2話
「あっ、そうそう。注意事項としては“地縛霊”と云うからには其処から離れられません。僧侶的な人に『喝ッ!!』とかされない限り永遠に同じ場所に存在します。故に、永遠に居たい場所を選んでくださいね」
選んでと言われても……思い付くのが自宅しか無い。こんなに悲しんでいる両親から離れるなんて僕にはできない。
「はい! では、お試しでご自宅ですね! 早速移動しましょう……ルーラ!!」
全裸の変態中年が謎の言葉を唱えると、体が居た場所から弾き飛ばされる様に空へと舞い上がり、瞬く間に自宅へ着いた。なんだこれ。
「ついでに時間も少し経過させました。ご都合主義です。あっ、ほら、貴方様のご両親が!」
……目をやると、居間で神妙な顔をして黙り込んでいる両親が居た。
ここまで育てて貰ったのに、申し訳ない。今の僕は、物にすら触れられず声も届かず、ただ見守る事しかできない……。
こんな姿になっても甘えてしまう事になるだろうけれど、せめて此処に居る事を許してください……。
「え? 声なら届きますよ?」
……え? え? え??
「いや、貴方様が一切喋らないから、私はサイコメトラーEIJI的に読み取ってあげているだけです。喋れますよ?」
『……あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛!!!!!!』
……えっ、なにこの声。このデスボイス。
「あー、でも霊的なレベルが高くないと呻き声っぽい感ですけどね。あはは」
咄嗟に叫んでしまったデスボイスに、先程まで黙り込んでいた両親が慌てて辺りを見回した。
「ヒィィィィィ!!」
「う、呻き声! だ、だ、だ、誰だ!?」
僕の死人たる声に悲鳴を上げる両親。無理もない、僕が自分自身一番驚いている。だが……伝えなければ。
『……どぉざん、がぁざん、……ご、ごめんね゛ぇ゛ぇ゛!!!!』
霊的なレベルとか、どうだって良い。
僕は、僕の気持ちを両親へ伝えたい。父さん、母さん、ごめんね。本当にごめん。親不孝者で、ごめん。そして、沢山の想い出……ここまで僕を育ててくれて、今迄ありがt「ヒェェェェェェ!!!!!!!!!! す、す、すまん! ワシは父親失格だ! すまん!」
発狂しながら父さんが謝罪を述べる。そんな、謝らなければいけないのは僕なのに。父さん……。
「こっそりお前に掛けていた生命保険で何を買おうか迷っていた! 父さん、車が欲しい!」
土下座しながら叫ぶ父さんに、母さんが続く。
「こめんなさい! ごめんなさい! 母さんはヴィトンのバックが欲しいのごめんなさい!」
「あと、お前ワキガだったから! 異臭が消えた!」
「ごめんなさい! ごめんなさい! 空気が綺麗で、ご飯が美味しい! 成仏して!」
「あらーー……ご両親様は、貴方様が居なくなって案外ハッピーな感じですねぇ……」
息子の死を悲しんでいたんじゃないのか……もう良い! グレてやる!
『……う゛ぁ゛ぁ゛……禿げろジジィィィィ!!!!!!』
「止めて! そんな絶望的な呪い、止めてぇぇ!!」
――僕は捨て台詞を吐いて自宅を後にした。親も所詮は欲に塗れた人間。仕方が無いのか。