第四十話 解決?
ブックマークや感想をありがとうございます。
今回で事件はちゃんと解決しますよ。
それでは、どうぞ!
「ミーアっ! やっと見つけたっ!」
そう言って突進ぎみにこちらへやってくる魔族の男性を見つけ、わたくしは、その顔に覚えがあって首をかしげる。
「入国門に居た方……?」
その魔族は、いかにも軍人といったがっしりとした体つきの魔族で、確か、入国門でルティアスに話しかけていた男だ。
「っ、バルトラン様の奥方様っ!?」
「違いますわ」
何やら盛大な勘違いをしているらしい男に、わたくしは冷静に反論する。
「いえ、ですが、お名前の方は……」
「元の家名を名乗りたくなかっただけですわ。そんな時、ルティアスが自分の名前を使っても良いと言ってくれたのですもの。使うに決まってますわっ」
入国門で『リリス・バルトラン』と記名したことを思い出して反論すると、男はなぜかルティアスの方を気の毒そうに見つめる。
「……今、必死に口説いてるところなんだ」
「それは……応援しております」
「うん、ありがとう」
何かが通じたような二人の様子に首をかしげつつも、わたくしはあんみつの中にあった白玉を口に含む。
「テオ、どうしてここが分かったの?」
「それはもちろん、愛ゆえだっ」
恐る恐る尋ねるミーアに、テオと呼ばれた赤目赤髪赤い角を持った彼は、堂々と胸を張って答える。
「そのイヤリング、追跡用の魔法が込められてますわよ」
「えっ!?」
「はっ、いや、その……」
悪戯がバレた大型犬のごとく、体を縮めるテオの姿に、ミーアは物騒な視線を向ける。
「追跡用の魔法って、どういうこと?」
「あ、いや……」
ダラダラと暑くもないのに汗を流すテオに、ルティアスは困ったように声をかける。
「魔族としては、片翼の居場所を常に把握しておきたいものなんだよ。特に、仕事で片翼と離れることが多いやつなんかは、大抵、贈り物に追跡用の魔法を込めてるものなんだ」
「……愛が、重過ぎる……」
ここは怒るところだと思っていたにもかかわらず、ミーアはげっそりとしてうなだれる。その様子を見て、こういうことは日常茶飯事なのかもしれないと思ってしまう。
と、そこで、今まで聞いてきた魔族の習性をルティアスに当てはめて、ルティアスがわたくしを抱き締めて離さなかったり、お姫様抱っこをしてきたり、甘く囁いてきたりする様子をなぜか思い浮かべてしまい、ブンブンと首を振る。
(な、ないですわ。そんなことっ)
頬に集まった熱を分散させるべく、抹茶アイスを頬張りながら、わたくしは何やらコソコソと話始めたテオとルティアスに目を向ける。
「その、バルトラン様。ミーアの暴走を止めてくださったのは、バルトラン様ですか?」
「いや、僕じゃなくてリリスさんだよ」
「奥方様が?」
目を丸くするテオは、恐らく、ミーアが身体強化で暴走したことまでは知っているのだろう。
「わたくし、これでもそこそこに魔法を使えるんですのよ?」
さすがに、立場があるであろうルティアスより強いことは言わないでおく。けれど、その一言でテオは納得してくれたらしく、大きくうなずく。
「確かに。バルトラン様の奥方様がただ者であるはずがない、か」
一度否定しても、『奥方様』呼びを改めようとしないテオに、少し諦めながらも、わたくしはみかんをパクりと食べる。
「俺の片翼を救ってくださり、ありがとうございます。このご恩は、必ずお返しします」
「いえ、ただの成り行きでしたので構いませんわ。一応、ここの代金はもってもらえるようですしね」
「はいっ、それはもちろんっ!」
代金のことを話せば、ミーアが元気良く返事をする。テオも大きくうなずいていることから、これ以上お礼がどうのと言われることはなさそうだ。
「ところで、ミーア。ちょうど良くあなたのご主人も来ているようですし、今、この場で話し合ってはいかがかしら? 愛が重いと嘆くだけでは、何も変わりませんわよ?」
「はっ、そうですねっ!」
「? 何を……?」
何が何だか分かっていないテオに、ミーアは覚悟を決めた目で、キッとにらむ。
「テオっ、私は、あなたの愛が重過ぎてつらいんですっ!」
「?? 俺は何も特別なことはしていないが?」
「お姫様抱っこでの移動も、食事中常に膝抱っこで『あーん』がデフォルトなのも、お風呂に毎回一緒に入るのも、私は恥ずかしいんですっ!」
「?? しかし、結局のところ、ミーアも悦んで「ぎゃーっ! 昼間っから何を言ってるのっ!」いや、しかし……」
(……何となく、察してしまったのは、気づかなかったフリをしておきましょう)
どうにも、愛が重いというのは、そっちの意味でも大変らしいということに気づいてしまったわたくしは……むしろ、もしかしたらそちらの方が深刻なのかもしれないと気づいてしまったわたくしは、沈黙を守る。
「と、とにかく、身が持たないの! 心臓が持たないのっ! だ、だから、少しは控えてくださいっ!」
茹で蛸のように顔を真っ赤にしたミーアは、必死になって告げているものの、どうにもテオに伝わっている様子はない。
「……ちょっと、テオドールを借りるよ?」
すると、それまで静観していたルティアスが、テオを……テオドールを連れて、一度店を出る。目の前には、赤くなって撃沈したミーアと、残り少ないあんみつがあるのみ。
わたくしは、大人しくあんみつを食べ続け、しばらくして戻ってきたルティアスとテオドールを出迎える。
「どうでしたの?」
「うん、しばらくすれば、愛が重過ぎるってことはなくなると思うよ」
「そうですの」
何を話したかは知らないけれど、すっかりしょんぼりとしてしまったテオドールを見る限り、ミーアの状態をある程度理解できたのだろう。
「それでは、ミーア。御馳走様でした。また機会があればお会いしましょう」
「は、はいっ。その、今日はありがとうございましたっ」
結局、ミーアの相談事を解決したらしいのはルティアスだったけれど、ミーアのことは個人的に嫌いではない。もし、また会うことがあれば、お茶くらいには誘うことだろう。
「それじゃあ、リリスさん。お祭りに戻ろうか」
「はいっ! まだ食べてないものが色々ありますものねっ!」
ルティアスの言葉で、わたくしは屋台の香りを思い出して顔を綻ばせる。前世の体とは違い、この体は結構な量が入る上、太りにくい。だから、今日は屋台を全制覇してみせるのだ。
「次は、りんご飴を食べますわよっ」
「うん、それじゃあ行こっか」
自然と手を繋いだわたくし達は、また、祭りの中へと向かうのだった。
次回、ちょっと別視点のお話にするか、まだリリスちゃんのお話にしておくか、悩み中……。
何となく、リリスちゃんのお話の続きになりそうな気もしますけどね。
それでは、また!