9.リアルバトルバディ
「内側のゲートが開いたら、ゲーム開始です。入り口付近にステージの情報とクリア条件が表示されていますので、確認して下さい。クリア条件を満たして出口の前に立てば、次のゲートが開きます。そこから先も、二重ゲートの内側が開く毎に開始となりますので注意して下さい」
運動場に展開された特設ステージの入り口で、生徒会の人ではなく企業の人と思しき女性から、装備のチェックをされながら説明を受けた。
「準備はいいですか?」
最終確認に、二人とも無言で頷く。
「では、中へお進み下さい」
外側のゲートが開くと、通路状の狭い空間が現れた。
俺たちはその中に足を踏み入れる。
外側のゲートが閉じ、一時的に闇に呑まれる。直後、内側のゲートが開き、照明の光が漏れてきた。
正面に、壁。そこに、このステージの構成とクリア条件が書かれていた。
『このステージには敵はいません。クリア条件は、台車に乗って移動する間に、左右に十五個ずつある標的を二人で合計二十個以上破壊すること。二十個に満たない場合は最初からやり直しになります』
中に進むと、縦に二人乗れるように椅子が据え付けられた台車らしきものがあった。
とりあえず、俺が前に、武井さんが後ろに座った。俺の正面に、点滅するボタンらしきものがあったので、それを押してみる。すると、台車が動き始めた。
左右にある障害物の隙間から、標的らしきものが現れて。俺は、左側のそれを片っ端から撃ちまくった。右側は武井さんが撃っているだろう。
ステージの反対側で台車が自動的に止まった。
『標的、二十八個の撃破を確認。ステージクリアです。次のステージに移動してください』
正面のゲートが開く。入り口と同様に、通路状の闇が見えた。
俺たちは無言でそこに入る。
次のゲートが開いた。正面の壁に、また解説が書かれていた。
『このステージでは、中央にある通路の両側に設置された障害物の外側に、敵が待機しています。クリア条件は、出口のゲートまで辿り着くことです』
ご丁寧に、MAPの図解まで表示されていた。
撃破不要のステージ。だけど、おそらくそれは罠。
俺は、武井さんと顔を見合わせて。彼女は頷いて、右側の障害物によじ登り始めた。俺も左側の障害物に登る。
障害物の上から、再び目を合わせて。お互い頷いて、腰を低くしたまま走り出した。
案の定。妨害側の連中は、障害物の切れ目で待ち伏せしていた。障害物の向こう側には遮蔽物が無く。それを俺たちは、障害物に身を隠しながら、上から頭と利き腕だけを出して、全員仕留めた。
「うわっ」
「きたねぇぞ」
妨害側の連中が喚くのが聞こえた。
当然そんなものは無視して。俺たちは切れ目から通路に降りて、足早に出口まで進んだ。
『到達確認。ステージクリアです。次のステージに移動してください』
前と同様に、ゲートが開いて、次のステージ進む。
『このステージでは、中央にある高さ百五十センチ程度の台座の上に、敵は伏せて待機しています。クリア条件は、プレイヤーそれぞれが最低一人ずつ敵を倒した後、出口のゲートまで辿り着くことです』
擂り鉢状のMAPが図解で表示されていた。敵が待機している、擂り鉢の底にある台座の手前は、もっと高い壁で仕切る様に塞がれていて、両側が通れる様に空いていた。
敵の配置次第だが、匍匐前進で抜けれそうではあった。だが、条件に各一キルが加えられているから、それは無しで。敵とやり合う必要はあるが、上から攻撃されるのは厄介だから、やるべきは敵より更に上から攻撃すること。俺たちは少し先まで進んで。武井さんは振り返って俺を見て、そして走り出した。入ってきたゲートに対して、左から右方向に駆け上がる。
俺も、彼女に少し遅れてから、彼女とは逆方向に走り出す。斜めに切りあがった壁を、俺たちは走ることで上まで登って。仕切り壁まで辿り着く頃には三メートルくらいの高さに達していた。
伏せている敵を上から撃つのは簡単で。逆に、敵は最初それに気付かず。
