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バトルバディ  作者: KARYU
3/10

3.勘違い

 翌日の昼休み、いつものように一人で昼食を摂った後、携帯の電源を入れた。直ぐに、メールの着信音が鳴る。実は、寝る前にバッテリーが切れていることに気付いて、朝まで充電した後、電源を入れずにそのまま持っていたのだ。だから、その間に来た転送メールが溜まっていたのだった。

 今ではメールしてくる人も減っていたが、それでも四件あった。

 新しいメールから逆順に確認して。皆、文面は殆ど変わらない。メールを読んでいる間も、二回、メールの着信があった。色んな人がプレイしているから、生活時間帯が違う人も結構いて。そして、仕事や学校の昼休みを利用して遊んでいる人もいるみたいだった。

 「あーっ。なんだか頻繁にメールが来てるみたいだけど、あやしいサイトとかに登録したんじゃないの?」

 俺の前の席で、隣の柏さんと仲良く机をくっつけて昼食を摂っていた鳥居さんが、俺の方に振り向いて、微笑みながら俺をからかった。

 彼女は、俺とは対照的で、人気者だった。結構可愛くて、社交的で成績もよくて。そんな彼女だったが、いくら社交的でも特に理由もなく俺と話すことはなかったので、これまで数回会話をしたことがあるレベルの関係だった。だから、今日は少し珍しい事態だった。

 「ちちちちゃうわ!」

 わざとらしく動揺して見せる。彼女と柏さんは、そんな俺を見てクスリと笑った。

 見ると、彼女らも手に携帯を持っており、ちょうどそういう話をしていたところだったらしい。

 メールの続きを見る。次のメールに、見慣れた文言が書かれていた。

 『フラグブレイカーさんへ』

 思わずニヤリとしてしまう。

 『ちょっとだけ焦らしてみました。もし私のことを気にしてくれたなら、一度くらい返事が欲しいな。一緒に遊ばないまでも、お話くらいしてみたいの』

 自分でバラしてどうする、と思ってしまったので負けだと感じて、返信することにした。

 『ちょっと話をするくらいなら、いいよ』

 転送メールに対して返信すると、ゲームサーバ側で自動的にゲーム内メールに変換して、送信してくれるのだ。正確に言うと、転送に必要なタグが付加されていて、引用返信するとそのタグ情報から自動的に変換してくれるのだった。

 送信後、次のメールを見る。NTからだった。タイトルは無く、

 『昨日は楽しかった』

 とだけ。送信時刻は朝の六時頃だった。

 俺は、

 『俺も。また遊ぼうな』

 と返信。

 そして、携帯の電源を切り、トイレに向かった。



 教室に戻ると、俺の机に誰かが腰をかけていた。

 「あ、悪い」

 俺の姿に気付いて、腰を上げる。隣のクラスのやつで、確か、東とか言っていたっけ。整った顔立ちで、女子からは人気があるみたいなのだが、鳥居さん目当てであることを隠そうともせず、時々このクラスに遊びに来ていた。

 「いや、いいよ」

 俺は自分の席に座り、彼らの様子をなんとなく見ていた。

 東は、鳥居さんと話をしているにも拘らず、少し不機嫌そう。

 対照的に、鳥居さんは携帯を見てニコニコしている。

 横に居る柏さんは、

 「なぁに、奈那子ったら。意中の人がいたのなら教えてよね」

 などと突っ込んでいた。

 「いや、そんなんじゃないのよ。ないんだけど……ちょっと気になってる? みたいな?」

 鳥居さんは曖昧に誤魔化す。なるほど、その様子を見て、東は不機嫌になっていたのか。

 「……絶対、そんなやつより俺の方がうまくやれるって」

 恨めしげに、東が呟く。

 「そんなこと言わないでよ。何事も経験よ、経験。それに、まだ……」

 その会話だけ聞いていると、ちょっといかがわしく思えてしまうのだが。

 「……まぁ、いいさ。今日は俺の番だからな。じゃぁ、また夜に」

 言い残して去る東を目で見送った柏さんは、鳥居さんに向き直る。

 「奈那子……あなた、何かいかがわしいことしてるの?」

 その暈しながらもストレートな表現に、思わず噴出してしまう。

 鳥居さんは、柏さんと俺を交互に見て。

 「や、やあね。そんなんじゃないのよ。ゲームよ、ゲーム」

 彼女は照れたように、手をひらひらと振った。その仕草はちょっとおばさん臭い。

 「私、実はゲーマーなのよ。ネトゲ歴三年」

 彼女は小声で打ち明けて。秘密にしてね、と付け加えた。

 ちょっと以外な気もしたのだが、結構女性ゲーマーは多いと聞く。NTも多分JKだし。

 そう思ったところで、ふと、あることに気付いた。

 目の前にいる、ゲーマーの鳥居さん。下の名前は、奈那子。イニシャルだと──NTだった。

 あの、俺と息がぴったりなNTが、目の前にいる彼女……かもしれない。そう思うだけで、俺は理由もなく焦ってしまった。

 「や、やだ。そんなにショックだった?」

 俺の様子がおかしかったのか、鳥居さんが微妙な顔で俺を窺っていた。俺みたいな男子からの目も、一応気にしてしまうらしい。イメージを守るのも大変だな、などと妙なところで感心してしまった。

 「ああ、いや。どんなゲームやるのかな、と思っただけだよ」

 内心を誤魔化す。

 「あら、そうなの。私、結構色々と手を出してるのよ。ジャンルも色々。水鳥君はゲームとかするの?」

 誤魔化されてくれたみたいだ。

 「うん、普通に遊んでるよ。ネトゲに手を出したのは最近だけど」

 「へぇ。じゃあ、どこかでニアミスしてるかもね」

 満面の笑みを浮かべる彼女に、少しドキリとした。

 結局、動揺しすぎて彼女が何のゲームをやっていて、何というハンドルを使っているのか、聞けなかった。

 東の口ぶりから想像を巡らせて。俺の方がうまくやれる、とか、今日は俺の番だ、という言葉。そこから推察するに、それは二人組みで遊ぶゲームではないか。最近、スポーツ物はそう流行っていないこともあって、俺にはそれが、バトルバディではないかと思えて仕方が無かった。

 そのことばかり考えてしまって。午後の授業は、全く頭に入らなかった。


サブタイトルでネタバレとか(ry

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