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第三十九話 巻き込まれて

ブックマークや感想をありがとうございます。


今回は、プチ事件発生ー。


いや、あまり深刻さはないですけどね。


それでは、どうぞ!

「きゃあぁぁあっ、誰かーっ、止めてーっ!」



 水のショーの会場を出た直後に響き渡った声に、わたくしもルティアスも咄嗟に声の方へと視線を向ける。すると、そこにはとんでもない勢いで爆走する小柄なハニーブロンドの少女が居た。



「何だろう? あれ?」


「恐らくは、慣れない身体強化を行使して、走り出して、止まらなくなっているのではないかと思いますが……」



 そんな呑気な会話をしているものの、彼女は、一直線にわたくし達の方へと向かって来ている。



「いやぁっ、退いてーっ! ぶつかるーっ!」



 『止めて』と言ったり『退いて』と言ったり、忙しいことだと思いながら、わたくしは、最初の要望の方を実行することにした。このまま走らせ続ければ、彼女は必ずどこかで限界を迎えて転ぶ。その時は、確実に大怪我だ。



「きゃあぁぁぁあっ!」



 ぶつかると思っているであろう彼女が目を閉じた瞬間、わたくしは、風魔法で彼女の体を仰向け状態にして持ち上げる。



「あぁぁ……う?」



 そして、衝撃が来ないことを疑問に思ったらしい少女は、足を徐々に止めてそっと目を開く。



「えっ? 空? 天国ですかっ!?」


「違いますわよ」


「はっ! さっきの美人さんっ!? と、美青年さんっ!?」



 わたくし達のことはどうやら認識できていたらしく、彼女は目を白黒させながら声を上げる。どうやら彼女は、そそっかしい性格であるらしい。



「そろそろ下ろしますわよ」


「はいっ! って、えっ?」



 ゆっくりと下ろして、地面に座り込む形に彼女の状態を整えれば、彼女は頭に大量の疑問符を浮かべているらしかった。



「リリスさんが、君を助けたんだよ」


「は、はぁ……えっ? この美人さんが!?」


「そうですわ」



 蜂蜜色の瞳を大きく見開く少女の声に、わたくしは自然と応える。



「あ、あのっ、ありがとうございましたっ!」


「どういたしまして。今度から、身体強化を使う時はしっかりと練習をした上でなさい」


「はいっ!」



 元気の良い返事をして立ち上がった少女は、そこで、ふと動きを止める。



「人間の美人さんと、魔族な美青年さん……? こ、これは、まさか……」



 そして、何かブツブツ言い出した少女に、わたくしはもう用はないとばかりに立ち去ろうとしたところ、ガシッと腕を掴まれる。



「あのっ、どうかっ、私の相談に乗ってくださいっ!」


「「はい?」」



 遠くに見えたりんご飴の看板に心惹かれていたわたくしは、そんな言葉に、ルティアスとともに返事をするのだった。









「すみません。デートのお邪魔をしてしまって……」


「デートではありませんので、問題はありませんわ」



 お祭りの最中でも、ちょっと屋台が多い通りを逸れれば、喫茶店くらいは営業していたため、今、わたくし達はそこでお茶をしている。最初は、頼み事を断ろうとしたわたくしだったのだけれど、どうにも真剣な様子の少女、ミーアに絆されて少しの時間ならばということでこの喫茶店に入ったのだ。

 ルティアスは何だか不満そうではあったものの、わたくしの言葉に反対をすることはなかった。

 ちなみに、この喫茶店はあんみつが美味しいらしいので、早速頼んである。あんみつを食べるのも久々なので、すごく、すごく、楽しみだ。



「あ、あの、リリスさんは人間で、ルティアスさんにとっての片翼、なんですよね?」


「うん、そうだよ」


「そのようですわね」



 確かに、片翼だとは言われ続けている。そして、求婚だってたまにされる。しかし、わたくしはまだ、片翼というものに対する実感があまりないため、どうにもルティアスの言葉には応えられなかった。



「なら、リリスさんに相談です。私を片翼だと言って、結婚までした魔族の人が居るんですが、愛が重すぎるんですっ! どうすれば良いですかっ!」


「……ルティアス、祭りに戻りましょうか」


「うんっ、リリスさんがそうしたいなら戻ろうっ」


「わーっ! ちょっと待ってくださいっ! これ、真剣な相談なんですーっ!」



 『盛大にのろけたいだけではないのか?』という大きな疑問はあるものの、とりあえず、ミーアは必死にわたくしを掴んで離さない。そして、まだ、あんみつも食べていないことに気づき、とりあえず席に戻る。



「分かりましたわ。とりあえず、あんみつを食べ終えるまでの間だけは話を聞いてあげますわ」


「あ、ありがとうございますっ!」



 そうして話を聞いてみると、何でも、魔族の片翼に対する愛情が重過ぎて、自分では対処ができないとのことだった。移動は常にお姫様抱っこで、座る時は、膝抱っこ。食事は口移しか『あーん』での食べさせ合いで、お風呂も一緒に入るという。

 ……正直、甘いものを頼んだのは失敗だったとげんなりしたものの、ここにはコーヒーはなく、緑茶くらいしかない。口から砂糖を吐きそうな気分を我慢して、わたくしは話を聞き続ける。



「でもっ、私はちゃんと歩きたいし、椅子に座りたいし、自分で食事をしたいし、お風呂だって、一人で入りたいんですっ! リリスさんは、そこのところ、どうやってかわしてるんですかっ?」



 なぜ、そんな相談をわたくしにするのかを聞いてみると、『人間を片翼にしている魔族の知り合いが居ないんですっ』と返ってきた。何でも、獣人と魔族では、感覚が似ているせいで不便を感じていないのと、精霊と魔族では、お互いがベタ惚れなパターンが多いから、やはり参考にならない。竜人と魔族では、竜人の方が鈍いため、魔族の愛情たっぷり過ぎる行動がむしろちょうど良いくらいになっているという。



「誤解があるようだから言っておきますが、わたくしは、ルティアスとそのような関係ではありませんわよ?」


「えっ? ……えっ?」



 ミーアは、わたくしの言葉に驚いた直後、なぜかわたくしの隣に座るルティアスを見てまた驚く。不思議に思って、わたくしもルティアスを見てみれば、ルティアスは魂が抜けたような表情になっていた。



「もしかして、まだ出会ったばかり、だったり、します?」


「そうですわね。まだ、二週間ちょっと経ったくらい、ですわね」


「えっ? 二週間経ってるのに、まだ結婚なさってないんですかっ!?」


「いえ、普通、二週間で結婚なんてしないものですわよ?」



 どうにも、ミーアとわたくしの間では、何か重大な勘違いがある気がする。そう思っていると、おもむろに喫茶店の入り口で大きな声が上がる。



「ミーア!」


「げっ!」



 そのミーアの反応で、わたくしは、その声の主こそが、ミーアを片翼とする魔族なのではないかと予想をつけるのだった。

事件は、恋愛相談でしたというオチです。


でも、これを期に、少しでも片翼に対する理解を深められたらなぁとは思っております。


それでは、また!

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