敵か、味方か
今回も引き続きシリウス・クライン編です。次回からは再び結衣達の方へ戻る予感。そしてまもなく第3章の佳境に入ります!どうなるクライン、救えるのw?
また、この後修正を更新して、ようやく終了です!長く掛かってしまい、申し訳ありませんでした。
「ご迷惑お掛けして申し訳ありませんでした、主」
数分後、正気(?)に戻ったシリウスが、アイヴァントに深く頭を下げて謝罪をする。その様子に苦笑しながらアイヴァントは、
「いやわしは構わんのだが…弟の方がその…なぁ?」
言われてシリウスがクラインの方に目を向ければ、そこには半ば放心状態の彼がいた。
「く、クライン?!どうしたんだい一体!何かあったのか?!」
「…俺は何も言ってない…俺は何も言わなかった…」
その独り言のような呟きは止まることを知らず、シリウスが正気に戻るまでアイヴァントが話しかけてはみたものの、それ以外の反応が返ってくることはなかったのだった。
(クラインよ…。自身の心に暗示をかけて、無かったことにしようとしておるな?)
「クライン聞こえてるかい?“お兄ちゃん”の言葉が…」
その一言が引き金となった。その言葉は既にクラインの中でのトラウマとして認識対象となったのか、“お兄ちゃん”と言う単語を耳にした途端、クラインはーーー壊れた。
「お、おにい…うわぁーーーっ!俺は…俺は何も言ってねぇからなーーっ!」
バタンッと大きな音を立てて、クラインは部屋を走り去る。もはやそれを止めようとする気持ちは、アイヴァントの心中には微塵もない。
(クラインよ、哀れな…後できちんとフローラに伝えておくのでな。今はそっとしておいてやるとしようか)
そうアイヴァントが同情するや否や、再びバタンと大きな音を立てて扉が開いた。
「おや、随分早いなクラインよ。何か…」
「魔物が4体、城下町付近の草原です。今廊下で報告に来た衛兵と遭遇、報告を受けました」
彼の言葉に、部屋の中の空気は一変した。先程までの平和的な雰囲気はもはやそこにはなく、緊張感が漂っている。その様子を見てアイヴァントは、
(なんとも切り替えの早い兄弟だな。さすがは次期国王と国王の専属騎士と言うべきか)
二人に対し改めて感心し、満足げに笑うのだった。
「それで、状況は?」
「衛兵によると、魔物の第一発見者は町民で、その者が報告にも来たようです。既に確認のため、騎士が数人現地へ向かっています」
クラインの言葉に、国王との会話を黙って聞いていたシリウスも頷く。
「とりあえずその確認の騎士達の報告待ちかな。何も分からない状況下で、無闇に動くのは良くないだろう。それでよろしいですか、主?」
「あぁ、それが妥当だろうな。それにしてもシリウス、今月に入って何件目になる?」
「5件目…多いですね。今までの魔物の目撃例など、あって半年に数件レベル。それがこうも増加しているとなるとーーー」
シリウスの言葉に、今度はクラインが神妙な面もちで頷いて、
「それもおそらくは封印が弱まっている証拠だな…。しかも目撃情報はほぼ東側に集中している。となれば答えは一つしかないだろうぜ」
誰も口には出さないが、心の中では皆同じ意見だった。
“東の魔女クレアの封印が弱まっている”
ハァと溜め息をつきながら、三人が今後の対策に関して話し始めようとしたその時、扉の外から入室を求める声が聞こえた。即座にアイヴァントが許可をだすと、部屋の中に一人の騎士が姿を現す。彼の息は乱れており、かなり興奮気味の様子であった。
「ほ、報告!報告致します!」
「今度はどうしたというんだ。また新しく魔物が現れたとでも言うのかい?」
シリウスの落ち着いた声を聞いて多少落ち着きを取り戻したのか、騎士は姿勢を再度正してから報告をした。
「いえ。自分は先程草原へ、偵察に行った者でございます。幸い現場はそれほど遠くはなく、すぐに着き魔物も発見したのですが…」
騎士はそこで言葉を区切り、もう一度口を開いた。
「4体とも既に、死体となっておりました!」
「「は?」」
クラインとシリウスの声が重なる。
ちなみにアイヴァントは、動じることなく続きの報告を待っていた。
「いやいやいや。町民の発見から騎士到着まで、それほど時間は経ってなかったハズだよな?!それで4体の群れの魔物が既に死亡って…一体何が起きたんだ!」
「とにかく続きをお願いするよ。こちらからは全部聞いてからにしよう。主もそれを望んでいるだろうしね」
アイヴァントをチラリと伺いながらシリウスが言うと、クラインも渋々了承した。
「か、畏まりました。まず我々が魔物の死因を調査した結果、すべて剣によるものであると判明しました。更に、4体ともおそらくほぼ瞬殺されているかと思われます。同じような剣跡から考えますと、あり得ないかとは思いますが…一人の人間によるものである可能性が高いかと…以上が現在の状況となります」
騎士の報告を聞くにつれて、シリウスの表情はより深刻なものへと変化していく。それもそのはず、そんな芸当を成し遂げることが出来る者は、この国には数人しか存在しない。剣豪であるシリウスと、その弟であるクライン。そして、現在騎士団長を勤めている者クラスの猛者だけだ。今回成し遂げた者は、今あげた中には存在しない。それが、シリウスにはとても恐ろしく感じられたのだった。
(この国に、僕に近い…いや、もしかしたら僕以上の者がいるかもしれない。相手の実力を見ていないとはいえ…魔物4体を相手に瞬殺ならば、十分に危険な存在だ)
「すぐに動ける騎士達を集めて、城下町を捜索しろ。もし発見した場合、ただちに僕に連絡。僕が行くまでは手を出すなよ。味方であるなら、騎士として迎え入れたい実力だ。だがもし敵対する素振りを見せたその時はーーー僕が相手になろう」
「ハッ!すぐに捜索にあたります!」
すぐに騎士は部屋を立ち去り、後には再び三人が残された。
「…申し訳ありません主。確認もせずに指示を出したこと、お詫びします」
「いや、よい。わしもそなたの指示に同意見だ。何か追加点があればわしから申していた、問題はない」
「シリウス…一体何者なんだろうな、その謎の剣士。俺だって騎士団長よりは強いつもりだが、それ以上の実力があればーーー倒せるのはシリウスだけってことになる」
“怖くはないのか”と、クラインの目がシリウスに問う。クラインにとって、今はまだ越えられない壁が目の前にある。それは悔しい反面、安堵感も覚えるのだ。自分が適わない敵が来ても、兄がいる。これほど心強いものはないとクラインは常々思っていた。
しかしシリウスにはそれがない。彼は既にこの国一の剣豪であり、未だそれを凌駕する者など存在しない。だからこその心配だった。
「大丈夫だよクライン。兄はどんな敵にも負けたりなんて決してしない。お前が信じてくれなくてどうするんだい?」
そう安心させるようにクラインに言うシリウスの右手は、固く握り締められていたのだった…。
とうとうシリウス達の元にも、謎の剣士の情報が。シリウスと謎の剣士、どちらの実力が上なのでしょうか。いや、それよりも謎の剣士の正体ですよねアハハ笑