謎多き“声”
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「やっぱりここに飛ばされるよね……」
目を開ければ自分の前に広がる漆黒の闇。
予想していた展開に、結衣は大きく溜め息をついた。
何故ならここは、彼女にとって最も謎な空間であり、そこに現れる“声”についてもまた、謎で秘められているのだから。
だが今、彼女の脳内を締めているのはあの言葉。
「クラインの言っていた、“傷”。あれって確か、自分の甘さが招いたものとか言ってた気がする。……あーもうっ!こんな事なら、もっと詳しく聞いとけば良かった!!」
首筋にあった傷に対してあの時は、特に重要視していなかったため、その件に関する情報は皆無。
でもそれを彼女に責めるのは、酷とも言えよう。
「だってその傷がまさかクラインの死に何らかの形で関係しているかもなんて、一体誰が想像します?!」
(うんしない、普通だったら想像出来ないそんな事!)
結衣は闇の中一人、見えない頭を抱え込む。
そんな中、どこからともなくあの謎の声が気配をみせる。
『お帰りなさいーーーそう、そんな事があったのね。……傷が原因、ね』
謎で秘められたその“声”が、再び闇の中にこだました。想定内とはいえ突然の登場に、結衣も思わず興奮する。
「出たっ、謎多き“声”!!私、あなたに聞きたいことがたくさんあるんですよ!!」
だが彼女の興奮を宥めるようにその“声”は、
『……前にも言ったでしょう?あなたに教えられることは、今の私には少ないし、その時間も無いと』
「……それは、私が今まで魔女の存在について知らなかったからですか?」
目には見えないけれど、でも確かに“声”の驚く様子が伝わってくる。どうやら“魔女”という言葉に反応したらしい。
『そう……もうそこまでたどり着いたのね。驚いたわ、その言葉を聞くのはもう少し先だと思っていたもの』
「じゃあ!やっぱりあなたは、あなたの正体は…でも西の魔女、フェリナさんなんですね?」
わずかな沈黙という名の静寂が、闇の世界に訪れた。
『……ごめんなさい。その質問に答えてしまうと、もう一人の魔女に居場所が知られてしまうのよ。話せる時間があまり無いのも同じ理由ね』
「なるほど、魔女に関しては否定はしないのね。では勝手にそう思うことにします!……時間が無いのなら、これだけは質問させて下さい」
『何かしら?』
「率直に言って、封印解けかけていませんか?」
(この質問、皆さんが思っている以上に重要だったりするのです。え、何故かって?
だって封印解けかけてたら、誰かの中に魔女が潜り込んでいる可能性が高いわけでして。
しかもフェリナならまだしも、クレアが乗り移っているとしたらかなりヤバい。
王族を憎み、その死を望む彼女が、クラインが死ぬと知ったらどうなる?しかもそれを私が防ごうとしていると知ったら?
確実に邪魔してくるよね、絶対に!!
お願いします。解けてないと言って下さい、頼むから)
だが結衣の願いも虚しく彼女の返答はーーー
『解けかけて、いるわ。それからこれだけは忠告してあげるーーー闇の魔術に気を付けて』
「……え、待って魔術使えるってこと?!ちょっ!行かないで!!そこ、大事なんですけどぉーーーっ!!」
それだけ言うと、再び“声”は存在を消した。
色々な意味で焦る結衣を、一人暗闇に残して……。
「ど、どうしよう。今の彼女の言葉が本当なら、クレアはある程度魔術を使える状態にあるってことだよね?」
このままループしたとして、結衣を待ち受けているのは未だ謎多きクラインの死。
しかも、今のフェリナ(おそらく)の言葉からして、闇の魔術が何らかの形で関与している可能性が高い。
ある意味彼女が一番危惧していた事態が、これから起きるわけなのだ。
「しかも前回分かったことと言えば、バッドエンドの原因が“傷”であるということだけ。はぁぁ、最悪だなこの状況。……でも」
結衣は目を閉じ、いつもの言葉を口にする準備を整える。
もちろん心は不安でいっぱい。もしかしたら自分の知らない所で事態が動く可能性だって十分にあるのだから。
自分の手に負えない魔術を使われれば、それに対抗する手段も知らない。
じゃあこのままここで、じっとしていれば事態は解決するのかーーー答えは否、だ。
たとえどんなに厳しい状況に置かれても、だからと言って、諦めるという選択肢だけはありえない。
なぜなら……
「もう一度、あの世界へ」
パァッと光が輝いて、結衣の身体を包み込み、彼女は再び、あの異世界へと送られた。
なぜなら、彼と約束したから。
次のループで助けると、そう約束した彼女の辞書に“諦める”という言葉はない。
送られた彼女の心には、ただ“助ける”という強い意志だけが、深く深く刻まれていた。
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