始まりを告げる鐘の音
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また執筆意欲がどんどん湧いてきています♪
(時刻は23時55分、ただいまクラインの部屋の前まで来ております。ちなみに部屋を出てからここに来るまで、フローラにはバレずにすんだ。そこはひとまず一安心だね)
「今のところ、部屋の周りに特に変わったところは無し……か」
異常が無くてホッとする反面、その異常の無さに恐怖を感じる自分もいる。
問題の時刻が今日ではないのか、それともーーー
“異常が無いと思っているのは自分だけで、異常はすでに部屋の中で起きているのか”
「後者でないことを祈るよ、ほんと……」
結衣が緊張で乱れかけていた呼吸を、大きく深呼吸して整えたその時ーーー
ガチャッ
部屋の内側から扉が、何の前触れも無く開いた。
「っ!!」
(やっぱりすでに部屋の中に侵入者が?!)
床に映る人影に、結衣はゴクリと息を飲む。
「やっぱりユイ、お前だったか……」
「……へ?えっ!クライン?!」
扉の影から現れたのは、紛れもなくこの部屋の主、クライン・アルベルト本人だった。
「ハァァ……良かったクラインだったぁ」
「は?ここは俺の部屋だぞ、俺以外がこんな時間に出て来る方が逆に問題だろう。ていうよりもお前、こんなところで何してんだよ」
(うぐっ、また答えにくい質問してくれるじゃんか……まさか“あなたが死ぬかどうか確かめに来ましたぁ!”とでも、私に言えと?)
チラリと腕の時計を確認すると、問題の時刻まであと3分。
ついでに言えば、この腕時計はフローラの専属メイドになったときに貰ったもので高級品。
この世界で腕時計はとても高価な扱いらしい。
なんでも、このサイズの時計を作れる職人が、ほんの一握りしかいないのだとか。
「っていうかどうして分かったの?私がいるって」
「……あのなぁ、一応俺は元フローラの専属騎士なんだぜ?部屋の外の人の気配くらい読みとれなくてどーすんだよ」
その上、一般人の結衣は別に気配を隠そうとはしないため、余計に気付くのだそう。
(すごいな騎士って。クライン寝ていたはずなのに、そんな状況でも気付けるのか)
結衣がホウホウと感心していると、クラインが呆れた顔になる。
「んで?はぐらかしてねぇでちゃんと教えろ。理由が言えないなら、侵入者と思われても仕方ねぇんだぞ?」
「……よ、よばい」
「それ以上冗談を続けるなら、捕まえるがどうする?」
(……残り2分、少し探ってみようかな)
「……クライン、最近誰かの恨みを買ったような覚えはある?」
「は?んなもん数え切れねぇ程あんぞ。捕まえた罪人のほとんどからは恨まれてんだろうしな」
「……ソウデスカ。実はね、クラインを暗殺しようとしている奴がいるみたいなんだ。それを知って私、不安になっちゃって……」
思い切って結衣は夢の事は隠して、クラインに話してみる。
すると案の定クラインはにやりと笑って……
「ふん、そんな奴いたところで俺は死なないぜ?倒すからな」
「……クラインならそう言うと思いましたとも」
残り1分。
「ったく、心配してくれんのは嬉しいぜ?でも大丈夫だ。城内には衛兵も巡回して…………ん?」
「どうしたの?クライン」
それまで、眠そうに話をしていたクラインの顔が覚醒し、急に表情が険しくなる。
「……おいユイ、何か感じねぇか?ーーーとてつもなく嫌な、何かを」
「え、別に何も感じ……」
感じない、そう言おうとした途端、ゾワリと背筋が寒くなるような嫌悪感に襲われた。
何かは分からない。でも確実に、危険な事が起こると本能が警戒しているのだ。
「……ユイ、今日は特別な?ーーー部屋に入っとけ」
「う、うん」
クラインと共に部屋に入り、ガチャリと扉の鍵をかける。だが、結衣の中の本能は未だ警戒態勢で、嫌悪感も抜けていない。
(間違いない。問題の時刻はーーークラインが不可解な死をとげる時は……今夜なんだ!!)
チクタクチクタクチクタクチクタク。
クラインの部屋に飾られた時計が、音を立てて動いている。
その音が明確に聞こえるほどに、部屋の中は静かだった……。
チクタクチクタクチクタクチクッ…………
ゴーン
静まり返った城内に、その鐘の音は鳴り響く。
バッドエンドの始まりを告げる鐘が今、鳴らされた。