シリウスへの特効薬は…
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そして引き続き、現在も修正中です。約90話直すのって結構大変なのですね(^_^;
それでは今回は久しぶりのアルベルト兄弟ご登場です。お楽しみ頂ければと思います♪
時は少し前に遡り、フローラと結衣が食事の間で昼食を食べている頃。シリウスは国王であり彼の主、アイヴァントの部屋で、国王と共に雑務を片付けていた。
「シリウスよ、そなた昼食はどうした。きちんと食べないと駄目ではないか」
「主がまだ食べられていないというのに、僕だけが食べろと?そういうことは、先に食べてから仰って下さい」
手を休めることなく言い放ち、その上利き手と反対の手である左手で、別テーブルに置かれたサンドイッチを指差すシリウスに、アイヴァントは苦笑する。
「…そなたもだいぶ言うようになったのう。昔はもっと可愛げがあったというのに」
「可愛さを求めるのであれば、主にとって愛娘であるフローラ様が一番でしょう。まぁ、うちのクラインも負けてはいませんけどね」
ちょっと書類から顔を上げて、シリウスはニヤリと笑った。
「…もはやその“弟至上主義”には、突っ込むべきかも分からんよ」
そんな会話を交わしながらも、二人の机の上に積み上げられている書類の数々は、着々と片付けられていく。しばらく二人が無言で作業をしていたそのとき…
コンコンと扉を叩く音がした。
「クラインです。入室しても?」
「構わんよ」
アイヴァントが許可を出すと扉が開かれ、部屋の中にクラインが入室して来た。その表情に何かを感じて、シリウスは即座に手を休めて問う。
「どうしたんだ、クライン…何かあったのかい?」
「…さすが兄上、よくお見通しで」
その返答にシリウスとアイヴァントは揃って顔を見合わせた。
「クラインが僕を“兄上”と呼んだ…」
「どうやらシリウス、明日は雪でも降るようだぞ」
そんな二人のやり取りを見て、クラインも少しいつもの調子を取り戻しながら微笑する。
「それで、一体どうしたというんだ。説明してくれない?」
「…あぁ、そのつもりで来たんだしなーーー率直に結論から言う。魔女の封印が弱まっているかもしれねぇんだ」
ポトッと軽く音がして、シリウスの持っていたペンが机上に落ちる。アイヴァントは厳しい表情でクラインを見つめ、詳しい説明を無言で強いた。
「実は先程、シュバインのいる牢屋へ行ったんだが…」
クラインは語った。牢屋で聞いたシュバインからの情報と、まったく接点のない結衣から語られた呪術についてを。最も、どちらの話をするときも彼は、自身が死ぬということに関してはまだ触れないでいた。とりあえず私情を抜きにした意見を、二人から聞きたいと思ったからだ。
「…この話を信じるか否か、まずはそこだけ教えてくれませんか、国王」
クラインの言葉の後に続いた、静寂という名の間。無言でこちらを見つめる二人の視線に、逃げることなくクラインは見返す。
そして、シリウスから口を開くことは絶対にない。
この話をもし“信じる”と答えた場合、それは言外に“魔女の封印の弱まり”を認める発言ともなり得るからだ。国王であるアイヴァントが、国王としてこの話を“信じる”と言えば、他の誰が何と言おうともそれが国の決定事項。逆に、“否”と答えれば、それも国の決定事項となるのだ。
それを理解しているからこその、静寂だった…。
「国王としてこの話………信じるに値することであると返答する。接点の無い二人からの、ほぼ同時の証言。その内容の一致からしても、信じざるを得ないことであろうな」
「ハッ、御礼申し上げます」
国王であるアイヴァントの返答に、シリウスも同意見らしく、心からホッとしたような表情をして口を開いた。
