1.出会い
夏休みも中頃に起きた出来事だった。
バトルバディというオンラインゲームでの一幕。
「ミトミトさん。フレンド登録、させていただけないかしら?」
NTと名乗る彼女の第一声。ゲームをクリアして、フィールドから引き上げる間際での言葉だった。
ミトミトというのは俺のキャラの名で、自分の氏名、水鳥湊からのもじりだったりする。
ログインしてから初めての会話。
音声はある程度変換が出来るので、素の声かどうかは判らない。ひょっとしたら、性別すら違うかもしれない。ただ、その口調込みでの印象は、活発なお嬢様。
「あ、うん。いいよ」
気持ちのいい余韻に浸っていた俺は、彼女の申し出を二つ返事でOKした。それが、このゲーム中で、初めてのフレンド登録だった。それまで、ずっとぼっちだった。二人プレイ専用のゲームをやり続けていたにもかかわらず。
***
それは、奇妙な感覚だった。
ランダムマッチングゲームでのこと。彼女とペアを組むのはこれが初めてだった。
そこはどこかの遺跡を模したフィールドで。ランダムマッチングでは、ペアだけでなく、ステージや仕掛けもランダムに決定されるため、毎回新鮮な気分でプレイできるし、緊張感も維持出来た。
そんな中、俺達は言葉を交わすことなく、簡単な合図だけで先に進んだ。このゲームでは、声を出しての会話でもテキストメッセージのやり取りでも、不正確ではあったが敵にある程度の位置情報が渡ってしまう。だから、話をするのは最小限に留めるのがマナーだった。そのため身振り手振りで意思疎通を図る必要があるのだが、それにも限度があったし、チュートリアルで全プレイヤーに指導されているモーションはそこまで多様ではなかった。判り易い派手なモーションでは敵に見られたら筒抜けになってしまうという問題もあった。見知ったパートナーとのプレイであれば、自分達だけに通じるモーションをあらかじめ決めておくことで多少はどうにか出来るのだが、ランダムマッチングではそれも望めない。
だけど、俺達は。方向を示し、頷くだけで、お互いに相手の意図が殆ど見通せていた。
相棒は、今、何をしようとしているのか。
相棒は、今、自分に何を望んでいるのか。
自分は、今、何をするべきか。
自分たちは、次に、どうすべきか。
その認識がうまく噛み合うのだ。それは、あたかも長年連れ添った相棒の様に感じられるほどだった。だから、状況確認で立ち止まる以外、俺たちは素早く進み続けた。
その結果。俺たちは、ランダムマッチングのランキングベストスコアを大きく塗り替えたのだった。
***
小さい頃から俺は、難儀な性格をしていたらしい。
なんというか、説明が難しいのだが、周囲の人間と感性が合わないというか。他人が自分と『違う』ということに、過敏に反応してしまうのだ。他人と自分が異なることなど当たり前なのだが、いくつか選択肢がある場合に、他人が自分と違うモノを選ぶことが癇に障ったらしく、どうしてそれを選ぶのか問いただしたり、癇癪をおこしたりしていたらしい。
それも小学校高学年頃には落ち着き、過敏に反応するようなことは無くなったのだが、その頃には周囲との人間関係もひどい状態になっており、改善されることはなかった。
中学に入ってからは、いくらか対人スキルも改善され、過去の俺を知らない別の小学校出身者とは会話が成立するようにはなった。
四月から始まった高校生活は無難に過ごせていたと思う。
相変わらず友達と呼べる相手はいなかったが、表面上はクラスの誰とでも普通に接することが出来ていた。
***
バトルバディは昨年末にリリースされて以来、気にはなっていたものの、当時は受験前で手が出せず。受験後は他のことに目移りして小遣いを浪費してしまい、いざやろうと思ったときには初期費用に小遣いが足らず、暫くお預け状態になってしまった。
夏休みに入って、友達がいない俺は持て余した時間をゲームに費やすことを考え、小遣いも貯まったことから気になっていたバトルバディに手を出すことにした。
このバトルバディは二人プレイ専用VRMOというニッチな作品で、その内容の面白さや完成度の高さの割りにプレイ人口は他のMMOなどと比べて少なかった。それでもネット上で話題になるくらいには評判も知名度も高かったのだが。
AIをパートナーにしたソロプレイも一応可能ではあったのだが、連携が肝のこのゲームにはAIでは荷が重かった。だけど、パートナーをランダムに選ぶランダムマッチングモードが用意されていたから、ぼっちな俺でも一応普通に遊べたのだった。ロビーで誰かに声を掛けて、一緒に遊ばないかと誘う様なコミュ力は俺には無かったから、ランダムマッチングは俺にはすごくありがたかった。
区切りや並びが読みにくかったらごめんなさい。