熊出没にご注意下さい
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「えっと、あとはこの道をまっすぐ行けば、左手に見えてくるみたいだけど…あ、あった」
地図の通り、左手に見えてきた看板には“果物屋フルーティー”の文字が。
(分かりやすい場所にあって助かった。店の名前が爽やかな感じだし、店の人も同じ感じで爽やかな好青年とかだったりして。まぁ青年は冗談にしても、できれば話しかけやすい人だといいな!)
そう思いながら近づくと、店番をしている男とパチリと目が合う。残念ながら、好青年ではなさそうだ。いや、もはや“青年”ですらなくおじさんだろうか。結衣がフルーティーに用がありそうだと分かった途端、何故かものすごくこちらを凝視して来た。
「う…なんかめっちゃ見られてる?」
でも用事がある場所は間違えていないので、そそくさと退散することも出来ない。
どうしようと悩んでいると、“もう待てん!”とでも言うように、男の方から声を掛けてきた。
「おい、そこのメイド服の嬢ちゃん。うちに用があるんだよな!な、そうだよな?!」
「は、はいぃーっ!」
(思わず勢いにつられて返事をしたら、なんか変な声が出てしまった。は、恥ずかしいっ…。
でもでも仕方がないと思うんですよ!
だってこの店番してる人、近付いてみたら正直顔とか色々怖いんだもん!
低くてもよく響く声に、どっしりとした体格。それに180㎝はあるんじゃないのってくらいの身長が合わされば、怖じ気づいても仕方ないと思いません?!
何かに例えるとするならば、そう…)
「く、熊…?」
「あ゛?なんか今言ったか嬢ちゃん」
(ひぃっ!熊がジロッと睨んでくるよぉ!!だ、誰か助けてーっ!)
「いえなんでもありません!」
(フルーティーとか爽やか系の店名なのに、この近付きがたさはもはや…さ、詐欺だ)
「まぁいーけどな。んで、嬢ちゃんうちの果物買ってってくれんのか?」
「は、はい。イーチゴを2籠下さい。あ、なるべく一番新鮮なやつでお願いします」
「そーかそーか、やっぱり客だったか!いやー今日は売れ行きがあんまりでな。商品には自信があるから、新鮮なうちに売りたいんだが…みんなちらちら見てくるだけで、全然買いに来ねえんだわ。何でだろうな?」
(いやそれ確実にあなたの存在が原因だと思います!
私だってフローラの指名店じゃなければ、近寄らなかった絶対に…。
でもこれを指摘しても仕方ないような気もする。
だって容姿は変えられないし?よし、誤魔化そう)
「な、なんででしょうねぇ…アハハ。あ、きっと魔物が出たせいじゃないですか?」
「魔物?あぁ、さっきから町の奴らの落ち着きがねぇと思ったらそれでか」
男が言いつつ周囲を見回すと、ちらちらとこちらを見ていた面々が、慌てて目を合わせないように視線をそらす。
その後からは、彼らのひそひそ話が聞こえてきた。
「だ、誰か助けてやれよ。熊に野うさぎが掛かっちまったぞ」
「お、お前が行けよ!俺は悪いがまだ死にたくねえんだ!ヤダね!」
ひそひそとこちらを心配そうに伺いながら、お互いを肘でつつき合っている。
(いや、聞こえるんですけど…)
「で、でもさっき騎士を呼びに行く人がいましたから、きっとクラインかシリウスあたりが采配してくれますよ」
「あぁそれなら安心だな…っておい嬢ちゃん。今なんて言った?」
「え、クラインかシリウスあたりが…あ、そっか」
先程の自分のセリフを復唱してようやく気付いた。
この国での彼らの立場は、次期国王と国王専属騎士である。そしてそれを抜きにしても、二人は貴族なのであった。
そんな彼らを呼び捨てにすれば、事情を知らない者には不敬に見えるだろう。
「えーっと、クライン様かシリウス様あたりが」
「いや言い直してスルーかよ!まぁ別に言いつけたりはしないけどな…もしかして嬢ちゃんは城のメイドなのか?」
聞かれて一瞬戸惑ったが、まだ一介のメイドで通ると考え、首を縦に振る。
「そうだったのか、じゃあフローラ様のお姿もお見かけしたりするのか?」
「えぇ、城内ではよく元気なお姿をお見かけいたしますよ」
(実際はお見かけするどころか、お話したりもするけどね)
その返事を聞いた途端、なぜか彼の顔が、少し懐かしむような表情に変化した。
「そうか、元気なら良かった。いや悪い、実は彼女とは何度か話したりしてるからつい、な。最近お会いしてねぇなぁ。そうだ、もし話す機会でもあれば伝えてくれ。元気そうで何よりだって」
「そうだったのですか。分かりました、一介のメイドがお話出来る機会はあまりありませんが、その際はお伝えしますね。ちなみにお名前を伺ってもいいですか?」
「あぁ、まだ名乗ってなかったな。俺の名はアッシュ、よろしくな嬢ちゃん」
(あ、そっか。貴族じゃないから名前だけなんだね。
じゃあ私も名前だけ紹介しておこう)
「私の名前は結衣です。こちらこそよろしくお願いします。ちなみに興味本位ですが、フローラ様とは店主と客としてお知り合いに?」
結衣が尋ねるとアッシュは首を横に振って、
「いや、最初は違うな。彼女が幼い頃、誘拐されそうになっていた所を俺がたまたま助けたんだ」
「ゆ、誘拐?!」
どうやらアッシュとフローラの出会いは、普通ではなかった模様。
そしてまだもう少し続きますお使い編。クラインとシリウスの出番はまだのようです笑