第四十五話 救いようのない者達(前半国王、後半アドス視点)
ブックマークや感想をありがとうございます。
今回は、国王やアドスに降りかかる破滅の足音を聞いてもらおうと思います。
そして、次回から新たな章に入るつもりでしたが、これだけでは説明不足だと思いますので、明日はまた別視点でのお話を書いていきたいと思います。
それでは、どうぞ!
王妃とシェイラ嬢が姿を消したという情報は、すぐにもたらされた。
エルヴィスとシェイラ嬢の顔合わせのために、余はしばらく待っていたものの、一向に王妃からシェイラ嬢をこちらに向かわせるとの連絡が来なかった。痺れを切らして従者に確認させてみれば、そこには気絶した黒装束の男達が縛られて転がされ、部屋の中に王妃とシェイラ嬢の姿は見当たらなかったとの報告を受ける羽目になった。
(なぜ、このようなことにっ)
王妃の安否に関してはどうでも良かったが、シェイラ嬢に関してはそんなことを言っていられない。王家の財政は、潤沢とは言いがたいため、何としてでもシェイラ嬢とエルヴィスとの婚約を成立させ、大量の持参金を手に入れる予定だったのが大幅に狂ってしまったのだから。
「すぐに捜索隊を編成し、捜索に当たれ!」
「ははっ!」
王妃のことは、死んだことにしてしまえば良いとはいえ、シェイラ嬢は何としてでも見つけなければならない。シャルティー公爵家の財産は、それだけ魅力的なのだから。
(次から次へと、なぜ、こうも問題ばかり起こる?)
執務室で、慣れない執務をこなしつつも、余は大きくため息を吐く。思えば、リリス嬢が出奔した時から、全ての予定が狂っていた。予定通りならば、今頃、リリス嬢は余のものになっていたはずなのだ。
(いや、しかし、これは使えるやもしれぬ)
しばらく執務をこなしていた余は、その合間に一つの案を思い浮かべる。
「リリス嬢が、シェイラ嬢を拐ったことにすれば、指名手配ができるのではないか?」
そう、エルヴィスとの婚約が破談となり、シェイラ嬢が自身の後釜になること知ったリリス嬢が、嫉妬のため、シェイラ嬢を誘拐したことにすれば、もっと大々的に捜索ができる。しかも、その弱味をチラつかせれば、リリス嬢は余の言葉に反論することはできない。王妃が居ない今、リリス嬢を迎えるための障害はない。
「となると、リリス嬢が誰に依頼をしたかだが……うむ、ダルタスを貶めた『絶対者』に依頼をしたこととしよう」
ギルド長であった弟が、見るも無惨な姿で憲兵に引き立てられたという事件は、まだ記憶に新しい。ダルタスをそんな姿にしたギルドの者達には腹が立ったし、いずれ報復をするつもりではあるものの、今はとりあえず、反省していると示すために、ダルタスを謹慎処分としていた。しかし、ダルタスを貶めた『絶対者』が、リリス嬢の嫉妬に狂った行為に手を貸したのだと民が知れば、『絶対者』の評判は地に落ちることだろう。
余は、この時本当に何も知らなかった。『絶対者』は国民の英雄であり、その名を貶めれば、王族であろうとも民は反感を抱くということなど、知りもしなかった。知りもしないで、余は、その素晴らしい考えを民に向かって発信し、リリス嬢捜索のための協力を求めたのだった。
そうして、ダルタスの謹慎が解けたその日、事件は起こることとなる。
(なぜだ。なぜ、誰も居ない?)
シャルティー公爵家において、その異変は急激に広がっていた。リリスが国外追放されて、二週間と少し。その間に、使用人がいつの間にかこの屋敷を去っていたのだ。確かに最近、人が少ないとは思っていたものの、それが顕著になったのは、シェイラが何者かに誘拐されてからだった。その情報が伝わった翌日、屋敷には一人の使用人も居なくなっていた。そして、儂はその日以降謎の身体中の痛みに悲鳴を上げ、風の噂で、シェイラにつけていた家庭教師が、無惨な死を迎えたということも聞いた。誰も居ない屋敷で、妻のニナが癇癪を起こした声だけが良く響く。
「なぜっ、誰もこの屋敷に来ないのですっ! あぁ、もうっ! お腹が空きましたわっ!」
そうは言っても、今は料理人すら居ないという状況。儂には、何が何だか全く分からなかったが、一つだけ、儂に長年仕えていた執事の最後の言葉が気になった。『書類の内容を確認せず、サインするのは危険ですよ?』という言葉だ。
全身が強烈に痛むのを我慢して、儂は這いつくばりながらどうにか執務用の机に辿り着くと、今までサインした書類を探してみる。そして、良く良く内容を確認してみると、普通の書類も確かにあったものの、その大半が使用人の辞表の写しや多額の借用書の写し。借用書に関しては、財産があるため何の問題もないし、そもそも借りる必要がなかったため、単なるミスですませられるが、使用人の辞表はいただけない。恐らくは、儂は内容を確認せずサインを続け、全ての使用人を辞めさせてしまったのだろう。
(いや、だが、なぜそんなことに?)
ただ、納得できないのは、なぜ、いきなりそんなことになったのかということだ。どんな家でも、こんなに大量の使用人が一斉に辞表を出すなどということはあり得ない。
何もかも納得できないまま、儂は、また痛み始めた体に呻き声を上げる。その痛みは、まるで誰かに殴られているかのような痛みで、儂はあまりの痛みに気が遠くなる。
しかし、儂は知らなかった。一斉に使用人が辞めたことを、周りがどう判断するのか。そして、そこからどんなことが起こるのか。
全てを知った時には手遅れになっているなど、想像もできなかった儂は、そのまま意識を失うのだった。
次のお話は、とある使用人視点と、とあるギルド員視点の二つを出してみようかと思っています。
エルヴィス視点のお話は、もうちょっと後で。
それでは、また!




