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第六十三話 炎上(ニナ視点)

ブックマークや感想をありがとうございます。


今回は、初の公爵の妻視点です。


それでは、どうぞ!

(なぜ、こんなことに……)



 燃え盛る、かつて、自分の家であった屋敷を前に、私は力なくくずおれる。夜の帳の中、煤に汚れた肌を気にする余裕などなく、ただただ呆然とする。

 その時間もあがけば、少しは長らえたかもしれないのに……。







 使用人が全て出ていき、お金がなくなったと騒ぐアドスに愛想を尽かせて出ていった後、私は実家へと戻って、公爵家に居た時と同じように振る舞っていた。


 伯爵家である実家は、実際のところ、貴族という名前だけは名乗っているというレベルの貧乏貴族だった。贅沢などもってのほかで、日々出される食事も具が入ったスープがあれば御の字といったような状態だった。

 私は、そんな貧乏が嫌で嫌で仕方なく、昔から美しかった自身の美貌を駆使して様々な貴族に取り入った。体を開いたのは、一度や二度ではない。

 そんな中、私は幸運にも、シャルティー公爵の当主に目をかけてもらうこととなった。そう、アドスだ。彼は、婿養子としてレイア・シャルティーと結婚していたが、そこに愛情はなく、その心は全て、私の方に向けてくれていた。



(この人と結婚すれば、贅沢できる)



 私の頭にあるのは、ただそれだけ。愛だの何だのは存在しなかった。

 そこで邪魔になったのは、アドスの妻、レイア・シャルティー。彼女の両親はすでに他界しており、彼女はその細腕で、領地を守ってきていると専らの評判で、何より、私よりも美しい容姿をしていた。その地位も名誉も美貌も、何もかもが気に入らない私は、アドスとともに彼女を殺す計画を立て、実行に移した。

 計画は成功し、彼女は幼い娘を残して死に至る。娘の方も邪魔だとは思ったものの、公爵家を名乗り続けるためには、正当な血筋のものが必要だとのことで、排除するのは我慢した。


 それからの日々は、夢のような贅沢三昧……と、いきたかったところだが、邪魔な娘、リリスが領地を取り仕切るようになって、お金は制限された。もちろん、貧乏だった頃のようにはないが、思いっきり買い物ができないのはストレスだった。だから、リリスが追放されて、やっと、夢が叶うと思っていたのに、実際には、どんどんお金がなくなり、貧乏へと一直線だった。

 お金がない男はいらない。そう思って、家に戻ってきたものの、今まで公爵家として相応の金遣いを続けていた私には、実家の貧乏はさらに耐え難いものとなっていた。母親が、父親が諌めるのも聞かず、私はドレスやアクセサリーなどを買い漁り、全ての請求を公爵家へと回した。


 まさか、公爵家に借金取りが押し掛けているとも知らずに……。



「ニナ、お客様よ」


「あら? 誰かしら?」



 その借金取りが、妻である私を標的にするとも思わず、私はどこか疲れた様子の母の言葉に昔の男がよりを戻そうと会いに来たのかもしれないくらいにしか考えなかった。


 小さな応接室へと向かえば、どこかいやらしい笑みを浮かべた男が居た。その後ろには、護衛らしき男が二人、控えている。



「あんたがニナ・シャルティーですか?」


「……どなた?」



 貴族らしからぬ物言いに、私は警戒しながらも尋ねる。



「あぁ、別に取って食いやしないさ。ただ、払うもんを払ってもらえれば、な?」


「? どういうことかしら?」



 遠回しな言い方は嫌いだ。貴族の中では、それが普通なのだろうが、単純に分かりにくくて嫌だった。しかも、明らかに貴族ではない相手からそんな言葉を投げかけられるのは、私のプライドが許さない。



「へっ、とぼけたって無駄だ。あんたの旦那がこさえた借金を、今、ここに取り立てに来たんだよっ。さぁ、払ってもらおうか?」


「っ、夫と私は、もう関係ないわっ」


「そんなことはないだろう? ほら、こんな証書ももらってきてんだから、さっさと出すもん出しな」



 そう言われて見せられた証書。それを読み進めた私は、その内容に絶句する。



『私、アドス・シャルティーは、借金を返せない場合、妻、ニナ・シャルティーにその義務を移譲し、返済が果たされない場合、ニナ・シャルティーを奴隷として売ることを承諾する』