中央付近は倒せたか判らなかったが、周辺に配置された敵は全部片付けて。通り抜ける頃には疲れて足も止まり、斜面を滑り降りた。
ほぼ同時に、武井さんも降りてきた。
『到達及び、敵の撃破を確認。ステージクリアです。次のステージに移動してください』
ゲートが開いたが、暫し足を止めて。少し息を整えてから、お互いに頷いて、先に進んだ。
『このステージでは、中央の壁の向こう側で、敵全員が伏せて待機しています。クリア条件は、全ての敵を殲滅することです」
先ほどのステージと違い、両側の壁は垂直に切り立っていて、壁走りは使えそうにない。そして、中央の間仕切り壁はさっきより低く、二メートルちょっとだったから、攻略箇所はここかと予想。武井さんを見ると、既に入り口近くから左側に移動していた。
俺は中央の壁近くまで走って。少し右に寄って、そこで壁に背を向けた。そして、両手の指を組み、掌を上に向けて、バレーのレシーブみたいな格好をして、武井さんを見た。
武井さんは、俺の目を見て。一回深呼吸して、俺目掛けて走り出した。
俺の目の前で少し跳ねて、左足で俺の両掌に着地した。俺は、俺に全体重を預けた彼女を、思いっきり、上に投げ飛ばす。
彼女は弧を描いて、壁の右上端に着地。俺はそれを待たずに、即座に左側にダッシュした。
伏せて待機している敵に、武井さんは容赦なく上から銃撃を浴びせて。彼女を視認した敵が反対側に逃れて来るのを、俺が撃ち倒して。二十秒と掛からず全滅させることが出来た。
そこまでやって、今更ながら、壁の上から彼女を降ろす方が心配になったのだが。プレイヤーが声を発したら敵側はそれを登る予定にでもなっていたのか、反対側にはいくつか段差が用意されていて、辿って降りることが出来たのだった。
ゲートの前まで歩く。
『敵の殲滅を確認。ステージクリアです。次のステージに移動してください』
あといくつステージがあるのかと考えながら先に進むと、次が最終ステージだった。
時計は持っておらず、携帯電話は持ち込み不可だったので正確な経過時間は判らないが、感覚的にはまだ猶予はあると思う。
『これが最終ステージです。このステージには敵はいません。クリア条件は、MAPに表示されている二箇所の標的を、誤差一秒以内で同時に撃ち抜くことです。ただし、中央の道から落ちた場合はゲームオーバーになるので気をつけてください』
少し拍子抜けしたが、これがタイムアタックであることを思い出す。
MAPと実際の地形を見比べて。標的の場所が面倒な場所にあることが判った。
仕掛けの中央に、幅一メートル、長さ三メートルほどの道があって、標的はそこから左右斜め下に大きく覗き込まないと見えない場所にあったのだ。そして、それ以外の方法では標的までの射線が通らず、なおかつ道にはつかまる場所すら無い。
そんな状況だったのだが、武井さんは迷わなかった。
俺より先に、中央の道の中ごろまで歩いて、右から三分の一くらいの位置を左足でしっかり踏みしめて、俺に左手を差し出した。
俺は彼女の元に駆け寄り、彼女の左足にぴったり添える様に、自分の右足を置いて。差し出された左手の手首を右手で掴んだ。彼女も、俺の右手首を掴み返して。彼女は俺ににっこりと微笑んだ。俺は彼女に頷く。
そして。二人で組み体操の扇みたいに左右に展開した。切り立った道の側面に、空いている足を突き立てて、態勢を整えて。斜め下に体を伸ばして、標的を目視。俺たちは合図を交わすことなく、ほぼ同時にそれを撃ち抜いた。
『標的の撃破を確認しました』
この時点でクリアかと思ったが、最後まで歩いて行こうと思い、側面に突き立てた足を伸ばして、彼女とお互いを引っ張り合って。タイミングを合わせて、どうにか再び道に並んで立つ。
名残惜しいが、掴み合った手を離して。俺たちは並んで、最後のゲートに向かった。
『ステージクリアです。おめでとうございます。あなた方は、全てのステージをクリアしました。所要時間、四分二十八秒でした。お疲れ様でした』