段ならば、大小関係なく、様々な魔物の攻撃を受けているはずなのだけれど、一時間ほど探索した今、まだ一体の魔物にも出会うことはなかった。
いよいよその異常に、緊張がピークに高まった時……それは起こった。
「っ、伏せろ!」
膨大な魔力を感知したわたくしは、必死にそれだけを叫ぶ。その直後、爆風が頭上を駆け抜け、辺りに生えていた木々が巻き上げられる。
「くっ」
「ぐぅ」
近くでルティアスとアルムが必死に木の根本にしがみついているのを確認しながら、わたくしは結界を張って、木々がこちらに直撃しないようにする。
「アハハハハ、コワレロ、コワレロ」
風が止み、素早く立ち上がったわたくし達を待っていたのは最悪の想定が現実になってしまったという事実だった。
マネキンのような体と道化のような顔、大きすぎる真っ赤な目。禍々しくも膨大な魔力を秘め、人の言葉を発するそいつは、過去に、とある小国を滅ぼしたとされる魔物。
「『破壊のクラウン』……」
『破壊のクラウン』と呼ばれるその魔物は、国家滅亡級の魔物の中では小さい部類に入るものの、その実力は折り紙つきで、国家滅亡級の魔物の中でも上位に入る。見つけたならば、すぐに避難すべき相手だ。
わたくし達は、実際に、できることならこの場を去って、避難してしまいたかった。今回は調査目的だったのであって、討伐目的ではない。もちろん、準備をしてこなかったわけではないものの、この化け物を相手に戦って、無事にすむとも思えない。
「転「アハハハハッ!」っ!?」
転移しようとした瞬間、今度は雷が辺り一面に落ちてくる。咄嗟に先程の結界を強化したものの、威力が強過ぎるのか、結界は軽々と破られてしまい、轟音と光の中、逃げ回るはめになる。
「アレ? マダ、コワレテナイ? アハハハハッ」
戦うしかない。そう覚悟を決めたわたくしは、全身の身体強化のレベルを一気に上げて、剣を片手に、肉薄した……つもりだった。
「リリスっ!」
お腹に受けた衝撃に、何が起こったのか理解できなかったわたくしは、背中を木に叩きつけられて、前をしっかりと見たことで自覚する。
(蹴られ、た?)
『破壊のクラウン』の足は、その胴から離れて、わたくしが先程までいた場所に、わたくしのお腹がくるであろう位置に蹴り出した状態で止まっていた。
「か、はっ」
(息、が……)
肺でもやられたのか、息が上手くできない。
(さっきの声は、ルティアス……?)
ちゃんと治療をすれば回復するであろう怪我ではあったものの、わたくしの周りには先程の雷撃で逃げ回った結果、人が居ない。回復してくれる人も、『破壊のクラウン』を引き付けてくれそうな人も居ない。
「アハハハハハハッ」
道化の顔で、おぞましい笑みを浮かべたまま急接近するそいつから、逃れる術がない。
(結界……)
いくつか結界を張っても、そいつの速度はちっとも落ちたようには感じない。
(こんな、ところで、終わりですの?)
「《安寧の暗闇よ。色ある全てを呑み込み、無と帰せよ》」
道化のおぞましい顔が目の前に迫った瞬間、わたくしの大切な人の声が聞こえた気がした……。
リリスちゃん、ピーンチ!
そして、何やら聞き覚えのある呪文が……?
それでは、また!




