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小さな違和感

新たにブックマーク登録して下さった方々、ありがとうございます!とても励みになります。

また、先日ユニーク数が10000を突破しました!

いつも読んで下さる読者様方、本当に感謝しております。

それでは、重要回なのでいつもより長めです。

静けさ漂う図書館に、コツコツと音を立ててこちらに向かう一つの足音。結衣がじっと息を潜めて待つ中で、とうとうそのぬしは姿を現した。


「…なんだクライン、驚かさないでよ」


「気配で誰かいるとは思ったがユイだったか。お前も調べに来たのか?」


(ん?お前“も”ってことはクラインも何か調べ物かな)


「うん、ちょっと魔女に関する追加情報を求めにね。もしかして、クラインもそう?」


「あぁ、無駄足だとは分かってるんだが…何かしてないと落ち着かねえんだよ」


「そっか、同じだね。私も落ち着かないや」


互いにハハハと軽く笑いつつも、今の会話で2人は察した。あと6時間程しか残されていないにも関わらず、まだどちらも打開策を見つけられていないのだということを…。お互いの心情を思って直接言葉には出さないが、このままでは無策で真夜中を迎えてしまうと、内心かなり焦っている。

無言になった2人の間に流れる空気は、まるで葬式の如く重々しい。


「そういえばさっきフローラが来たぞ。イーチゴケーキ、ユイも作ってくれたんだってな。旨かった、ありがとな」


(クライン…この空気を変えようとしてくれてるのはひしひしと伝わってくるんだけど、声で無理してるってバレバレだよ)


だがそれを指摘するほど結衣は空気を読めないわけではない。だから精一杯明るい声で、結衣も言葉を返すのだった。


「フローラ、すごく頑張って作ってたから、美味しくて良かったよ…甘々な展開にはなれましたかクラインさん?」


「っ!ひ、秘密に決まってんだろ!?」


秘密だと言いながらも、クラインの顔が赤らむ。これでは何かあったと肯定しているような物だと、結衣はクスリと笑う。


「ほほーう、つまり秘密にしたくなるような事があったのですな?!なかなかやりますなぁ、クラインさん!」


(マジか、ほんとに何かあったんだ?!正直すぐ赤くなる純情クラインのことだから、何もないと思ってたのに…さすがはフローラ一筋の男。やるじゃん!)


「ね、ねぇよ!そんなことよりお前がさっきから後ろ手に持っている本は何だよ。何か書かれてる物でも見つけたのか?」


「いや…これは別にただの本だよ?クラインが読んでもつまらないと思うよ?」


(話そらした上に、答えにくい質問来たーーっ!やめてくれクライン、仕返しのつもり?!)


「ふーん、それは俺が自分で決める。ほら、見せろよ」


「あ!ちょっ、ちょっと!」


クラインはガシッと彼女の片手を掴み、あっという間に背後に回り込んで、結衣の後ろ手から本を奪う。彼に本を奪われるまで、まさに一瞬の出来事だった。クラインは取り上げたそれを覗き込むと、怪訝そうな顔になる。


「なんでこんな物見てるんだ?というよりよく見つけたな。これだいぶ奥の本棚にあったはずだろ」


「ハ、ハハ…たまたま偶然見つけたんだよ~。それで中が全部白紙だったから、気になっちゃって」


「そうか、だがなぜ隠してたんだ?別に隠す必要なかったと思うけどな」


(いやだって、一部とはいえ中を読めちゃってるんだよ?!いつボロ出しちゃうか分からないのに、わざわざ持っているとこ見られたくないじゃん!)


などと結衣がクラインに言えるはずもない。この本が“読める”とバレた時点で、魔女でなくても魔女だと思われ、速攻で封印されてしまうのだから。


「いやぁ~禁書とかだったらマズいかなぁって…アハハ。これ随分古いみたいだしさ」


「そうだったのか、別にそれを見たところで何も罪にはならないぜ。そもそも白紙なんだからな。まぁ何故か処分しようとすると、いつの間にか戻って来てるらしいから、もしかしたら魔女関連の本だったりしてな」


(何それ地味に怖いわっ!さすがは魔女の書いた魔術書、そう簡単には処分されないってわけね)


「まぁ、題名からして魔女関連っぽいもんね。あ、もちろん中は読めないけどさ」


「ーーーーーは?」


目の前で笑っていたクラインの顔が、突然凍りついたかのようになる。目は大きく見開かれ、こちらを捉えて離さない。まるで彼の周りだけ時が止まったかのように、クラインはしばらく動作を停止した。


「どうしたの?」


「…おいユイ、お前今ーーー何て言った?」


「へ?“もちろん中は読めないけどさ”って言ったけど」


(クラインの様子が何か変だ。一体どうしたんだろう…私別に変なことは言ってないよね?)