 そこにあったサインは、紛れもなくアドスのもので、それはつまり、この証書が有効であることを示していた。



「い、いくら、です?」


「しめて六千万だ」



 聞こえた大金に、私はめまいを起こす。そんなお金、この家には存在しない。



「少し、確認してきますわ」



 周りで話を聞いて青ざめる使用人をチラリと見ながら、私は、この家から逃げることを決意する。しかし……。



「おっと、それなら、使用人に確認させれば良いだろ? こっちは、あんたに逃げられちゃ困るんでね」



 そう言われた途端、私はさっと立ち上がり、後ろを向いて駆け出す。



「チッ、逃がすな!」



 その言葉とともに、護衛らしき男達が動き出す。



「っ、《火よ》っ」



 私は、牽制のために、彼らの足元に火を放ち……。



「うおっ!」


「っ、水!」



 思った以上に燃え上がった床を見て、足止めの成功を確信してそのまま走る。しかし……。



「……えっ?」



 火の回りは、あまりにも早かった。小さな応接室の床は、一気に炎に包まれる。



「逃げろーっ!」



 どこかでそんな声が聞こえる中、私は必死に足を動かして、熱い室内を脱出する。残念ながら、私は水魔法は使えない。だから、誰かに消火を任せるしかないのだが、今はそんな悠長なことも言ってられなかった。



(なぜ、こんなに火の回りが早いのっ!?)



 まるで、火の回りが早くなるように、あらかじめ薬品でもまいていたかのような早さだ。辺りはどんどん火に包まれ、私は動きづらいドレスで必死に駆ける。



(っ、出口!)



 もしかしたら、使用人やあの男達は火にまかれて死んだかもしれないが、そんなことはどうでも良かった。ただただ、自分が助かりたいがために、走って、熱くなった扉をドレスの裾で押して開ける。



「ゲホッ、ゴホッ!」


(助かっ、た……?)



 そう思って振り返ると、そこにあったのは、とんでもない勢いで燃え上がる屋敷だった。貧乏でも、幼少の頃から暮らしてきた屋敷だ。



(なぜ、こんなことに……)



 燃え盛る屋敷を前に呆然としていると、使用人達が窓から脱出してくるのが見える。そして……。



(あっ……)



 そこに、両親の姿がないことに気づいて、私は辺りを見渡す。



「よう、奥さん、とんでもないことをしてくれたもんだ」


「ひっ!」



 しかし、見つけたのは、両親ではなく、あの男達の姿。護衛らしき男達に無理矢理立たされた私は、とにかく手足をバタバタさせて抵抗する。



「まっ、この有り様じゃあ、あんたは奴隷堕ち以外に道はねぇな」


「いやっ、いやぁっ!」


(奴隷なんて、冗談じゃないっ!)



 鉄のように硬い彼らの拘束から必死に逃れようとするものの、彼らの腕はびくともしない。



「っ、ちょっと、あなた達! 私を助けなさい!」



 側に見えた実家の使用人へと怒鳴れば、彼はじっと私を見た後、目を伏せる。



「ちょっと!?」



 他の使用人にも視線を向けて見るものの、誰一人として、私を助けようとする者は居ない。



「旦那様と奥様は、この事態を予想しておいででした。この火事は、前もって準備されていたものでございます。ただ、まさかお嬢様が火付け役になるとかお二方も考えておられなかったようですが……」


「っ、どういうことです!」



 長年、父の執事として仕えてきた男の言葉に、私は食いつく。



「旦那様方は、お嬢様の尊厳を守るために、炎の中に身を投じる予定だったのです。それももう、叶いませんが」



 わけが分からない。なぜ、私が両親の心中に付き合わなければならないのか。



「なるほど、そういうことか」


「会長、どうしやすか? 眠らせますか?」


「あぁ、そっちの方が良いだろ」



 男達が何かに納得する中、私は必死に抵抗を続けたものの、口元に布のようなものを当てられて、意識を失うのだった。

初の視点で、そのままバッドエンド一直線になりましたね。


両親の方は、ちゃんと娘の行いがどういうことに繋がるか分かっていて、どうしようもないから無理心中しようとしていたってことですね。


それでは、また!

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