死ねない理由
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ゴーン
「あ、昼ご飯の時間になったみたいだな。悪いがユイ、俺は用事が出来たから、先に食事の間へ行って食べててくれ」
「分かった、フローラにもそう伝えておくね」
「頼む」
こうして昼時を知らせる鐘の音を合図に、二人の話し合いは終わりを迎えることとなった。
別れて去っていくときに何度も何度も、結衣は心配そうな表情でこちらを見ていた。
おそらく死を宣告されたにも関わらず、あまりにも冷静な自分の様子が、逆に心配なのだろう。
人気の無い場所から結衣の立ち去る姿を見送ったクラインは、近くの壁に背中を預ける。
「“呪術”…か。ユイとシュバインの話には、共通点がいくつか見受けられた。接点の無い二人が同じ事を言ってるんだ、信じざるを得ねぇじゃねぇか…」
(しかもシュバインだけならまだしも、もう一人はあのユイだ。彼女はつい先日もいきなりフローラが狙われていると言いだし、挙げ句その実行犯までも的中させた。
誰もがまさかと思うほどの、意外な人物の名を上げてーーー。
そしてそれは事実正しく、彼女がいなければいずれこの国は乗っ取られ、自分の今の立場も無かっただろうと思い返す。
だとするならばーーー)
「俺は…死ぬーーーのか」
結衣に言った全ての言葉は、ある意味自分自身に言い聞かせていたも同然だった。
“大丈夫、俺はまだ生きている”
“まだ半日あるんだ、何か解決策が見つかるはずだ”
そう自分に言い聞かせなければ、正直彼女の前で取り乱していたに違いない。覚悟していたとはいえ、“死”を宣告されたのだ。冷静でいられるはずもない。
「まぁある程度ユイには気取られてたみたいだけどな…ハッ、俺もまだまだ未熟だな」
(だがどんなに不利な状況であれ、俺はもう死ぬわけにはいかない。
なぜって?そりゃあ…)
「ようやくーーようやくフローラと両想いになれたんだぜ?!こんな所で死んだら、未練ありすぎて浮かばれねぇわ!」
(まだもっとフローラと、夫婦として接していたい。
フローラと共にこの国を見守っていきたい。
彼女との…こ、子供だってまだ…
……………。
……し、死ねねぇーーっ!)
「とにかく!まだ俺は死なねぇ!絶対に俺は死なねぇからな!」
クラインの叫び声が響き渡る。
その声を残して、クラインは人気の無い場所をあとにした。
そして、次に向かうはエメラルド城の最上階の中央付近。
国王とシリウスがいる部屋へと、クラインは足早に歩いて行ったのだったーーー。
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そして、場面は門番のいる扉とは別の扉ーーー結衣が特別に入ることを許可された方の扉に移る。
この扉の特徴としては、外(城内の側)から鍵が掛けられていたとしても、内側(庭もどき)からなら開けることができるようになっている。
今、結衣が出て来た後は、門番によって再び鍵が掛けられて、もう中には誰もいないため、この扉が再度開くことはしばらくは無い…はずだった。
キィーーッ
何者かによって、内側から扉が開かれる音がする。
その音を敏感に聞きつけた門番が、急いで扉の方に駆けつけた。
「誰かいるのか?!ーーーっ!」
だが彼がその者の姿を確認するやいなや、彼の意識が唐突に手放される。
そして、崩れ落ちた彼の懐からその者は鍵を取り出し、城内の側から再び鍵を掛け直した。
実はクラインが結衣と共に門番の元へと戻るまでの間に、既に門番の元には先客がいた。
その者は今と同じ方法で扉を開けると、結衣よりも一足先に中へと入っていたのだ。
なぜそのようなことをしたのか。その理由はもちろんのことーーーー
「まさかこれほど早く、呪術のことを嗅ぎつけてくるとは…。あのバカな王子が話したか、それともーーー」
静けさ漂う扉の前で、その者は一人呟く。
そして崩れ落ちた門番を軽く一瞥すると、静かにその場を後にしたのだった。
その手にキラリと刃先の尖った、血の付いた石器を携えて…
「ん?自分はこんな所で一体何を…。早く持ち場に戻らなければ」
怪しい雰囲気出しまくりの不審者が立ち去り数分後、目を覚ました門番は首を傾げつつも、特に不審がることなく自分の定位置に戻って行った。
彼の記憶からある一部の出来事が全て、綺麗に消えていることも知らずにーーー。
フローラとの未来のために、死ねないとクラインは覚悟を決めた様子。ちょっと弱音を呟くクラインを書いてみました。
一方最後にはようやく黒幕っぽいのが登場です!どうなることやらクラインさん(^_^;