第十七話 片翼について
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今回は、ようやく片翼についての説明が、ちょっと詳しくされる模様。
それでは、どうぞ!
結界の損壊事態は、すぐに把握できた。と、いうより……。
「全損じゃないか……」
一部が壊れたなんて可愛らしいものではなかった。わたくしは、それなりに力を込めて結界を張っていたはずなのだが、いったいどんな化け物が壊したのだと言いたくなる。……まぁ、どこぞの国の魔王らしいけれど……。
「うん、まぁ、そのぉ……二人だったからねぇ」
「二人?」
「魔王が」
「魔王が?」
魔王が二人とはどういうことなのだろう? わたくしが知らないだけで、魔国と呼ばれる国は二つ以上あるのだろうか?
「ヴァイラン魔国魔王のジークフリートと、リアン魔国魔王のハミルトンが、ね? 一人の片翼のために怒り狂ったんだよぉ。ん? こういう時は両翼って言うんだったかなぁ?」
片翼だとか両翼だとか、良く分からないなと思っていると、隣から説明が降ってくる。
「魔族は、最愛の一人のことを片翼と呼ぶんだけど、稀に二人の魔族が一人に惹かれることがあるんだ。そういう場合、その一人は片翼じゃなくて、両翼って呼ばれるんだよ」
どこか難しい顔をしながら説明してくれたルティアスに、わたくしは一応お礼を言って、確かに大切な人を侮辱されて怒るのは分かるけれど、ここまでする必要はなかったのではないかと遠い目になってしまう。
「『絶対者』、もしかしてぇ、大袈裟だとか思ってるぅ?」
「それは、まぁ」
そんなことを考えていると、アルムが苦笑をしてわたくしを見ていた。アルムは、目の前で手を絡めて机に肘をつくと、ゆっくり口を開く。
「そうだねぇ。詳しい説明はそっちの男の方ができるだろうけど、簡単に言ってしまえば、魔族にとって、片翼は自分の命よりも大切な存在なんだよぉ」
そんな言葉に、ドキリと心臓が音を立てる。
わたくしは、つい最近、ルティアスに守られたばかりだ。しかも、『闇の神級魔法』という禁断の魔法によって、本当に、命懸けで守られたのだ。
「片翼を失った魔族はぁ、発狂したり、自害したり、はたまた暴れ回ったりと、それなりに手がつけられない状態になることが多いんだぁ」
(それって、ルティアスも、そうなるということ……でしょうか?)
この温厚な性格の青年が、そこまで追い詰められる様子がどうにも浮かばない。しかも、それがわたくしを失ったことが原因で起こるなど、どうしても考えられない。
「さすがに力のある魔族は、精神力を鍛えてるから、そうなることは少ないみたいだけどねぇ。……確か、ヴァイラン魔国の魔王も、リアン魔国の魔王も、何度も片翼を失い続けていたらしいから、余計に両翼の彼女を侮辱されたのが許せなかったんだろうねぇ」
「ちょっと待て。片翼というのは、一人だけなのではないのか?」
「うん、そうだよぉ。ただ、片翼が死んだら、また新たに片翼が現れるってだけ」
(と、いうことは、わたくしが死ねば、ルティアスは新たな片翼を見つけられるということ……?)
そう考えると、一瞬、チクリと胸が痛んだ気がした。
「僕は、『絶対者』以外の片翼なんていらないよ」
「ふぅん? やっぱり、『絶対者』が君の片翼なんだぁ。でも、ボクだって『絶対者』のことが好きなんだよねぇ。だから、諦めるつもりはないよぉ」
ニッコリと笑うアルムに対して、ルティアスは力一杯威嚇をする。
「それでぇ、話は変わるけど、結界の方はどうかなぁ? 今日中に何とかなりそう?」
絡めていた手をほどいて、話しかけてきたアルムに、わたくしはレイリン王国の城の十何倍もある敷地面積を考えて答えを出す。
「……さすがに規模が大きいものの、私は手伝いなのだろう? ここの魔法部隊と協力すれば、三十分くらいでできるはずだ」
「そっかぁ! ありがとうっ! それじゃあ、『絶対者』の担当はこの辺りで良いかなぁ? 魔法部隊長と話し合って範囲を決めたんだけどぉ」
前もって横に置いていたらしい書類を取り出して見せてきたアルムは、その範囲らしい場所を指で指し示してくる。
「失礼」
とりあえず、ここからでは見えないために覗きに行くと、敷地の半分がわたくしの担当らしかった。
「これなら、ちょうど良いだろう。すぐに取りかかる」
「そっか、じゃあ、持ち場に着いたら、ボクが魔法部隊に伝達するねぇ」
そう言ったアルムは、すぐに立ち上がってわたくしの前まで歩いてきて……。
「なっ」
急に視界が開けたかと思えば、頬に何か暖かな感触を受ける。
「ふふっ、唇は、想いが通じてからにしておくねぇ」
「? ……あっ」
すぐには何のことか分からなかったものの、アルムの顔がわたくしの頬から離れていくのを眺めて、急激に事態を理解する。
(キス、された?)
しかし、その事実に困惑することはあれど、羞恥心を感じるとか、そういったことは一切ない。ただ、挨拶をされたという感覚でしかないそれに、わたくしはどう反応して良いのか分からなくなる。
「き、貴様っ!」
「ふふっ、せいぜい吠えてると良いよぉ。番犬君?」
途端に、またしても険悪な仲となった二人に、わたくしはため息を吐きながらフードを深く被り直して歩き出す。
だから、わたくしは、チラリとわたくしに視線を向けた時のアルムの表情に気づくことはなかった。
「脈なし、なのかなぁ……」
そんな呟きを聞くこともなく、とにかく仕事だと扉を開けるのだった。
敵に塩を贈る形になったアルムですが、それでも諦めません(多分)
次回は、ちょこちょこっと結界を何とかしてもらうことに……あれ?
その前に、ちょっとトラブルが発生するかも?
それでは、また!