現れた謎の女性
今週は更新が二回となってしまったので、お詫びに今回はいつもより長めに書きました♪
(きりの良い所を逃したとも言う笑)
静かな空間に不規則に響く、複数人の足音。
その足音の主達は、次第に結衣の視界へと姿を現し始め…
「おい見ろよ!あれ女じゃねぇか?」
「しかもメイド服とかマジやべぇな!カワイイ系で、俺好みだわぁ」
「連れもいねぇなんてちょーラッキーじゃね?!」
結衣の存在に気付いた途端、にやけながら彼らは、興奮を隠しきれないといった様子で話し始める。
その会話に嫌悪感を覚えながら結衣は、自身の読みが当たってしまい、突然立たされた窮地に焦りを感じていた。
(嫌な予感的中…。どこからどう見ても、目の前にいるのは体格の良い不良が5人。全員なんかヤバそうな雰囲気出してるんですけど…え、どうすんのこれ?!と、とりあえず冷静に見えるように振る舞おう。
下手な怯えは、逆効果な気がするし…)
「なぁなぁ彼女ぉ。一人だよなぁ、俺達と一緒に遊ばない?」
「お断りします」
「おぉっ、お前ら聞いた?即答したよ彼女」
「あぁ!ますます俺、ご奉仕してもらいてぇっ!」
(…なんか好き勝手言ってるな。でも現状はかなりマズいかも。大通りからだいぶ奥まで歩いちゃったから、助けを呼ぼうにも、まず声が届かない。
この世界には電話なんて物もないから、クラインやシリウスに助けを求めることもできない。
…あれ?これってもしかして私ーーー詰んだ?)
「なぁに黙ってんの?助けとか期待してんならムリだぜ。ここは多少叫んだところで、人に聞こえることもねぇからな」
「そうそう、だから諦めて大人しく俺らの相手してなって。そうすればなんも嫌な思いはしねぇから!なぁ?みんな!」
不良の一人の言葉に他の4人も同調するかの如く、下卑た笑い声を立てている。
「ほら、こっちに来いよ」
にやにやとしながら不良達は、結衣に向かって手を伸ばす。さすがの結衣も、冷静に振る舞っていた仮面は外れ、嫌悪感と恐怖が徐々に身体を蝕んでいく。
「や、やだっ!誰か…」
男達との距離を少しでも離そうと後方に後ずさるが、すぐに壁が邪魔をした。もう逃げ場は無いのだと、背中の感触が伝えてくる。結衣は恐怖でギュッと目を瞑った。
(もう…ダメっ!!)
「そこまでよ、あなた達」
透き通るように綺麗な、それでいて凛とした声が辺りに響く。不良が邪魔して見えないが、それは確かに不良以外の、第三者の声だった。
その声に反応した不良達は、近付く足を止めて後ろを振り返る。
「誰だ?!」
「ヒュー!女じゃねぇか。しかもめちゃくちゃ上玉だ!」
「カワイイ系の次はお姉さん系とか、この場所は天国か何かか!?」
結衣は恐怖でその場を動けず、不良達の向こうにいるであろう女性については、不良達の下世話な会話からしか知ることができない。
「まったく…耳汚しな会話はやめて欲しいわね。あなた達みたいなのを剣で倒したら、剣が汚れてしまわないか心配だわ。まぁ、もう今さっき穢しちゃったけど…」
「なんだとこのアマ!女のくせに剣なんて持ちやがって!そんな扱えもしない飾りもんで、俺らがやられるワケねぇだろ!!」
(わわわ、不良を煽ってどうするのーっ!!
私を戦力にカウントしてるのなら、それは計算ミスですよー!
っていうか女性が一人って、私と同じで道間違えただけの人だったらどうしよう…。
せめて彼女だけでも逃げきれば、大通りで助けを呼んでもらえるかもしれないな。よし)
「あ、あのー!姿も見えないそこの女の人ー!私は戦力外ですし、道に迷われただけなら急いで逃げて助けを呼んでもらえると助かりますーっ!」
「黙ってろメイド!逃がすわけねぇだろ!!」
不良がこちらを見て凄んでいると、今度は女性がクスリと笑った。
「フフッ、大丈夫よメイドさん。ちゃんと私が助けてあげるから。そこでじっとしていてね。…さてと、とりあえず数を減らしましょうか。それだけなら、剣を抜くまでも無いわね」
その言葉と共に、カシャッという音が聞こえる。そして、ヒュッと結衣の横を一筋の風が吹き抜けた。
一瞬の静寂。
どうやら女性は、あっという間に不良達との間合いを詰めたようで、不良達の息を飲む音が聞こえた。
「…ハハッ、随分身軽で驚いたぜ。だが残念だったな!誰にも当たってないぜ?所詮はお飾りの…何笑ってやがる」
「残念なのはどちらの方?取りあえず鞘で、数を半分に減らしてあげたわよ。一度に片付けるのでは、つまらないものね。…そろそろ自覚し始める頃じゃないかしら?」
「「は?」」
その不良達の言葉を合図に、結衣の比較的近くにいた3人から呻き声があがった。
「な…剣が当たった覚えは…ウッ」
ドサッという音を立てて、呻いた3人が意識を失い地面に崩れ落ちる。それを見た残りの2人の顔は、恐怖でひきつっていた。
立っている不良達の数が減ったおかげで、ようやく女性の姿が見えた。
「綺麗…」
年は結衣よりは上だろうか。整った顔立ちをした、銀色の髪に水色の瞳を持つ女性。そよ風に吹かれる度に長い銀色の髪がサラサラと流れ、その顔立ちは、より一層美しく見える。
「一体こいつらに何しやがった!!」
「ただの当て身よ。あなた達相手には、鞘だけで十分でしょう?」
()すごい。当て身なんて、素人があそこまで綺麗にやれるものではないし、ましてや複数の人間に対してなんて…凄いとしか言い表せない。
いや、それだけじゃない。今不良達が当て身を受けた事実を認めるまでに、確かに数秒の間が存在した)
「凄腕の剣士に斬られた者は、斬られた事すら気付かない…」
(そんな物は漫画やアニメだけの世界で、実在しないと思ってたけど、今の状況は、まさにそれと同じだ)
結衣の呟きが届いたのか、残りの不良達が不自然に慌てだす。
「た、たまたまだろ?!おい、2人で一気に行くぞ!掛かれ!」
そう言って不良達は、懐からナイフを取り出す。それを構えて襲いかかって来るにも関わらず、女性は冷静なまま避ける気配はないようだ。
「あらあら、武器を向けられては仕方がないわね。刃物には刃物で、お相手するとしましょうか」
キィン
「うっ」
女性は襲い来る二本のナイフのうち、一本は剣先で軽く受け止め、もう片方の腕で鞘を器用に不良の一人に打ち込んだ。
「はい、チェックメイト。もう逃げられない」
ガッと鈍い音が響いて、最後に残った不良の意識も、女性に首筋に鞘を打ち入れられて刈り取られる。
5人の不良達によって阻まれていた結衣の目の前の道は、現れた凄腕の女性によって、わずか数十秒の戦闘でこうして開かれたのだった。
初めて不良というものを書いてみました。
上手く表現出来たかは心配ですが、書くのがなんだかちょっと楽しくて、ついつい文章が長くなったり笑