第三十八話 生誕祭(ルティアス視点)
ブックマークや感想をありがとうございます。
今回は、ルティアス視点ではしゃぐリリスちゃんの観察のお話。
イチャイチャ回とも言う。
それでは、どうぞ!
リリスさんをヴァイラン魔国に連れてきたのは正解だった。
僕は、焼き鳥をリリスさんと一緒に食べながらそう思う。
どの家にも見事なパッチワークの布が飾られている生誕祭。昨日の夜は、入国して宿屋を取って、軽く食事を済ませただけだったが、今日は本番だ。朝からソワソワしながら、リリスさんをどこに案内したいかをまとめて、まずは朝食を屋台で取ることにした。
「焼き鳥、焼きトウモロコシ、いか焼き、たこ焼き、焼きそば、お好み焼き、ソフトクリーム……すごい、ニホンの屋台そのものですわ」
他にもジャイアントカウの串焼きや、レインボーフロッグの炭火焼き、クラーケン焼き、赤モロコシのたれ焼きなんかもあるのだが、リリスさんの目はわりと安価な動物や穀物からできる食べ物に集中しているらしい。そんなところが、何とも庶民的に見えて、貴族であるらしいのに何だか可愛かった。
様々な食べ物が焼ける良い匂いが立ち込める中、僕はリリスさんの頭を撫でたくなる衝動をどうにか抑えて、問いかける。
「どれを食べたいかな?」
「焼き鳥は外せませんわっ! それに、たこ焼きも美味しそうですわね。あぁっ、あちらにはフランクフルトもあるんですのねっ! はっ、からあげもっ!? ど、どうしましょうっ、すごく目移りしてしまいますわっ」
食事になりそうなものにあれこれと目移りしてしまっているらしいリリスさんは、珍しくはしゃいでいる。入国した時に泣いた時はどうしようかと思ったものの、こうしていると、ヴァイラン魔国に呼んだのは間違いではなかったと思える。
「じゃあ、色々と買って半分ずつ食べようか?」
「良いんですのっ!?」
「うん、もちろんだよっ」
「そ、それじゃあ、行きましょうっ! 目指せ、屋台全制覇ですわっ!」
(……全制覇……早まった……い、いや、リリスさんのためなら、お腹がはち切れたって構うものかっ!)
自然と僕の手を握って引っ張るリリスさんに、僕は幸せと一抹の不安とを抱えながら、ついていく。
「はむっ、むぐ、むぐ……んー、たれと、炭火の香ばしさが口いっぱいに広がって、幸せですわー」
「ふふっ、リリスさん、口元にたれがついてるよ?」
焼き鳥を買って、目をキラキラとさせるリリスさんは、早速とばかりに焼き鳥へかぶり付き、口元にたれをつけている。それを僕がハンカチで拭ってあげると、リリスさんは顔を赤くして、小さく『ありがとうございますわ』と告げてくれる。
(うん、可愛い。どうしよう。可愛過ぎて、僕がどうにかなりそう)
喜んでくれるリリスさんの様子が嬉しくて、いつもより素直なリリスさんが可愛くて、はしゃいでいる様子のリリスさんがいとおしくて、僕はお腹よりも胸がいっぱいだ。
「こっちは塩だけど、食べてみる?」
「っ、はいっ!」
そうして、つい、僕は串をそのままリリスさんの口元へと持っていく。いわゆる、『あーん』と呼ばれる行為。かつて、魔王陛下がユーカ様にそれをしている様子を見て、羨ましいと思っていたことが、今では僕もできるかもしれない。そう思って差し出してみると、リリスさんは躊躇うことなく串にかぶりつく。
「んーっ!」
「美味しい? リリスさん?」
満面の笑顔を見れば、答えを聞くまでもないことではあったが、そう問いかければコクコクとうなずいてくれる。
「あっ、ルティアスも食べますわよね? はい、食べてみてください」
「っ!?」
一通りの咀嚼を終えると、リリスさんは自分が持っていたたれの串を僕の口元に持ってきてくれる。
(こ、これは、僕がリリスさんに『あーん』されてる!?)
しかも、これを食べるということは、間接キスをするということでもある。僕は、心臓を高鳴らせながら、そっとその肉を口に含む。
「どうですか? ルティアス?」
「……うん、すっごく美味しいよっ」
(どうしよう。僕、幸せ過ぎて、今日死んだりしないかな?)
焼き鳥の味なんかよりも、リリスさんとこうしてデートをしていられる事実が、僕を夢見心地にさせる。顔が赤くなっているであろう自覚はあるものの、こればかりはどうしようもない。もう、嬉しくて嬉しくて、どうにかなりそうだ。
そうしてしばらく焼き鳥を食べて、たこ焼きを食べて、フランクフルトを食べるリリスさんの姿にちょっとあらぬことを想像して撃沈して、ということをしながら歩いていると、どうやらそろそろ水のショーが始まる時間が近づいているということに気づく。
「リリスさん。そろそろあっちで水のショーが始まるよ? 見てみる?」
「そうですわね。ぜひとも見てみたいですわっ」
目をキラキラと輝かせるリリスさんを見て、僕は改めて、ここに連れてきて良かったと思う。
水のショーは、毎年大きな会場を借りて行われるもので、全員が会場に入れるわけではない。それでも、僕の地位であれば、その会場で席を取っておくことくらい造作もないことだった。
会場は千人ほどが収容できる場所で、普段は闘技場として利用されている場所だった。本来なら闘技場のグラウンドが広がるその場所には現在、一面に大量の水が敷き詰められており、それを見るだけでも圧巻だ。
段々になっている会場の観客席へとリリスさんを案内すると、すぐにでもショーが始まる。今年は、水と光のショーらしく、闇魔法で辺りを暗くして行われるショーは、とても迫力のあるものだった……はずだ。……途中から僕は、はしゃぐリリスさんの方にしか注目できなかったが、それでも後悔はない。これからだって、リリスさんと一緒に生誕祭に来れば良いのだから。
必ず、リリスさんを僕に振り向かせてみせようと決心しながら、僕は愛しいリリスさんの横顔を眺め続ける。
そうして、楽しいショーを見終わった僕達は、会場の外に出て……そこで、ちょっとした事件に見舞われるのだった。
いやぁ、リリスちゃんもルティアスも幸せそうで何よりです。
次回は、ちょっとした事件(?)に巻き込まれます。
それでは、また!