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第四十九話 お姉様の相談(シェイラ視点)

ブックマークや感想をありがとうございます。


今回は、リリスちゃんの相談内容を聞いたシェイラちゃんが撃沈します(笑)


それでは、どうぞ!

 お姉様の相談事とは何だろうかと、少しドキドキしながら、私は耳を傾ける。しかし、そのまさかの内容に、私は顔を引きつらせないようにするだけで精一杯となった。



「その、ルティアスのことですけれど……」



 その前置きを聞いた時点で、嫌な予感はしていたのだ。



「わたくし、ルティアスがあまりに積極的で、少し困ってますの」


「せ、積極的、とは? 具体的に、どういうことなのでしょうか?」


(まさか、もうあの男に手をつけられた!?)



 引きつりそうになる表情筋を必死に戒めて、私は勇気を出してといかける。すると、お姉様はあろうことか、ポンッと顔を赤くする。



「そ、そのっ、ええっと、ですわねっ! ……こ、ことあるごとに、食事を、食べさせてきたり、だとか、抱き締めて、きたり、だとか……」



 最後の方は小さくなっていてあまり聞き取れなかったものの、どうやら最も危惧していた事態は避けられているようだった。



「お姉様なら、そんなもの、無視してしまえば良いのではないですか?」



 少しだけ落ち着きを取り戻した私は、できないだろうと分かっていながらもそんな提案をしてみる。すると……。



「そ、それが……ルティアスと一緒に居ると、こう、何というか、とてもドキドキしますの。でも、それは嫌な感じのものではなくて、何だか嬉しいとすら思えて……わたくし、何かの病気なのでしょうか?」


(……まさか、お姉様、自分の気持ちに気づいてらっしゃらない?)



 まさか、そこまで鈍感であるはずがないと思いながら、私は恐る恐る問いかけてみる。



「お姉様、お姉様は、その気持ちが世間一般で何と呼ばれるものか、ご存知ですか?」


「この、気持ち、ですか? 『嬉しい』ではないのですか? あぁ、『親愛』というのもありそうですわね」


(本当に気づいてないっ!?)



 至極真面目に答えるお姉様を前に、そこまで分かっていて、なぜ恋愛感情だと分からないのかが分からず、少しだけ混乱する。



「……お姉様って、小説の類いは嗜んでおられませんでしたか?」


「小説ならば、多少は読んでいますわよ?」


「……ちなみに、ジャンルは?」


「推理ものや歴史もの、冒険ものですわね」



 見事に『恋愛もの』というジャンルが抜けているという事実に、私は喜んで良いのか、嘆けば良いのか分からなくなる。



「そ、それで、お姉様は、どうしたいのですか?」



 とりあえず、話を進めなければという使命感だけで、私はその先を促す。



「その、とにかく、恥ずかしかったりドキドキしたりというのがなくなれば、もっと普通にルティアスと接することができると思うのです」


(それは、無理ですよ。お姉様……)



 自分の気持ちを全く自覚していないお姉様は、小さく拳を握って、やる気に満ち溢れているものの、どう考えても無謀でしかない。



(そんなところも可愛いのですが……今回ばかりは、頭が痛いです)



 さて、どうしたものかとしばらく考えて、お姉様のすがるような視線を受け続けた私は、一つの考えを捻り出す。



「ルティアスを嫌ってしまえば、そのドキドキも、恥ずかしさもなくなると思いますよ」


「ルティアスを、嫌う……?」



 全く思ってもみなかった提案なのか、お姉様は小首を傾げてみせる。



(か、可愛いっ! じゃなくてっ!)


「ルティアスの嫌なところを挙げていけば、自然と嫌えるのではないですか?」


「ルティアスの、嫌なところ……」



 お姉様は戸惑いながらも、とりあえずは考えてくれるようで、必死にウンウンと唸って……その後、なぜか涙目になる。



「全く思い浮かびませんわ」


「……全く?」


「はい、全く。良いところは色々と思い浮かぶのですが……」



 予想外に惚れ込んでいる様子に、私はショックを受けつつも、何か一つくらいあるだろうと反論してみる。



「ほ、ほら、イビキがうるさいとか、だらしないとか、気が利かないとかっ」


「イビキは、確認したことがありませんわね。だらしがないのは、むしろわたくしの方ですわ。気が利かないなんてこともありえませんし……むしろ、家事を進んで手伝ってくれて助かってますし……」



 お姉様からもたらされる信じられない言葉の数々に、私は敗色が濃厚なのを見てとりながらも、どうにかもがく。



「神経質とか、口うるさいとか、鬱陶しいとかっ」


「どれも当てはまりませんわね……」


(いえ、聞く限りでは、お姉様への愛情表現は鬱陶しいはずなのですが!?)



 その後も、思い付く限りの欠点となり得そうな事柄を挙げていくものの、返ってくる言葉はルティアスを褒め称えるものばかり。私の敗北は、ここに決定した。



「……お姉様は、まず、自分の気持ちの正体を知ることから始めたら良いのだと思います。それと、どうして先に進めないのかも考えてみるべきですね」


「自分の気持ち……先に進めない理由……」



 自分の中に刻み込むように呟くお姉様を見て、私は内心うなだれる。



(恐らくお姉様は、抑圧され過ぎていて、自分の気持ちに気づけない上、行動の制御までしてしまっているのですよね)



 話を聞いていて分かってきたのは、思った以上に、シャルティー公爵家の環境がお姉様に影響を与えているという事実。お姉様は自分の魅力を全く理解できていない上、自分を卑下している部分すらあるということ。それを確認した私は、(ルティアス)に塩を送ることになるのを理解しながら、そんな助言をする。



「分かりましたわ。どうにか、向き合ってみますわ。ありがとう。シェイラ」



 満面の笑みを浮かべるお姉様を前に、私は完全に降参するのだった。

お知らせです。


『片翼シリーズ番外編』にて、シェイラちゃんのお話をアップしております。


まだ一話目ですけどね。


番外編の方はノロノロ更新になりますが、良ければ読んでみてください。


第二章からが『わたくし、異世界で婚約破棄されました!?』の番外編になります。


それでは、また!

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