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第五十三話 侵食する毒(エルヴィス視点)

ブックマークや感想をありがとうございます。


今回は、久々にエルヴィス視点。


影が薄かったエルヴィス視点!


それでは、どうぞ!

 母上とシェイラ嬢が失踪したことにより、城では大きな混乱が起きたものの、私の計画に支障はない。むしろ、私の婚約者になりそうだったシェイラ嬢が居なくなってくれたおかげで、ホーリーがいるのに婚約しなければならないかもしれないなどというふざけた状況を回避でき、何もかもが順調だった。



「ホーリー。夢の中だけではなく、早く現実でも会いたいな」


「はい、エルヴィス様」



 頬を赤く染めるホーリーは、夢の中であるとはいえ、愛らしい。このホーリーを現実でも手に入れるためには、やはり、耄碌してしまった父上に毒を盛るしかない。

 それは、精々、動けない状態にでもなってくれれば良いなんて甘いものではない。そんな甘さを持ったままだと、後から何かと口出しされかねないため、完全に暗殺するつもりで事に挑むのだ。



「毒は手に入りましたか? エルヴィス様?」


「あぁ、何とか手に入った。だが、問題はどうやって父上に毒を盛るかだ」



 当たり前のことながら、国王たる父上が食べるものは必ず毒見役が確認した後のものだ。異変があれば、すぐに露見してしまう。また、食材ではなく食器に塗るということも考えはしたものの、誰にも気づかれることなくそれをやり遂げるのは、給仕係や料理人でもない限り難しい。



「食材に盛るにしても、食器に塗るにしても、問題がある。父上の口に入る可能性が高いのは、食器に塗る方なんだがな……」



 ベッドの上でうなだれる私に、ホーリーは優しく髪をすいてくれる。



「……ならば、こういうのはどうでしょうか? 私が、その給仕なり料理人なりを懐柔しますので、その人物に毒を盛らせるというのは」


「懐柔? しかし、ホーリーは檻の中……そうかっ、この夢渡りの力を使うんだな?」


「はいっ、そうすれば、証拠も何も残りません。エルヴィス様は、どこかに毒の瓶を置いておくだけで、その人物がそれを使って国王陛下を暗殺してくれるというわけです」



 ホーリーは何て頭が良いのだろう。確かに、そうすれば父上はいきなり毒殺されることとなる。懐柔には時間がかかるかもしれないが、そのくらいは待ってみせよう。その暁には、私が王となり、ホーリーが王妃となるのだから。


 この時、私は本気で人材の懐柔には時間がかかるものだと思っていたが、ホーリーは、何と三日で成果を上げてみせた。ホーリーを介して、その人物と綿密な計画を練るのに数日かかったものの、後は、毒を所定の位置に置いておくだけだ。そうすれば、私は相手と顔を合わせることもなく、父上を毒殺できる。


 父上が倒れたという報告を聞いたのは、その日の夜だった。



「父上っ!?」


「エルヴィス殿下……」



 焦った様子を装って、父上の自室に飛び込めば、そこには王宮医師や宰相が控えており、力なく首を振っている。



「父上のご容態はっ!?」



 早く、結果を聞きたい。そんな思いを抑えつつも尋ねると、医師が重々しく口を開く。



「残念ながら、長くはないかと」


(っ、殺し損ねたか)


「っ、何だと! お前は王宮医師だろうっ! 王族の病を治すことが仕事のはずだっ! 何とかしろっ!」


「っ、そうは申されましても、これはそう簡単に治せるようなものではないのです。希望があるとするなら、『絶対者』という冒険者が持っていたとされるエリクサーですが……いえ、申し訳ありません。このような眉唾物の噂を本気にするなど、どうかしていますな」


「エリクサー? それがあれば、治せるのか!?」


(そんなことは聞いてないぞ!? これは、不味い。一刻も早く、その『絶対者』とやらを捕縛しなければ……)


「はい、あくまでも噂ではありますが……」



 医師の話を黙って聞く宰相も、そのことは知っていたのか、特に反応を見せることはない。



「分かった。では、今から私が父上に代わって国政を執り行う。その『絶対者』とやらも、必ずや見つけ出してみせる」


「しかし、陛下は『絶対者』を指名手配されました。それを撤回するというのは……」


「指名手配ではなく、探し人としての手配に変えるだけだ。父上が何を思って、その『絶対者』とやらを指名手配したのかは知らないが、私は父上を助けるために動く」


「殿下……」



 感動したような表情で目を潤ませる医師。それを横目に、宰相はずいっと前に出ると、申し訳なさそうな顔で口を開く。



「殿下、申し訳ありませんが、そうはいきません。陛下の勅命を撤回することができるのは陛下のみ。殿下にできるのは、陛下とは別の命令を下すことのみです」


「ならばそうするまでだ! 他に言うことはないか?」



 そう尋ねれば、医師と宰相はお互いに顔を見合わせる。



「殿下。殿下の耳に入れたいことが一つだけあります」



 宰相の言葉に、私はその内容を予想しつつ、素知らぬ顔をする。



「何だ? 申してみろ」


「陛下は、何者かに毒を盛られたようです」


「何?」


「現在、犯人が誰であるのか、そして、その背後関係も調査中です」



 予想していた通りの内容に、私は眉間にシワを寄せてみせ、予想外だとでも言わんばかりの雰囲気を作る。



「できるだけ早く、犯人を炙り出してみせましょう」


「そうか……頼んだぞ」



 そう言って、一応父上の顔を見た後、私はもうすぐ王位が手に入る未来を思って、内心、ほくそ笑むのだった。

実はこのお話、色々な人物の思惑が絡んだややこしいお話だったりします。


その辺りを、明日の更新で書くか、もうちょっと後に明かすか……ちょこっと迷い中です。


それでは、また!

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