「お兄ちゃんはいつでも弟の味方であり、お前の言葉は信じると前に言っただろう?だから私はたとえ国が“否”と言っても、一個人としては信じるよ」
「ありがとう、兄上ーーーだけど、悪い」
嬉しげにクラインは礼を述べた後、シリウスを見る目を軽く細めた。
「俺はおそらく今夜、死ぬんだ」
「は?」
そう告げた途端クラインは、部屋の温度が数度下がったかのような感覚に陥った。その原因ーーーシリウスの表情は真剣で、クラインは次の言葉を述べるのに、多少の時間を要したのだった。
「俺は今…呪術にかかっているかもしれない。いや、かかっているんだろうな。その呪術が解除出来なければ、俺の命は今夜午前零時までの物だろう」
クラインの言葉にシリウスが返答する様子は無かった。代わりにアイヴァントが口を開いて、
「お主、その情報は確かなのか?その上今“呪術にかかっている”と言ったが、それは先程シュバインが言っていたという、呪具がお主に使われたということなのか?」
「…その通りです。情報もかなり確かな物です」
そう返答した途端、クラインとアイヴァントには、更に部屋の温度が下がったように感じられた。
「ではとりあえず…シュバインをどうにかしてくるとしましょうか」
静かにそう言い放ち、歩き始めたシリウスに二人はギョッとした表情になって、慌てて止めに入る。
「シリウスよ、待ちなさい。気持ちは分かるが待ちなさい?」
「お、おいシリウス一体何するつもりだよ!殺すのはさすがに今はマズいぞ?!」
二人の制止の声にシリウスはピタリと足を止める。
その行動にアイヴァントは心底ホッとして、
(ふぅ、とりあえずは考え直してくれたか、良かった。さすがにその情報だけで、シュバインを今殺すことは得策ではないからなぁ)
「…では死ぬより怖い目に遭っていただくということで。大事な弟がお世話になったのです。まさか止めたりしませんよねぇ、主?」
(駄目だこやつ分かっとらんかった!!おいクラインよ、何とかしてくれ!この暴走した“弟至上主義者”は、わしの手には負えんぞ?!)
(いやそんなこと言われたって俺にもムリですよ?!こんな兄、見たことない!)
二人の目と目の会話は続く。
(ほれ、特効薬があるだろう!言いなさい、今すぐ言いなさい!)
(ま、まさかあの言葉を言えというのですか?!)
コクコクと頷くアイヴァントの返答を見て、ピクピクとクラインの頬がひきつる。
「ほれ!国王命令だ、言いなさい!!後でフローラにご褒美をあげるように頼むから!」
「ぐっ、その手は卑怯です国王ーーっ!」
シリウスの足が再び動きだし、扉へと向かう。その手は既に剣の柄に添えられている…。
(くそーーっ!まだ心の準備ってもんが!というか、そう呼ぶ年齢じゃもう無いんだけどな?!)
「お、おにい… 」
ピタッ。シリウスの足が動きを止めて、シリウスの耳はピクピクとしている。その様子を見てアイヴァントは、クラインに続行を促した。
「くっ!お、おにいちゃん、待て!」
「え?今のは幻聴?!それともこれは夢かい?!」
呼ばれた途端シリウスは、ぐるりと顔をこちらに向けて感動の感情を露わにした。予想以上に効果てきめんの特効薬に、アイヴァントは苦笑するしかない。
「ほれ、シリウス夢ではないぞ!クラインもう一度!」
「無理です!もう十分だと思うのですが?!」
「見なさい!こやつときたら器用に顔だけこちらに向けて、足はまだ扉を向いている!」
その言葉で、ブチっとクラインの中の何かが切れる音がした。
「もう勘弁してくれおにいちゃんーーっ!!」
部屋中に響いたクラインの叫び声は、扉を通り越して、近くを歩いていたメイドまでも驚かせる結果となったのだった…。
切れたシリウスへの特効薬は、やはりあの“お兄ちゃん”呼びでした。久々の登場だというのに…クラインよ、ドンマイ♪