第十八話 緊急依頼
ブックマークや感想をありがとうございます。
今回の作品は、冒険要素がちょこっと強いのかなぁと思いながら、書き書き。
それでは、どうぞ!
扉から出れば、アルムは自身にかけていた人化の術を解く。
本来、人化の魔法は、ドラグニル竜国において、人間を出迎えることのある召し使いや、人間の国に向かう者達が使用するものだ。間違っても、そんな遠慮という言葉とは縁遠いはずのドラグニル竜国の国王が使うようなものではない。
しかし、アルムは、人化の魔法を使えば、わたくしに近づける気がするからなどというわけの分からない理由で、わたくしの前ではほとんど人化を使っていた。
ただ、さすがに竜珠殿においては、私室くらいなら問題ないものの、それ以外の場所でアルムが人化するのは不味い。十中八九、他の竜人に舐められることとなる。
人化を解いた途端、アルムの姿は一変した。
黒い鱗が顔面以外のほとんどを覆い、その耳は、皮膜を張った爬虫類系のものへと変化する。手は鋭いかぎ爪のある手となり、体格自体も先程よりがっしりとしたものになっている。
「うーん、やっぱり、『絶対者』に近い姿でいたかったなぁ」
「……バカらしい」
実際のところ、アルムが人化を使ってくれるのには助かる面もある。どうしても、アルムは竜人としての姿の時には威圧感が強まってしまうため、わたくしは、少しばかり苦手意識を持っているのだ。それが、人化をすれば薄まってくれるのだから、心の安定のためには人化してもらった方が良かった。
(調子に乗って、他の場所でまで人化してもらったら困りますし、言うつもりはありませんけれどね)
その威圧感に多少怯えながら、アルムに先導されて歩いていると、ふいに、暖かな感触が手に伝わってくる。
「……何のつもりだ?」
「うん? 僕が迷子にならないように手を繋いでほしいなって……迷惑だった?」
確実にそんな理由はあり得ない。何せ、今進んでいる道は一本道なのだから。ただ、その手はとても暖かく、怯えていた心が落ち着くのが分かった。
だから、わたくしを見ながら、しゅんと落ち込んだようなルティアスを前に、わたくしの口は勝手に動く。
「……好きにしろ」
「うんっ!」
何だか、最近はルティアスがわたくしの好きな犬に見えて仕方がない。今も、ブンブンと尻尾を振っているような幻影が見えた気がして、軽く頭を振っておく。
(ルティアスは犬じゃありませんわ)
人懐っこいところや、どこか単純で突っ走るところなど、犬そのもののような気もしたけれど、その考えはとりあえず振り払う。
そして、そんな話をしているにもかかわらず、アルムが黙っていることが気になって様子を窺ってみると、そのアルムは急に立ち止まる。
「アルム? どうした?」
まだ、目的地に辿り着いてはいない。これは何かあったのだろうかと問いかけてみると、アルムは少し困ったような表情で振り返る。
「まだ分からないけどぉ、何かがこっちに来てるような感覚があるんだよねぇ」
そんな言葉に、わたくしは即座に探知魔法を展開する。アルムがそう言うということは、十中八九、動物の勘的なもので、何かの異変を感じ取っているということだ。
「西方から、巨大な魔物が来るようだ」
ドラグニル竜国の西端にあたる村付近に、何か巨大な魔物が向かっているのを探知して、わたくしはアルムへと報告する。
(魔物が大きいとはいえ、こんなに離れた場所の異変を察知できるなんて……竜人の王というのは凄まじいですわね)
何百キロも離れた土地の異変にいち早く気づいたアルムを見て、わたくしは一人戦慄する。
「魔物っ!?」
「……『絶対者』、仕事を追加しても良いかなぁ?」
現状、そこまで離れた場所に転移して、討伐まで行える者といえば、わたくしとアルムくらいしか居ないだろう。しかし、アルムは国王。おいそれと魔物の討伐になど出るわけにはいかない。
「報酬は?」
「その魔物の素材と、五百万で」
「分かった」
緊急依頼ではあるものの、五百万ということは、わたくしにとって、脅威はさほどないということだろう。
報酬内容に即答して、ルティアスに握られていた手を離そうとすると、その前にギュッと握り込まれる。
「待って! 僕も行く!」
「……分かった」
真剣な表情で、黄金の瞳に見つめられ、わたくしは、気づけばそんな返事をしていた。
「『絶対者』……?」
「すぐ、戻る」
わたくしが、ルティアスを受け入れたことに信じられないという表情をしたアルムを無視して、わたくしは一気にルティアスとともの現場へと飛ぶ。
「ブモォォォォォッ!!!」
そこに居たのは、森林を駆け抜けるバーサークピッグと呼ばれる全長十メートルを超える巨大な豚。巨大な角と、巨大な二つの牙を持つ真っ黒なそいつは、木々をなぎ倒して、高速で村のある方向へと移動していた。
さぁっ、私の苦手な戦闘シーンだ!
と、いうところで終わっております。
はい、戦闘シーン、明日、頑張って書きますね。
それでは、また!