鉄格子を隔てて
新たにブックマーク登録して下さった方々、ありがとうございます!私の執筆意欲の糧となっております♪
門番さんが案内してくれた扉を抜けると、そこには壁沿いに程良い高さの木々が並び、地面には整備された程良い高さの草地が生えていた。
風が吹き抜けると草木がサワサワと音を立てて、心地良い響きだ。
とてもこのスペースの隣の地下に、囚人達がわんさかいるようには思えない。
(あ、なんかこういうスペース私好きかも。なんだかここ、秘密の庭みたいな感じで素敵じゃない?
…ハッ!)
「こんな所で突っ立っている場合じゃなかった!!危ない危ない、早く奥まで行かないと」
気を取り直して門番さんに言われたとおり、一番奥の方まで足を進める。
すると結衣の腰の高さの位置から、誰かの呼ぶ声が聞こえた。
「おーい、ユイ着いたか?着いたら返事しろよー?」
(あ、クラインの声。どこから…あ、あったあった。この格子窓か!)
「クライーン、着いたよー」
結衣が返事をすると、今度は中から別の声が聞こえてきた。
「おいうるさいぞ!私を無視して何を叫んでいるんだ!!」
(あ、シュバインの声。
なんか思ったよりも元気そうだな。とりあえず挨拶しとくかな)
「どうもー!お久しぶりですぅ。覚えてますか、あなたに捕まったメイドですよメイド」
(ちなみに私が近所の人にするような軽いノリで、彼に挨拶したのはわざとです。この方が王族としての自尊心傷つけられるかなぁとか思ってやってみた次第)
鉄格子の窓から下を覗くと、案の定ギラギラと赤い目を光らせたシュバインがそこにいた。
「お前はあのときのメイドっ!!降りてこい!私がこんな汚いところにいるのは、お前のせいでもあるのだぞ!他国の王子に対して、悪いとは思わないのか!!」
(は?何言ってるんだろうこいつは。そんなの思うわけないじゃない)
「え、何を仰いますか~。悪いと思うも何も、そもそもあなたがやらかしたのが悪いんじゃない。それを他人のせいにするなんて、全然反省してないんですね」
結衣が呆れたような声で返すと、それに同意するようにクラインの声が聞こえてきた。
「あ、ちなみにユイ。お前がこいつに敬語を使う理由もねぇぞ。ユイは知らなかっただろうけど、こいつはもう王子じゃない。リーズベルト国から廃嫡された身だ。本人はまだ信じられないみたいだけどな」
「え、そうなの?何それ知らなかった。というかいくら何でも早すぎませんかね。リーズベルト国王にすら、まだこの件知られてないのでは?」
「あぁ、そうだがここにいる間の国の代表はリーズベルト国第一王子。決定権も彼に一任されているんだよ」
「なるほど」
(ふーん、じゃあシュバインは実の兄にあっさりばっさり切り捨てられちゃったわけだ。ちょっとだけ同情…。
まぁ、だからといって彼がやらかしたことを許すつもりもないけどね)
「納得をするな!私が直接確かめてやる!いいから早くここから出せっ!!」
「あーもううるせー!少し黙れよ。ところでユイ、その格子窓の近辺に落ちてないか?」
「え、あ、呪具?ここにあるはず何だよね、分かった探してみる!」
「あぁ、よく分からねぇけど頼んだ。さてと…」
それまで結衣に届くようにと大きめの声で話していたクラインだったが、結衣に捜索を頼んだ後、彼女に届くか届かない程度に声量を下げた。
「お前が先程俺に付けたこの首筋の傷、何か意味があるらしいなーーー説明してもらえるか?」
「ふ、説明したところでもう遅い。それに私がそう簡単に話してやると思うのか?」
クラインが静かに質問しているのを良いことに、シュバインはニヤリと口角を上げて返答した。
(ハァ…どうやらこいつ、鉄格子を隔てているから俺が何も出来ねぇと高をくくってんな。
しかも自分のが情報を持っていて有利な状況にあると勘違いしてやがる)
「ついこの前ペラペラと吐いてくれたのはどこのどいつなんだかな…」
ヒュンッ
クラインの言葉と共に、何かが風を斬る音がする。
タラリ…
「ぎ…ぎゃーーっ!!頬から…ち、血がっ!!」
遅れて響いたシュバインの悲鳴。彼の頬にはいつの間にか、一筋の傷が付けられていた。
シュバインが認知するよりも早く、クラインが腰にさしている鞘から剣を抜き、鉄格子の隙間から彼の頬を傷つけたのだ。
「…話してくれるよな?」
「わ、分かった!話すからその剣を戻せ!」
脅しに弱すぎる彼に、チョロいなこいつ。とかなり呆れながら、抜いた剣を鞘に戻すクラインだった。
結衣が呪具を探している間に、クラインはシュバインから聞き出す様子。一体シュバインはどこまで白状するのでしょうか。