紙村征史楼の転生
ふらめです。今回は征史楼と転生を司る神様との対話です。神様もかなりやばいヤツ?かなり苦心しました。
ただひとり、ほの暗い空間にいた。腐臭がひどく、呼吸ができない。
だが、問題はなかった。呼吸しなくとも何か形容しがたい活力が体の奥底から湧いてきている。
ここは……どこだ?
俺は死んだはずではないのか?
手を握り、また開いてみる。確かに感覚はある。おそるおそる胸に手を当ててみる。拍動はない。
銃撃を受けて傷ついた体はそのままだ。風穴が胸に開いている。その間を空気が通り抜けていく感覚がある。身体の中を猫の舌で舐めずられているみたいで、気持ちの良いものではない。
俺は、何になったんだ?
「貴様は、生ける屍となったのだ。」
野太い男の声がした。やな声だ。教練を思い出す。立ち竦んでしまい、声も出せない。
……っ、生ける屍?
「そうだ。貴様の肉体はもはや生命活動をしてはおらん。あるのは感覚のみだ。」
……!!
間違いない。声に出していないのに、男は俺の疑問に答えた。理解が追いつかない。それに、死んだのに感覚がある、だって?
経験したことのない恐怖に襲われ、俺はぺたんとその場に座り込んでしまった。くそッ。こんなだから、俺は、俺は……。
「我は戦乱と狂気の神。グラディウスという名で通っている。」
ひっ、という情けない声すら出ない。姿を現した大男の姿は仁王尊のようだ。
「我は貴様が気に入った。ここでただ死なせるのはちと惜しい。貴様を別の世界へと生まれ変わらせてやろう。」
生まれ変わり?次から次へと意味のわからない言葉が噴出してくる。
「いかにも。ただし、ただの生まれ変わりではない。今、貴様の身体は我の加護ともいうべき魔の力によってのみ動いている。つまり、我が貴様への力の供給をやめない限り貴様は死ねない。生かすも殺すも我次第というわけだ。」
どういうことだ。ただ死ぬよりも酷いじゃないか。あまりにも理不尽だ!
「さよう。転生というのはそう都合の良いものばかりではない。チートスキル付与とか前世がバグ並みのステータスとか……。」
何を言っているのかさっぱりだ。
「貴様には関係のない話だ。今はな。いずれそういった輩と一戦交えるかもしれん。あるいは、手を結ぶか。いずれにしろ、生まれ変わった先での貴様の選択だ。」
理解がじわじわと回ってきた。俺は一度死んだ命をこの神に握られ、こんな死体のような姿になって見知らぬ世界へ放り込まれるというのか?
「大方合っているようで、根本が違う。貴様の命、魂はもはや我の管理下にはない。すでに貴様の魂は手続きによって三途の河だろうが、天国の門だろうが、適当なところに行っておるわ。我は知らん。」
え?
「言ったであろう、死体のような、ではない。貴様はすでに死体そのものだ。貴様の意識、感覚はかりそめのもの。我が形作ったものかもしれんぞ?」
背筋が、凍りついた。
俺は今、自らの頭で思考していると思っていた。だが、それが作られたものだというのか?この風穴を抜けるざらざらした違和感も?
いやな焦燥を感じた。そして、飛び込む先の世界とやらでも、こんな不安感を感じ続けるのだろう。
だが、同時に、ふつふつと自分のうちに感じる別のものがあった。
「ま、せいぜい頑張るのだな、元人間。そして喜べ。死体が好きで好きでたまらない貴様のためにある能力を授けよう。」
死体が好きなわけではない。必要に迫られたから俺はあんなことを……
「内なる自己を理解していないのも青さよ。だがいつかそれを理解せざるを得ない時が来る。そのときこそ我が授けるこの能力が大輪の花を咲かせるだろう。」
いったいなんだというんだその能力は?
「いずれわかる。懐に貴様が大事にしておった万華鏡があるだろう。」
懐をまさぐり、あの万華鏡を取り出す。たしかに、これは俺にとってなくしてはいけないものだ。
「その万華鏡に呪いをかけた。それがある限り、我と貴様の契りはほどけぬ。つまり、貴様が人間もどきを続けていられるのは、その万華鏡のおかげというわけだ。おっと、壊したり、それが貴様から一定の距離遠ざかったりすれば、その呪いが『あの娘』にふりかかるということになっておる。知っておるぞ?その万華鏡のいわれ。そしてどれだけ貴様が『あの娘』を想っておるか。」
……っ!
人を都合のよい玩具に仕立てておいてよくもぬけぬけと。あの娘を人質にして俺をぼろくずのようになるまで弄ぼうという魂胆か!
「我は貴様に機会と能力を与えたまでだ。」
くそッ。俺が望んだわけじゃないといっているだろう!
「かっかするでない。今は貴様の展望について話をしているのだ。かの世界に飛んだらその万華鏡を覗いてみよ。その万華鏡を覗けば今までのようなプリズムではなく、貴様の能力値が浮かび上がる。そして、貴様特有の能力がなんなのかもよくわかるはずだ。」
能力値だと?
「至るところに戦闘がはびこるかの世界では、その値を上昇させることが生存する方法だ。もっとも貴様はどれだけ痛めつけられようが再び死ぬことはないがな。だが、貴様が強くなり、それ相応の戦闘能力を身につけなければ我が面白くない。能力値を上げる努力が見られなければ、我の折檻が待っていると思え。」
……無為だ。
「なんだと?」
こんなものは無為だ!俺は死んだんだよ!死んでいるのに生きる努力をしろというのか?神であるお前の一時の楽しみのために。それこそ狂言回しじゃないか!
「はっは。狂言回しか。いい言葉を見つけたではないか。そうだ。お前は無為を楽しみ、死を生きるのだ。これほどまでに矛盾し、我に享楽を与えてくれる生はほかにないぞ。やはり貴様を見込んで間違いはなかった。」
ふざけるな!早くこの邪魔な感覚を消せよ!俺を殺せ!殺せよ!!
「くっくっくっ。ぐふっ、がっはっはっははははははははははははは!これは傑作だ!死体が殺してくれよと叫んでいるんだぞ?これが笑わずにいられるか!?」
涙が止まらない。言いようのない怒りだ。そして虚無だ。視界がくらんできた。
だめだ、ここで意識を失えば、もう終わりだ。終わりが来るのかわからない終わりがやってくる。やめてくれ……!いやだ!いきたくない!
「無為を楽しみ、死を生きる。分かりやすいではないか。期待しておるぞ。死体の紙村征史楼。」
ついに俺の意識はここで暗転した。
最後に聞こえた一言は、俺の第二の「生」を絶望に包まれたものにするのには十分すぎた。
異世界転生にはつきものの神とのやり取りをストレートな対話篇にしてみました。これから視点はどのようにして書いていきましょうか…。個人的には三人称のほうが書きやすいです。
彼の能力はいったい何なのでしょう。次回をお楽しみに!!ご感想お待ちしてます!
uのスピードにおいつけるかな…