第三十六話 移動中
ブックマークや感想をありがとうございます。
今回は、あまり話そのものは進みませんが、ほのぼのとしてます。
それでは、どうぞ!
一日の休みを挟んで、わたくし達はヴァイラン魔国へと向かうこととなった。ちなみに、移動方法はというと……。
「リ、リリスさん? これ、本当に浮くの?」
「はい、もちろんですわ。誰かを乗せるのは初めてですが、身体強化をして走り続けるよりは速く動いてくれるはずですわ」
わたくしが作った唯一無二の魔法具。細かい白のレースを編み込んだような姿の五メートル以上ある巨大な鳥。見た目はとても柔らかそうに見えるそれは、わたくしの最高傑作とも呼べる魔法具だ。
それが、ログハウスの前にデンッと鎮座する中、わたくしは鳥をペチペチと叩く。
「ルティアスの席も足しましたし、何の問題もありませんわよ」
「いや、でも、何か透けてるよねっ!? 陽の光が体を通り抜けてるよねっ!?」
「それは……元々はただのレース編みなのですから、仕方ありませんわ」
「レース編み!? えっ、本気で!?」
驚くのも無理はない。けれど、これは元々、わたくしが手慰みに編んでいたレースをまとめたもので、鳥の形にしたのも、強度を確保したのも、飛べるようにしたのも、ただ何となく綺麗そうだと思ったからだった。
「つべこべ言わずに、乗りますわよ」
今日は、空を飛ぶために乗馬用の衣装なわたくしは、さっさと鳥の背に作ってあった鞍の部分に乗り込む。
「……うわ、本当に、硬い……そ、それじゃあ、失礼するね」
ルティアスがわたくしの後ろに乗り込んだのを確認すると、わたくしは、鳥に魔力を送り込んで起動させる。
「さぁ、しっかり掴まっててくださいまし」
「う、うん」
日本の遊園地にある乗り物のように、一応掴める手すりを用意してあるため、それに掴まってもらい、ゆっくりと鳥を羽ばたかせてみせる。
「うわぁ、本当に、浮いた……」
「最初はゆっくり飛びますが、途中からは速度を出しますわよ」
「うん。分かったよ」
さすがに、最初から全力で飛ぶのはルティアスが可哀想だということで、わたくしは少しずつ、速度を上げていくことにする。すると、風切り音がそれなりに聞こえるようになってきた。
「振動は多少あるけど、風はないね」
「風の方は、結界で防いでいますからね。振動の方は、改良を続けた結果ですわ」
それなりの速度で飛び始めた鳥に乗ったまま、ルティアスは呑気にそんな感想を告げる。どうやら、高いところは平気なようだ。
「ねぇ、リリスさん。抱きついても良い?」
「っ、ダ、ダメに決まってますわっ!」
「こんなに近くに居るのに、抱きついちゃダメなの?」
「そうだと言っているでしょうっ!」
背後から、ルティアスの懇願が聞こえてきて、わたくしは焦りながらも応えていく。
「……寒いから暖めてほしいなぁ、なんて?」
「……寒いなら寒いと、先に言ってくださいましっ!」
どうやら、抱きつく云々は、寒かったせいらしい。思えば、わたくしは空が寒いことを知っていて、ある程度厚着もしてきていたものの、ルティアスはいつもとあまり変わらない白い襟つきのシャツと、鮮やかな刺繍が入った青い上着のみだ。一応長袖であったため、あまり気にしてはいなかったものの、防寒力はあまりなかったのだろう。ちらりと後ろを確認すれば、ルティアスは寒そうに首を縮めていた。
「《暖かな火よ》」
こうなれば、結界内を暖めてしまう方が早い。数分もすれば、それなりに過ごしやすい気温に変わるはずだ。
「あ、ありがとう。リリスさん。……でも、抱きつきたいのは今でも変わらないからね?」
「何の弁明をしているんですのっ? そ、それよりも、ヴァイラン魔国の生誕祭について教えてくださいまし」
この移動方法を取ることによって、どうやら生誕祭に間に合いそうだということで、わたくしはその話を聞くことにする。
「うん、生誕では、色々なパッチワークの布が国中に飾られて、とても彩り豊かなんだ。そして、水魔法の使い手達が、大きな泉でショーをしたり、火魔法の使い手達は、花火と呼ばれるものを打ち上げたりするんだよ。あっ、花火は夜やるから、一緒にみようね? 良い場所を知ってるんだ」
その他にも、屋台がたくさん出ることや、魔王様の片翼の方が姿を見せるという話をしてもらいながら、この世界で、祭りに行くのは初めてだったということに思い至る。
「ふふっ、わたくし、お祭りに参加するのは初めてですの。期待していますわよ?」
「うんっ! 絶対に、心に残る出来事にしてみせるよっ」
少しだけ柔らかい表現で素直な気持ちを伝えられたわたくしは、それにホッとしながら、前を見据える。
日程としては、今日と明日で、ヴァイラン魔国へと辿り着くはずだった。
魔族の国。ヴァイラン魔国。国交が全くなかったためにその詳細は知らないものの、ルティアスが楽しそうに話す様子を見れば、そこが良い国であることくらい分かる。
ワクワクとした気持ちが膨らむ中、わたくしは、まだ見ぬヴァイラン魔国へ思いを馳せるのだった。
次回、ヴァイラン魔国に到着ですよ。
それでは、また!