伸ばされた右手
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その鐘の音が響き渡った時、それは始まった。
「ぐっ」
突然クラインが喉を抑えて呻き声をあげる。
「クライン!!」
苦しみ始めた彼の姿は、紛れもなく夢で見たそれと一致していた。
相違点をあげるとするなら、ここに結衣がいることと、クラインが起きていることぐらいだろうか。
ゴーン 2回目の鐘が鳴る。
「ぐぅっ……くはっ」
「どうしたの?!一体、何が!何が原因で?!」
結衣の必死な声が届いたのか、クラインの唇が微かに動く。
酸素を求める隙間から、息も絶え絶えにクラインは、
「き……ず…が……」
ゴーン 3回目の鐘が鳴る。
「あ……あぁぁ、い、息がっ」
そう言って喉を抑えるクラインの両手をよく見ると、喉というよりある場所を抑えているのが分かった。
(……え、傷?)
だが考える時間も惜しんで結衣は、苦しみでその場に膝をついたクラインに必死に声をかける。
「お願いクライン!!今、誰か呼んで来るから!それまで死なないで!!」
クラインにそれだけ言って、結衣は助けを呼びに行くためこの場を去ろうとした。
だが、突如自分の腕を握る存在に邪魔をされる。
その間にも、4回目の鐘が鳴らされた。
「……え?」
何事かと彼の方を見返してみれば、その水色の瞳と目が合った。
「どうしたの?!今助けを呼んで来るからその手を離し…………」
言葉では言われていない。声に出されもしていない。でもその瞳を見れば、彼の意志は十分に伝わる。
助けはいらない、もう手遅れなんだ……と。
「っ!!そんな目しないでよ!私が……私が何とかするから!」
酸素不足で苦しいはずだ。
原因不明で混乱しているはずだ。
何より……死が近付く足音に、恐怖しているはずなんだ。
(なのに……どうして?)
「どぉ……して、そんなに優しいの?」
涙を流す結衣に対し、必死で伸ばされた彼の右手。
暖かな温もりが、彼女の頬に伝わって来る。
無情に告げる5回目の鐘が、彼の死期を知らせていた。
(もう、あと1回しか残されていない。ならせめて……)
伸ばされた手を強く握り返して結衣は、6回目の鐘が鳴る前にこう告げる。
「必ず……必ず助けてみせるから!」
今まさに死にゆく彼にとって、それは意味不明の言葉だっただろう。言っている本人でさえ、何故こんなことを言っているのか分からないのだから。
「…………」
クラインの唇がわずかに動いた。
そして……
ゴーン
彼にとって命の終わりを告げる鐘が、無情にも鳴らされる。
その鐘の音の直後、一度苦しみ呻く声がして、やがて握り返していた手から力が抜けた。
「あ……」
今、クラインの命は終わりを迎えたのだ。
「クライン!クライン!!ねぇ、返事してよ。お願いーーっ!!」
彼女の切なる願いさえ、彼の耳には届いていない。
ピクリとも動かない彼を見て、結衣は握っていた手をそっと外した。
クラインを救えなかった、それは紛れもない事実だ。そのうえ救うどころか逆に優しくされてしまった。
だが結衣の心が今、比較的冷静を保っていられるのは、他でもない彼のおかげでもあるのだ。
6回目の鐘が鳴る直前、わずかに動いた唇から読み取れた言葉に、結衣の中の罪悪感は軽減された。
“ありがとな”
それは一体、何に対する感謝だったのだろう。
それを知る手立ては、もう……ない。
「必ず次で、助けてみせるよ」
しかし、結衣にそう誓わせるだけの何かが、この言葉には込められていたのだろう。
薄れ行く意識の中で、結衣はクラインにそう言い残し、ゆっくりと目を閉じたのだった。
三章何だか長めの予感。魔女について初めて触れた章だからかもしれません。
お付き合い頂けると嬉しいです♪