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第四十四話 変わったもの

ブックマークや感想をありがとうございます。


今回は、やっと恋愛方向で進展が!?


いや、まだまだもどかしい関係は続けたいんですけどね?


それでは、どうぞ!

 一瞬、何が起こったのか分からなかった。


 ほんのりと甘い香りに包まれて、大きな温もりがわたくしを包み込む。



(えっ? えっ?)



 戦いにおいては百戦錬磨。その場の状況判断がすぐにできないなどということは、ここ数年、なかったことだったのに、今、それが起こってしまっている。



(わたくし、抱き締められて……~~~~っ!?)



 状況を理解した途端、わたくしは顔が赤くなるのと、心臓がドキドキと音を立てて暴れ出すのを自覚する。



(な、なぜ、こんなことに!?)



 先ほどまで、わたくしはどこかの貴族を狙った刺客達が無力化させられたのを見届けて、花火を眺めていたはずだ。前世以来見たことのなかった花火を見て、懐かしさに浸っていたのも覚えている。



(それが、なぜ、こんなことになったんですのっ!?)



 優しく、ギュッと抱き締められながら、わたくしは大混乱を巻き起こす。



「ル、ルティアス?」



 震えそうになる声で、どうにかわたくしを抱き締めている者の名前を呼べば、なぜかさらに力強く抱き締められる。



「大丈夫。リリスさんには、僕がついてるから」



 何が大丈夫なのかも、なぜそんな言葉が出てくるのかも分からないものの、その言葉に安堵する自分が居ることに、わたくしは驚く。



(な、なんなんですの? この、状況は……)



 正体不明の安心感と、状況が全く掴めない混乱とで、わたくしは珍しく、動きを止めてしまう。



「大丈夫。大丈夫だから」



 ルティアスに優しくそう言われるのは、何ともくすぐったく、同時に、嬉しくもあった。分からないのは、そんな自分の心だったけれど、今はとにかく、この温もりに身を委ねたい気分でもあった。



(……少しだけ、ですわ)



 少しだけ、少しだけと言い聞かせながら、十分ほど、わたくしはルティアスに抱き締められ続けるのだった。









「生誕祭は楽しめた?」


「そ、そこそこ楽しかったですわ」


「そっか」



 ニコニコと微笑んでくれているらしいルティアスと、そこから全力で目を逸らすわたくし。昨日、抱き締められた後から、わたくしはどこかおかしかった。

 宿屋から出て、入国門に向かうべく歩いているところで、ルティアスは随分とご機嫌な様子でわたくしに話しかけてくる。



「それじゃあ、来年も生誕祭に来ようねっ。あっ、その前に建国祭もあるなぁ……そろそろ寒くなるけど、その時期に、このヴァイラン魔国では建国祭があるんだよ」


「そ、そうですの」



 なぜか、ルティアスと目を合わせられない。いや、合わせた瞬間、昨日のことを思い出してしまって、顔が赤くなるわ、心臓が暴走し始めるわで、大変なのだ。



(どうして、こうなったのかしら?)



 ただ、ルティアスに抱き締められただけ。確かに、前世を含めて、男性に抱き締められるなんていう経験は初めてのことだったけれど、それだけでここまで動揺してしまう自分が信じられなかった。



「ふふっ、リリスさん、可愛い」


「なっ!」



 必死に目を逸らしていると、ルティアスはふいに、わたくしの顔を覗き込んで、そんな言葉を溢す。



「か、可愛くなんてありませんわっ! そ、それより、さっさと歩きますわよっ」



 途端に暴れ出した心臓の音をごまかすように、わたくしは、早足で歩き出す。



「うん、帰ろうか。僕達の家に」


「っ、わたくしの家ですわっ」



 ドキドキと鳴る心臓の音が聞こえてしまわないか心配で、ついつい反論の声も大きくなる。



「そ、それに、ルティアスはここに来る前に約束しましたわよね? その、代償を払わずにすむよう、行動すると。ルティアスはこの国に残った方が良いのではなくて?」



 ここへ来る前にした約束を思い出して、わたくしはそれを口にしてみるものの、そうすると今度は胸がズキズキと痛み出す。それはまるで、わたくしがルティアスと離れたくないと思っているようで、何だか気に入らない。



「うん、だから、僕はリリスさんと一緒に帰るんだよ」


「? 帰るなら、この国の家なのではなくて?」


「……リリスさん、あの魔法の代償を回避する方法はね、愛し合う者同士が口づけをかわすことなんだよ」



 わたくしの質問に答えることなく、ルティアスは、わたくしが書物で見たのと同じ代償の回避方法を説明する。



「……ですが、それで失敗した例もありますのよ?」



 まさか、ルティアスがその情報を信じているのだとは思わずに、わたくしは、残酷な現実を告げてしまう。



「うん、そうだね。これはね、片方が愛してるだけじゃ解けないものなんだ」


「それは、どういう……?」



 いまいち、ルティアスが言いたいことを理解できなかったわたくしは、いつの間にか足を止めて尋ねていた。



「片方が愛しているだけじゃあ、どんなに口づけをしても意味がない。両方が愛し合わないと、刻印は残ったままになるんだ。あ、あとは、代償を負ったものからじゃなくて、相手の方から口づけをする必要もあるんだけどね?」



 ニコニコと他人事のように説明するルティアスに、わたくしは、情報を一つ一つ整理していき、一つの結論に達する。



「だから、愛の魔法……?」


「うん、そうだよ。ちなみに、この魔法は、愛する者のためにしか発動させられない魔法でもあるんだよ」



 つまりは、こういうことだ。わたくしが、ルティアスを愛して口づけを自分からしない限り、ルティアスは代償を払うこととなる、と。



「覚悟して、リリスさん。約束通り、これから、たっぷり口説くからね?」



 そんな宣誓を受けて、わたくしは固まるのだった。

次回は、新たな章へと突入……といきたいところですが、その前に、レイリン王国でのあれやこれを書いていこうと思います。


その次は、きっと新たな章に入るはずですので。


それでは、また!

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