少女の名は
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「クライン。何も言わずにどこか行くなって、何度も言ってるじゃない!あなたは私の騎士なのよ?」
背後から突然聞こえた声に驚きながら、結衣は後ろを振り返った。
(あっれぇ、この人どこかで……)
「はぁ……一日中、側にいると嫌がるのはお前じゃねぇか。それに、今は服の最終調整中のはずだぜ?俺は部屋には入れないから暇だったんだよ!」
クラインの反論の声を聞きながら、結衣はうーんと首をかしげて考える。
(うーん、誰かに似てるんだけど……喉まで出かかってるんだけど……)
「もう終わったわよ。クライン探したらいないんだもの、心配したじゃない!」
「あーそうかよ、でもだからってこんな城下町へ護衛も連れずにお前は……ったく」
クラインの言葉に、つばの広い白色の帽子を目深に被った少女は、結衣に顔を隠しながら頬をプクッと膨らませる。
「だからちゃんと変装してるでしょ?まだ誰にも気付かれてないわよ、私がフローラだってこと」
(へー、クラインと仲良さそうに話してるこの子、フローラっていうのか。へー、ふーん……)
一瞬、聞き間違えかと結衣は自分の耳を疑った。
「……え、フローラ!?」
「おい!迂闊にその名を出すなよ!変装の意味なくなるじゃねぇーか!それからユイ、気持ちは分かるが抑えてくれ……」
「あっ、こめんつい……いやいやこれは声出ちゃうって!」
少女がフローラと名乗った途端、まるで聞かれては困る事を聞かれてしまったとでも言うかのように、クラインが不自然なほどいきなり慌て始める。
思わず大きな声で名前を発した結衣だったが、幸いにも周囲自体がガヤガヤとうるさく、あまり目立つことはなかった。
「ユイ、落ち着け。察しはついてるんだろうが、変な気は起こしてくれるなよ?」
「ちょっと、私が彼女に危害を加えるとでも!?ないない、そんな戦闘力あるなら猪倒せてますからね!?そんなことより私が会いたかったお姫様が目の前にいるんだよ!運命なの?運命ですね、ありがとう!」
「……落ち着くのが無理というのは伝わった」
クラインは、肩を上下させて大袈裟にため息をついた。そんな彼に、フローラは軽く笑みをこぼす。
「クライン、ユイというのがその方のお名前なの?」
「ああそうだ、ユイというらしい。変な名前だろ?」
(まだ言うか、この顔だけ男!)
クラインの言葉に、結衣は心の中で敵意を剥き出しにする。
「あらそうかしら?可愛らしいお名前だと思うわよ。よろしくね、ユイ」
そんな結衣にフローラは、目深に被っていた帽子を少し上げて顔を見せ、にこりと微笑む。
彼女の顔を初めて目にした結衣は、心の中に巣食うクラインへの負の感情が洗われていくのを実感した。
そしてフローラは結衣に、今は変装しているから普通に話して欲しいと頼む。
(確かにクラインも砕けて話してるね。というか砕けすぎな気もするけど……それにしても、あの顔、確かに夢でみたお姫様だ。夢の内容が気になるけれど、とりあえず今は挨拶しなきゃ)
「ではせめて敬語で。こちらこそよろしくお願いします。ところで────聞き間違えでなければ、クラインが騎士とか面白い冗談が聞こえてきたんですけど?」
「────げ、聞こえてたのか……」
結衣の指摘に、クラインの嫌そうな声が聞こえる。
(こんな面白いネタを、正体に驚きすぎて危うくスルーしてしまうところだった。危ない危な~い!)
にやける結衣に、フローラは笑顔で口を開いた。
「えぇそうよ。クラインは私の専属騎士だもの。騎士の中でも、確かな実力を持っているわ」
「まじですか!クラインが騎士?!しかも姫の?に、似合わなさすぎるぅっ!!」
「……おい、笑うんじゃねぇぞ?」
今にも笑い出しそうな結衣を、クラインは先に牽制する。が、土台無理な話と言えるだろう。
「クククッ、ヤバい笑いが止まらない。クラインが騎士?プーッ、クスクスクスッ……!!」
「おまっ!……言ったそばから!!でも絶対に笑うと思ったけどな!」
結衣が笑いつづけているのを見て、クラインは不機嫌な顔でそう言い放ち、諦めた表情で天を仰いだ。
「ププッ!はぁ~、笑った笑った。まぁ確かに剣の腕が凄かったし、さっきも職業柄助けただけだーっ!とかって言ってたもんね」
「……言っとくが、俺は率先して騎士になったわけじゃねぇ。フローラの幼なじみだから、無理矢理押しつけられたんだ!」
「あら、そんなことなかったと思うのだけど?私の記憶だと確か……」
フローラが何か言おうとするのを、クラインが慌てて止めに入る。
「や、やめろ!思い出すな昔のことを!!分かった分かった、俺がなりたいと思ったからだよ!」
顔を赤くし必死でクラインは、フローラの言葉を遮る。
その横で結衣は一人この美味しすぎる設定に、にやけまくっていたのだった。
(クラインとフローラ姫が幼なじみ?マジですか、何この設定最高すぎる!これで姫の結婚相手がクラインなら、なお素晴らしい展開だね!)
2人の会話が砕けている理由に納得しつつ、結衣は横目でクラインを見やる。
すると彼の頬は、ほんのり赤色に染まっていた。
(クラインさん純情かっ!)
そんなことを思われているとは露知らず、クラインは落ち着くためにか大きな溜め息をもらす。
「まぁいいさ。専属騎士も、明日で辞めるつもりだからな」
そう言い放った途端、周りの喧騒が一瞬消えたような錯覚に陥った。
それほどまでに、あまりにも聞き捨てならないクラインの重大発言に、結衣は再び自分の耳を疑う。
「「え……?」」
しかしどうやらそれは結衣だけではなかったようで、結衣とフローラの驚く声が、ピタリと一致した瞬間であった。