プロローグ・紙村征史楼の狂乱
湯水ふらめことバカ三人衆の気分屋、ふらめです。
儚げ系日本男児ってなんか良いですよね。キャラが思い浮かんでからこいつはこれや!!って感じで妄想が膨らみました。果たして、征史楼の狂気とは…?
1944年、ニューギニア島。
連合国軍と日本軍のいくさは熾烈を極めていた。ラバウルの日本軍拠点はすでに壊滅、島全体にマラリアをはじめとする感染症の死の影が色濃く横たわっていた。
「死んで……たまるか……」
ひとりの脱走兵が、鬱蒼としたジャングルを彷徨い歩いていた。肩には小銃を担ぎ、かつて紅を湛えていたであろう頰はげっそりと浅黒くこけおちている。
彼、紙村征史楼には故郷に残した許嫁がいた。おしめの頃から共に育った幼馴染だった。
彼は懐の万華鏡を取り出した。幼い日、彼女と一緒に何度も何度もそれを覗いた。お守り代わりにと、出征の日に託されたのだった。
なんとしてでも故郷に帰る。狂おしいほどの意思が、しかし、彼を鬼に堕としていたのだった。
見る者の目を染めてしまいそうなほど青々と繁った草木を分けて、征史楼は焼け落ちた村にたどり着いた。そこに生気はなく、ごろごろとただ兵士だったモノが転がっている。
ぎらり、と征史楼の目に光が射した。生を渇望する目だ。口元からはだらしなく涎を垂らしている。疲労の限界にありながらもどこか精悍さを浮かべていた彼本来の面影はもう、どこにもない。これから彼の食料選別が始まるのだ。
「これは、食えない……」
蛆のわいたそれを押しのけ、積み重なったそれらの中から、なるべく旨そうなものを見つける。早く、早く!もう待てるか!
やっとのことで食料を見つけた。すでに彼の目に先ほどまでの暗い影はない。その双眸には恍惚をも疑わせる怪しい光が灯っている。
60kgはあろうかという肉の塊に、征史楼はかぶりつく。鮮血が彼の顎を染める。
彼にとって太ももの筋繊維を噛みちぎるのは、スルメを噛みちぎるよりもたやすい。それどころか、狂気の戦乱の下止まりかかった脳の歯車を高速で回転させるための潤滑油を彼の下垂体から分泌させた。
人を食う禁忌に快楽を覚える食人鬼。彼、紙村征史楼はそこに身を堕としたのであった。生きるためにやむなく始めた行為は、いまや彼が渇望する至上の悦びとなったのだった。
行為を終え、彼は一息ついた。いつものことだが、食い荒らした死体に征史楼は鋭利な美しさを感じる。見ず知らずの名を持っていたモノが、この瞬間だけはたまらなく愛おしく感じる。芸術品となったその食い残しを、今度は触れて、舐めて、眺めて、愛でる。行為後の征史楼は、もはやいち脱走兵でも鬼でもなく、死体をこよなく愛する芸術家であった。
がさり。
突然、征史楼は慄き、後方を伺った。
ザッザッ、とかすかに生きた気配を感じた。
やにわに、征史楼は駆け出した。連合軍の歩兵小隊が近づいてきたのだ。
2、3の兵士が征史楼を捕捉した。
ダダダダダダッ!
機関銃の音が、急速に征史楼の心に死の実感を浸透させていく。
足がもつれる。動かない。緑のスクリーンはコマ送りのよう。
――生きたい!
人間としての彼は純粋にそう祈った。だが、その次の瞬間、何故か死体を食う感触が口腔に蘇った。
――そうだ、俺の生はすでに死体を食うことで満たされるようになってしまったのだ。俺がこんな食人鬼に身を堕とした故は、戦乱の狂気か、それとも……。
「がぁっ!」
数発の弾丸が、征史楼の心臓を捉えた。刹那、幼き日、あの娘と覗いた万華鏡の中の世界が、眼前に鮮やかに広がった。
――あの娘の味を知ることなく、この生を終えるのか……。
はっきりと、彼女の肉体を、征史楼は思い出した。だがその顔はもう、思い出せない。
眩いばかりの閃光につつまれた。紙村征史楼は19歳にしてその人間としての生涯を終えた。
リレー小説というか、パラレル小説?になっていくのでしょうか。今後まったく違う境遇から転生、転移した3人の運命が同じ異世界で交錯していきます。
uは凡庸だが世界の救済を求める青葉巡、mizuは生まれながらにしてチートの万能系王子、御剣月兎からの目線で書いています。ぜひ合わせて読んでいってください。
湯水ふらめ、3人でひとり。これからよろしくお願いします!!