4話
……あれ?
「無理ですよ? 生体エネルギーはもう無いので肉体的変化を齎す事はありません。精神体となった今、意識だけなんです。声に至っては念です」
勃って! 勃つのよクララ!!
「いやもう貴方様の下品さには反吐が出そうですが、諦めてください。見守る事と、ぅぁぅぁ呻く位しかできません。それが地縛霊です。もう、死んでるんです」
絶望に打ちひしがれながらも、取り敢えず早乙女さんをガン見しておく。
「いやいやマジ執念パネェですね変態童貞マジ卍」
変態に変態の称号を頂いた屈辱も、今の僕にはどうだって良かった。流れぬ涙を、手で拭えぬ涙を、ただ流す事しかできなかった。
「……次の場所、行きますか?」
もう良い。もう充分。もう其処の道端で良いっす。適当で良いっす。
――あれから幾月経ったのか。否、幾年だろうか。
変態の天使が傷付いた僕へ丁寧に言葉を紡いでいたけれど、届かなかった。響かなかった。
だって、結局はただの地縛霊。もう終わった存在。何も出来ない。
決して不甲斐無い下腹部に絶望したからではない。余りにも無力な自分の状況を認識して、それに絶望したのだ。
早乙女さんの家の外にある電柱の下。其処が僕の永遠の場所。
ここに居ると時折通り過ぎる彼女を見る事ができる。永遠の中で訪れる唯一の幸せ。あと、たまに犬に吠えられる。
僕の人生なんて、永遠なんて、この程度が丁度良いんだ。嗚呼、排気ガスが充満する様な道端だけれど、空だけは綺麗だ。そして、早乙女さんも綺麗だ。
社会人になったであろうか、スーツを身に着ける彼女が気早に家を出る。仕事に遅れそうなのか、そんな慌てている彼女も綺麗だ。
すると突然、道の向こうからトラックが爆走してくる。霊的な何かしらのアレなコレで分かるのだが、あれは居眠り運転だウン間違いない!
彼女が、早乙女さんが危ない!! 早乙女さんも時間を気にしてか、トラックには気付いていない。
僕が、僕がどげんかせんとイカン! 死人だけに死語はお手の物だッ!!
『早乙女ざん゛ん゛ん゛!!!! あ゛ぶない゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!!!』
「ヒィ! 何!? だ、誰!?」
僕の呻き声に慌てる彼女。頼む、気付いて逃げてくれ!!
「喝ッ!!」
早乙女さんが不可思議な印を結ぶと、何処かで聞いた事のある叫びを放った。
急速に干上がる水の様に、僕の体が消えて行く。
「私、ネトゲではヒーラー固定なの!」
なるほど。何を言っているのか分からん。
まあ、最期に早乙女さんを守る事ができたのが幸いだっt「まだ居る!? 喝ッ!!」
……。