現世のスイーツ?!
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城下町に着いたところからのスタートです♪
「ふぅ、ようやく城下町に出られた。えっと…確か地図によると、まずはこの道をまっすぐ行けばいいみたい」
今はちょうど昼下がり。城下町は子供から大人まで様々な服装をした人々で、わいわいと賑わっていた。
周りを見渡しながら歩いてみれば、右にジュージューと音を立てて、美味しそうな匂いを漂わせている骨付き肉の露店。左にはこれまた美味しそうな匂いを漂わせている、見た目は完璧ホットドックの物を売っている露店など、結衣の興味を惹く物ばかり。
そして今、メイド服のポケットの中にはそれらを買えるだけのお金が…
(……うぅ、食べたい)
「くっ、このポケットの中にあるお金が、私に“買っちゃえ!”と誘惑してくるっ!!こ、これはもはや悪魔との戦いだ…」
ふらふらと左右の匂いにつられないように、道の真ん中を自制しながら歩いていると、何やら慌てた様子の男性が、こちらに走ってくるのが見えた。
何やら叫んでいるようだが、まだ距離があるので声は届いてこない。
やがて…
「おいっ!みんなまた出たぞ!草原に4匹、魔物だ!!」
ざわっと道にいる人々の間にどよめきが走る。
「何だって?!そりゃ大変だ!騎士様方にはお知らせしたのか?」
「いや、まだ知らないはずだ!数十分前に巡回をしている姿をみたばかりだからな。俺はこれから知らせに走る。みんなは他の奴らに草原の方へは近付くなと伝えてくれ!」
この会話を合図として、町中は今までの楽しげな雰囲気から一変し、人々は口々にこの件を周りに広め始めた。
その様子を見ながら結衣も、クラインとの出会いのきっかけを思い返す。
「魔物って確か私が見たイノシシの姿のアレだよね。もしあんなのが4体も町中に侵入して来たら…!!」
(間違いなく死人は出るし、町中は大混乱に陥るだろうな。考えただけでも恐ろしい。でも…)
「だからといって、今の私に出来ることなんて何も無い。悔しいけれど、この件を広めながら用件を済ませることしか、今の私には出来ないよ…」
(クラインやシリウスのように、魔物に対抗する手段を私は持っていない。でも、魔物の脅威さは自分の身を持って知っている。
悔しい…。もどかしい…。何も出来ないことが。
でも、今出来ないことをいつまでもくよくよ悩んでいても仕方ない。
せめて、せめて魔物が町中に入ってくることのないよう、私はここにいる人々の無事を祈ろう。
祈るくらいしか、今の私には出来ないのだから)
結衣が一人そう思っていると、道の横にある露店のおじさんが、突然声を掛けてきた。
「おいメイド服の姉ちゃん」
「え…っと私ですか?」
(周りにはメイド服姿の人を見かけないから、多分私のことなんだと思うけど…なんだろう?)
「そうだよ、姉ちゃんだよ姉ちゃん。ちょっとこっち来な」
「は、はい」
その露店のおじさんは、結衣だけでなく周りにいた子供達にも声を掛け、露店の周りに集めていた。
彼の意図がまったく読めないまま近付くと、とても甘くて良い匂いが漂って来た。
「ほら、おじさん特製“クリーム巻き”だ。これ食べて、少し元気だしな」
そう言って渡されたのは、薄く延ばされたクリーム色の生地の中に、生クリームが巻かれた食べ物。
味が早く知りたくて、思わず手を伸ばしかけたが…
「あ、でも私お金持っていないんです…。すみません」
目の前にとても美味しそうな食べ物があるにも関わらず、食べられないこの悲しみ。伸ばしかけた手を引っ込めると、おじさんが笑って言った。
「そんなこと知ってるよ。だからこれはサービスだ。ほら、ありがたく貰っときな!」
「え…でも」
「魔物が出たって聞いて、すごく不安げな顔してただろう?残念ながら、おじさんは魔物を退治して不安解消なんて出来ないけど、代わりに食べ物で不安を軽くすることは出来る。だからありがたく貰っとけ」
見れば先程集まってきた子供達も、おじさんからクリーム巻きを何等分かにしたものを貰い、それを美味しそうに食べていた。
その食べているときの笑顔と来たら、微笑ましいほどに幸せそうな表情だ。
きっとこのおじさんは、魔物の恐怖に怯えるよりも、みんなにこんな笑顔になって欲しくて、こうして配ってくれているに違いない。
「そっか、魔物を倒すだけがすべてじゃない。こんな貢献の仕方もあるなんて、思いつきもしませんでした。ありがとう、おじさん。なんかちょっとすっきりしたかも。これ、ありがたく貰っときます」
おじさんから受けとったクリーム巻きは、まだほんのり温かい。その温かさに浸りながら、結衣はクリーム巻きをパクッと一口食べてみた。
「こ、これは…!!」
食べた瞬間、驚きで動きが固まった。
(まさか、まさかあの味をこんな所で食べられるとは!これはまさしく…現世のスイーツ…)
「クレープ?!」
「いや“クリーム巻き”だぜ、姉ちゃん」
(いやいやいや。これは、この味は誰が何と言おうとクレープ!
おじさんにとってはクリーム巻きでも、私にとってはクレープなのですよ!)
…なーんて叫べるはずもないので結衣は、おじさんに思いっきり笑顔で美味しいことと、感謝の意を伝えた。
「おじさん、美味しいクレ…げふんげふん。“クリーム巻き”をありがとうございました!」
「気にすんな、気に入ったならまた今度寄ってくれると嬉しい」
「はい、必ず!…というか近いうちにお邪魔します」
(そう、このクレープもどきに足りないものを持って必ず…ウフフ)
「あぁ、ありがとよ」
こうしてそのクレープもどきに足りないものを買うためーーーではなくフローラのフルーツケーキ作りのための果物を、買うために道を急ぐ結衣だった。
現世で言うクレープを、こちらでどういった物にしようか悩んだ結果、クリーム巻きに笑
うん、ちょっとカロリーはヤバそうですね…汗