「…その前だ」


「“題名からして魔女関連っぽいもんね”?」


そう結衣が再度言い直した途端、部屋の空気が一変した。そして、彼女を見つめるクラインの目がーーーまるで敵を見るかのような目つきになる。

彼の様子に結衣の心臓はドクドクと脈拍を速め、部屋には緊張感が漂い始めた。


「ねぇ、一体どうしたの?」


「…一つ、質問に答えろ。この本の題名には、何と書かれてるんだ?」


「こ、光闇魔術書…だよね?」


恐る恐るそう返す結衣だったが、クラインの目つきは鋭さを増す一方だ。


「…ほう、そうかーーー」


結衣にそう返した声音までもが低かった。彼女には一体何が彼をそうさせているのか、理解出来ない。


「待って待って待って!訳が分かんないよ!どうしてそんな目で見てくるの?!私、何か変な事言った?!」


(私、クラインにこの本を持っているところ見られたのって、確か初めてじゃないよね?あの時は特に何も…)


そう、クラインと白紙の本に関する会話をしたのはこれが初めてではない。最初にーーー王妃とこの王室図書館に初めて訪れた際、クラインとも話しているのだ。結衣は必死でその時の彼の言葉を思い出す。






“あぁ、この本を見せてもらってたのか。こんな白紙で何の本なのかも分からないやつ、見ても面白く無かっただろ。まぁ、珍しくはあるけどな”





(特に変なところはないよねーーーーーーあれ?)




思い返して、結衣は彼の言葉に違和感を覚えた。

それはとても小さくて、聞き逃せば忘れてしまいそうな程の、小さな違和感。




(白紙で、“何の本かも分からない”?いや、だって題名に“魔術書”って書かれて…)




まさか、と結衣の両目が大きく見開かれる。思い返した言葉の内容と、今のクラインの態度から推測される一つの結論。それはーーー



「まさか…読めないのは中だけじゃなくてーーー“題名”も読めないの?!」


結衣の驚きを含んだ声が、静かな図書館内に響き渡る。それに対する否定の言葉は、クラインからは紡がれない…。その反応で彼女の推測は、確信へと変わるのだった。


「白々しい態度はやめろ。俺は今、事実を受け入れたくはない…混乱している。悪いがそのまましらを切り通すつもりなら、剣を抜くことを俺は厭わないからな」


「待って!お願い、話を聞いて?!」


結衣の声など聞こえていないかのように、クラインはただ冷酷な、でも悲哀の含んだ表情で言葉を続ける。


「正直俺には分からない。なぁ、お前の態度は…言葉は…どこからが本物で、どこからが偽りなんだ?あのとき俺のためにと流した涙は偽りか?牢屋近くでのあのやり取りも全てーーー偽りだったのかよ?!」


「違っ!全部私の本心だよ!偽りなんかじゃない!私の目を見て!!嘘かどうか分かるでしょう?!」


(お願い信じてクラインっ!私は魔女なんかじゃない!私はただあなたを救いたいだけなんだよ!)


「そうだな、そうやって俺たちを欺いて来たんだろ?時間が近づくにつれて焦る俺を見て、お前は嘲笑っていたんだ!!」


「そんなっ!違うのに!私は魔女なんかじゃないのに!!」


結衣の必死の否定の声も、もはやクラインには届かない。むしろクラインはその態度を、哀れにすら感じていた。


(今俺の目の前にいるやつは、ユイだけどユイじゃない。中身は魔女だ……だけどあの牢屋の近くの廊下でこいつは、俺の死に対して本気で苦しんでいたーーーように見えた。あれも全て、演技だとでもいうのか?!くそっ!分からねぇ、俺はこいつを!!信じたいのに……)


クラインにとって結衣は、フローラの命の恩人であり、短い付き合いでもあるにも関わらず信頼出来ると感じた存在。そんな彼女が魔女である事実は、彼の心を苦しめた。彼女の中身が変わったことにも気付けずに、結衣の不用意な発言によってしか分からなかった彼女の正体。悔しさと悲しみと、まだ否定したい気持ちとーーー様々な感情がクラインをまとう。


だからこそ、聞きたい。

だからこそ、はっきりさせたい。

そう強く願うクラインは、すがるような目つきを結衣に向けた。



「なぁーーーお前はいつから、“お前”じゃなくなったんだ?答えろよ!!」



責めるような口調で叫ぶクラインの目にはもう、目の前の“結衣”が写されてはいなかった…。






とうとう小さな矛盾点を書くことが出来ました!

この矛盾点に気付かれると、早い段階で色々と感づかれてしまうので、今日まで気付かれないかドキドキでした笑大丈夫だった…はず!!

気付かれた方、おられましたら挙手お願いしますw

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