第四十八話 お姉様の訪問(シェイラ視点)
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今日はシェイラちゃん視点です。(多分明日もシェイラちゃん視点ですが)
それでは、どうぞ!
お姉様がやって来る。その知らせを受けた時、私は歓喜に包まれた。あの日、魔の森で別れて以降、一度も会いに来ることのなかったお姉様に会えるという事実は、私にとってはとんでもなく重大なことだったのだ。
「あぁ、お姉様とのお茶会もできるかしら? いいえ、『できるのか?』ではなく『できる』にしなくてはなりませんね。ここは、アルムを脅してでも成し遂げてみせますっ」
この国に来た当初は、相手が国王ということで丁寧に接し続けていた私だったが、今では多少の我が儘を言えるくらいになっている。それもこれも、お姉様のおかげだと思いながら、私は侍女のベラにアルムへの伝言を託し、お茶会の準備を進める。
明日には、お姉様に会える。それが楽しみで仕方ない私は、その日は、幸せに満ちた眠りに落ちるのだった。
お姉様がこの国にお越しになる当日。私は、応接室で、今か今かとソワソワしていた。ちなみに、私の隣には、アルムがソワソワとしている。アルムもきっと、お姉様に会うのが楽しみなのであろう。
「『絶対者』様がお越しになりました」
「っ、通せ」
竜人の男の報告に、アルムは緊張した面持ちでそう告げる。すると、ローブ姿で顔を覆い隠しているお姉様と、ルティアスが入ってきた。
「久しぶり、というほどの時間も経っていないか。元気にしていたか? アルム?」
「っ、うん、元気にしてたよぉ」
お姉様を前にした瞬間、アルムはニコニコとした表情で間延びした口調で話す。
「初めまして、『絶対者』様」
「貴女がシェイラ嬢か。この度は、私の我が儘を受け入れてくれたこと、感謝する」
今回の訪問の設定としては、『絶対者』が旅をしている中、私に関しての情報を手に入れ、その件に関して直接私と話をしたいから訪問したということになっている。
もちろん、この城の中には、私と『絶対者』が姉妹だということを知っている者も居るが、私の現在の立場は微妙なものであるため、建前を用意しておくにこしたことはない。
「こちらへどうぞ。お茶の準備を整えておりますので」
「あぁ、できれば二人で話をしたいのだが、それは可能か?」
「それならぁ、ボクがちゃんとした場所を用意してるから、問題ないよぉ」
『絶対者』は、その口調から男だと見られているため、未婚の女性が男性と二人っきりになれないということを考えると、少し難しい問題ではあったが、そこはアルムが何とかしてくれたらしい。
アルムの働きに感謝しながら、私は『絶対者』のエスコートで確保してあった部屋へと入り……すぐに、『絶対者』へと抱きつく。
「お姉様、お会いしたかったです」
「えぇ、遅くなってごめんなさい」
声も口調も、私が知るお姉様のものに戻って、お姉様は周りを確認した後、おもむろにフードを取る。
「今日は、突然来てしまってごめんなさい」
「いいえっ、お姉様に会えるのであれば、私はいつでも構いませんっ」
「ふふっ、そう言ってもらえると助かりますわ」
上品に笑うお姉様の姿に、笑顔をまだ見慣れていない私はドキドキしてしまう。レイリン王国で、徹底的に無表情を貫いていたお姉様も格好良かったが、今の微笑みを浮かべるお姉様は可愛くて素敵だ。
(この変化をもたらしたのが、あの男だということだけは気に入りませんが……お姉様が幸せなら、その方が良いです)
きっと、お姉様がこんな表情を出せるようになったのは、あのルティアスという魔族の男のおかげだろう。お姉様があんな男に盗られるのは嫌だが、お姉様もルティアスに惚れているようだし、もう仕方ないと諦めるほかないだろう。
テーブルを囲んで席に着き、用意されていたティーポットに茶葉を入れたりして準備すると、お茶をカップに注いでお姉様に手渡す。すると、お姉様は珍しいものを見るような目で私を見つめ、嬉しそうに受け取ってくれる。
貴族令嬢は、自分でお茶を入れたりなどしない。しかし、この国ではそういうことはなく、貴族令嬢でもお茶を入れることはあるらしく、私も今は、それを教えてもらっている途中なのだ。
「その、あまり上手に淹れられてないかもしれませんが……」
「いいえ、シェイラが淹れてくれたのなら、美味しいに決まってますわ」
そう言って、お姉様はゆっくりとカップを傾けてお茶を飲む。
「ふふっ、やっぱり、美味しいですわ」
「っ、ありがとうございます」
微笑むお姉様を前に、私は舞い上がりそうになりながらも、身内だから評価が甘いのだということを忘れない。まだ、私のお茶は及第点をもらえていないのだから。
「それで、今日はどうしましたか? 何か話があると伺いましたが?」
本当なら、まだまだ雑談に興じていたいところではあったものの、一応、用事がある旨を聞いてはいる。だから、単刀直入にお姉様へと尋ねると、お姉様はその綺麗な眉をハの字にして、戸惑うように口を開く。
「その……今回はシェイラに相談がありますの」
「相談、ですか?」
思いがけない言葉に、私は一瞬固まり、次の瞬間には、その言葉が意味することを理解して嬉しさに包まれる。
「何なりとご相談くださいっ!」
「え、えぇ」
迫る勢いで答えれば、お姉様は驚いたようにうなずく。
今まで一度も頼ってきたことのなかったお姉様に頼られた私は、その幸せをしっかりと噛み締めながら、お姉様の言葉を待つのだった。
リリスちゃんの可愛さに大いに感銘を受けているシェイラちゃん(ようするにリリスちゃんの可愛さに悶えているシェイラちゃん)
さぁ、この後の相談内容を聞いて、どこまで平静を保てるのかっ!
それでは、また!