第十四話 招かれざる客
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今回は、招かれざる客を出していきますよー。
いや、結構な大物なんですけどね?
それでは、どうぞ!
「ルティアス。二階に行って、わたくしが呼ぶまでここに来ないでください」
ログハウスに戻ってすぐ、わたくしは部屋の掃除をイソイソとしていたルティアスに声をかける。
「お帰りなさい。リリスさんっ。……えっと、上に居れば良いんだよね?」
何を考えたのか、挨拶の後、どことなく頬を赤らめたルティアスは、わたくしに確認を取ってくる。
「えぇ、そうですわ。何があっても、わたくしが呼ぶまでは下りてこないようにしてください」
「? うん、分かったよっ」
良く分かっていない風のルティアスを二階へ追いやると、わたくしはこれから訪ねてくるであろう人物を迎え撃つために、ローブを羽織って顔を隠す。しばらくすれば、結界の中に誰かが侵入したのを感知し、その後に、コンコンコンと外に続く扉がノックされる。
「……さっさと帰ってくださる?」
「その辛辣な言葉遣い、まさに『絶対者』だねぇ」
扉を開ける気にもなれず、そう言葉を返してみると、予想通り、面倒極まりないのんびりとした応えが来る。
「まぁ、お邪魔するよぉ、ってうわぁっ!」
「チッ」
挨拶代わりに放ってみた氷の槍は、入室の許可もしていないにもかかわらず入ってきた彼の脇を通り抜ける。
緋色の長髪をハーフアップで結び、蒼い瞳を持つ彼、アルム・ドラグニルは、泣きボクロのある色っぽい顔で、わたくしを見る。
「あっぶないなぁ。『絶対者』、こんな攻撃しちゃダメでしょお? それにぃ、女の子が舌打ちしちゃダメだよぉ」
「アルムだから、問題ありませんわ。それに、当たっていれば、わたくしだって舌打ちはしませんわ」
「それ、言外に死ねって言ってるぅ?」
「……そうですわね。さっさと、くたばってください。このストーカー野郎」
「んー、『すとーかー』が何かは分からないけどぉ、『絶対者』がボクと結婚してくれるまで、引くつもりはないよぉ」
ニッコリと笑うアルムは、無駄に色気を駄々漏れにさせている。正直、迷惑以外の何者でもないので、さっさと帰ってほしい。
「結婚!?」
ただ、面倒事というのは、増えるらしい。二階に退避させていたはずのルティアスが、大声を上げてドタドタドタっと階段を下りてくる。
「リリスさんっ、こいつ、何? 結婚って、どういうことっ!?」
「んー? 君、だぁれ? それに、『リリス』? もしかしてぇ、それが『絶対者』の名前?」
「貴様に教える筋合いはないっ!」
「ふふふ、威勢が良いなぁ。国ではボクに立ち向かう者なんて居ないから、新鮮かもぉ」
「リリスさんっ。お願いだから、こいつは止めて、僕と結婚しましょうっ!」
「何? 君も『絶対者』への求婚者ぁ? でも、ダァメ、『絶対者』はボクのものなんだからぁ」
「っ、リリスさんはお前のもの何かじゃないっ! ……僕のものでもないけど……」
目の前で口論をし始めた二人に、わたくしは頭が痛くなるのを感じる。
(これだから、ルティアスを上に避難させていたというのに……どうして会話が聞こえたのかしら? いいえ、今はそんなことを考えてる場合ではありませんわね)
会話をしながら、お互いに火花を散らす二人に、わたくしはため息を吐きたくなる。けれど、このままというわけにもいかないため、さっさとアルムにはお帰り願おうと決意した。
「用事がないのであれば、帰っていただけませんか? アルム?」
「えー? ……分かったよぉ。ちゃんと用件を話すから、そんな目で見ないでぇ。ゾクゾクしちゃうからぁ」
中々用件を言おうとしないアルムに、絶対零度の視線を注げば、わたくしの顔など見えていないはずなのに、頬をポッと染めて自分の体をかき抱く。
ただ、そんな動作でさえ、色気が漏れ出てくるのは、さすがにどうかと思ってしまう。
「リリスさん、こいつの話を聞くんですか? 本当に?」
「えぇ、面倒ではありますが、聞かないと帰ってくれませんわよ?」
「……分かりました」
こっそりと話しかけてくるルティアスに、わたくしもこっそりと返して、とりあえず納得してもらう。これで、ルティアスは大人しくしてくれるだろう。
「あのねぇ、竜珠殿の結界が破られたからぁ、張り直すのを手伝ってくれないかなぁって」
「破られた?」
竜珠殿とは、アルムが治める国であるドラグニル竜国の城、のようなものだ。そこの結界は、中々に強固なものだったはずだから、何が原因で破られたのか、少しきになった。
「うん、ちょーっと、魔国の王が訪問してきたんだけどねぇ。口さがないのが、その魔王の片翼を侮辱してぇ、その怒りでパリーンッてね」
「片翼……いえ、今はそれはどうでも良いことですわね。それで? 報酬は?」
「緋玉と、蒼玉、後、五千万でどうかなぁ?」
片翼という言葉は気になったけれど、今はビジネスの話だ。提示されたものは、そこそこに良いもので、わたくしはとりあえず、この依頼を受けることにする。
「……いつですか?」
「明日にでも来てほしいなぁと思ってるけどぉ、無理はしなくて良いよぉ」
「では、明日、そちらに向かいますので、さっさとお帰りください」
「えー? ここに泊まるのは「ルティアスだけでいっぱいいっぱいですので、さっさとお帰りください」……そいつだけズルいー」
その後、アルムは散々に駄々をこねたけれど、どうにか追い返すことに成功した。もう、しばらくは会いたくないと思う相手なのだけれど、明日早速会う約束をしてしまった手前、そう言うわけにもいかない。
「リリスさん」
「……ルティアスもついてきますか?」
どこか辛そうな顔をしているルティアスに、わたくしは何気なく、そんな一言を放ってしまう。
「……えっ? 良いの?」
「えぇ、正直、わたくしだけだと色々と面倒ですからね」
本当は、言いつけを破って下りてきたことを言及した方が良いのだろうけれど、どちらかといえばわたくしを守ろうとしていた姿勢に、怒る気にもなれなかった。そして、気がつけば、わたくしはルティアスと明日、一緒にドラグニル竜国へ向かうことを約束していたのだった。
はい、魔族だけではなく、また別の種族からも求婚を受けていたリリスちゃんでした。
でも、ルティアスの方が好感度高そう?
それでは、また!