抜け道★
夜風 リンドウ様より素敵なイラストを頂きました!本当にありがとうございます。
夜風様のみてみんURL↓
http://6886.mitemin.net/
「待って───待ってくださ……ハァ、ハァ」
結衣は息を切らしながらも、フローラの名前を呼ぶわけにもいかず、必死でそう頼む。
だが周りの喧騒に負けたのか、なかなか彼女の足は止まらない。
「───待って、ください!」
ようやく追いつき、肩を並べたところでフローラが気付いた。
「私が彼の代わりに城までついて行きますから!」
「……そう。クラインがそれを許したなんて、意外だわ。まぁあなた、悪い人には見えないものね」
姫の許可を得て結衣は、彼女の隣に並ぶ。
そっと覗き込んだ横顔は、クラインに追いかけてきて欲しかったことを物語っていた。
「それにしても姫……いいえフローラ様、お城からはどうやって抜け出したのですか?」
護衛も付けていないのだから、まさか正面から来たわけではないだろう。いくら変装しているとはいえ、たかがつばの広い帽子だけだ。顔を見知った門番ならば、すぐに正体は露見する。
「抜け道から来たのよ。非常時にお城からの脱出用に用意されている、抜け道の一つを使ってね。それと私のことは、フローラと呼び捨てでいいわ。そうすれば同じ名前でも、あまり怪しまれないから」
もちろん敬語もなしね、と付け加えられる。
結衣はしぶしぶ了承し、彼女に対し敬語を使うこともやめた。
そうこう話しているうちに、フローラが突然立ち止まり被っていた帽子を取る。
二人は今、だいぶ人通りの少ない細道に入っていた。
先程までのような喧騒は無く、さわさわと涼やかな風が吹いている。
だがそのこと以上に結衣は、他のことに気を取られていた。
「……綺麗」
帽子が取られてはっきりと見えるようになった彼女の顔立ちは、まさに姫と呼ぶのに相応しい。
そう思わせるほどの美しさが、彼女にはあった。
サラサラと流れるようにまっすぐな翡翠色の髪の毛と、それよりも少し濃い緑色の瞳が、より一層彼女の美しさを引き立てている。
加えて平民を装うために選んだであろう真っ白なワンピースは、彼女の清楚さを醸し出していた。
そんな彼女の容姿に思わず見惚れてしまった結衣だったが、当人は気付いていないようだ。
「さてと、もうそろそろ変装もいらないわね。あ、ここよ」
そう言って彼女が指したのは、使われていない井戸の中だった。
「もしかして、ここが入り口なの?」
「そうよ」
確かに人目につかない所にあるうえに、井戸ももう長いこと使われていないらしい。その証拠に、所々に苔が生えているのが見てとれる。脱出の出口としては、まさに最適なのだろう。
よく見ると、井戸の側面に梯子らしきものが掛けられている。どうやらこれを使って上り下りをするようだ。
「それにこの抜け道自体が、ごく限られた者しか知らないの」
フローラの話によると、たとえ梯子を使って誰かが井戸の下に降りたとしても、鉄格子が阻んで先には進めず、抜け道とは気づかれないのだとか。
(王族の用意周到さには、正直驚きを隠しきれないな。というか、私が限られた者の一員になっても良いの?)
彼女の説明を聞きながら梯子を下り、井戸の底にたどり着く。すると確かに説明にあったように、大きな鉄格子が行く手を阻んでいた。
「これは暗証番号で開くわ。長いから覚えるのが大変だったのよ」
そう言ってフローラがそらんじた暗証番号の数字は確かに長かった。全部で8桁ほどある。
(なるほどね、確かにこれを一度に覚えるのは普通の人なら大変だろうな。私だって書きとめずに一度でこんなに覚えることは無理だと思う。あ、だからこの抜け道を教えても平気なのね)
「17320508」
フローラが暗証番号を入力する。
(あれ、なんか見たことあるなこの数字の並び。
えーっと…なんだろう、どこで見たんだろう。
いち、なな、さん、に、ぜろ、ご、ぜろ、はち…
語呂合わせとかかな。
えっと、ひと、な、み、に、お、ご、れ、や
人並みにおごれや!)
「あーっ、ルート3だ!」
まさかの暗証番号8桁の数字に、思わず大声で叫んでしまう結衣だった。
〔ルートについての説明〕
ルートとは数学に出てくる平方根のことで、中学校で習います。
ルート2やルート3などの数字は暗記するよう言われ、その暗記を楽にするために語呂合わせで覚えます。
知らない方は、是非調べて見てくださいね♪