魔女の封印方法
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「建前はこの辺で良いだろう。この部屋には我々しかおらん、ユイに普通に話すとしようか……それから、あくまでこれが国としての話の場ではない証として、わしのことは名前で呼ぶように」
「分かりました、アイヴァント様」
結衣が了承したのを見届けてアイヴァントは、話し始める。
「まず始めに再確認として、魔女は現在封印状態にある。それはよいな?」
「はい、でもその状態がいつ解かれるかは誰にも分からないのですよね」
「そうだ。そしてその状態の魔女達は、一番力を発揮できる己の肉体を動かすことはできない」
(うん、そりゃそうだよね。それできたら封印の意味ないし)
「だがな……封印が弱まると、ある事が出来るようになってしまうのだよ」
「……ある事、ですか?」
嫌な予感しかしないアイヴァントの言い方に、結衣はゴクリと息を飲む。
「己の精神を他者の肉体に宿し、自在に操ることが出来るようになる」
「ーーーっ!じゃあもし封印が弱まっていたら、この中の誰かに乗り移っているかもしれないのですか?!」
「……そうだ」
(最悪だ。予想以上に最悪の展開だよ、これ!!)
なぜならもし結衣がここで、“封印が弱まっているかもよ!”とか伝えたとしよう。
そんな事をした暁には、信じる信じないに関わらず、みんなある程度互いを信用出来なくなるに違いない。
理由も話せず、証明もできない今の状況では、不要に不安を煽るだけだ。
「……そ、その操られている人を、特定する方法は無いのですか?!」
「特定する方法は、無いなーーーここまで400年、何事も異変は無かったのだ。今後も封印が解かれる事のないよう祈るしかあるまい」
ようするに今、はっきりと言われたのだ。
“対策無し。黙って神に祈りましょう”、と。
(そんな、国王!あなた達が知らないだけで、異変はすぐ目の前にいるんだよ?!異変の張本人だからね、私!!)
などと今すぐ叫べたならば、どんなにいいだろう。
伝えられないもどかしさで、結衣の心はいっぱいになる。
「……ならば、どのように封印したのですか?そもそもなぜ封印の弱まった時に起こる事を、知っているのかが分かりません」
(まさか魔女自ら教えてくれたわけではあるまいし。それにまだ肝心の封印方法も知らないよ?)
「封印方法は至ってシンプル。魔女だと思った相手を指差し、こう言えば良い」
そこで言葉を切ると、覚悟を決めたかのような顔になりアイヴァントは続けた。
「“姿暴かれし○○の魔女よ、永久に眠れ”、とな」
アイヴァントからそれ以上言葉が続けられることは無かった。
彼でさえ言葉に出すのも恐ろしかったのか、心なしか言い終わってホッとしている。
「……え、それで終わりですか?」
「そうだ、それで終わりだ」
(マジか、想像以上にシンプルだったよ!もっと儀式的なやつして、みんなでせーので封印したりするのかと思ったら、まさかの指差して“魔女みーっけ!”って言ったら封印完了?!)
これならば、もしも自分が魔女に乗っ取られた人を見つけても、混乱を招くことなく封印できると結衣はホッとする。
(でも随分と簡単というか、単純だな。だってさ、この方法ならもし不安になったとき、お互いにこれやり合って、何も起きなければ魔女じゃない証拠になるよね?ある意味この封印自体が、対策にもなると思うんだけどな……)
結衣がそう思っていると、気付けばアイヴァントの表情は未だ変わらないでいた。
まるで、まだ大切な事を言ってないかのような表情をしている。
「ただし、一つ注意点がある」
「注意点、ですか……正直、あまり良い予感はしないのですが」
「……そうだな、その予感はあっておるよーーー魔女に対して封印を行う分には問題ないのだが、もしこの封印方法を魔女でない者に対して行うと、ペナルティーが起こるのだ」
ペナルティー。これまた嫌な響きだ。
結衣の中で、悪い予感が増長されたような気がする。
「もしも魔女でない者に使った場合ーーー封印の言葉を唱えた方の存在が、この世界から消え去り、魔女の元へと飛ばされる。その者の存在を覚えているのは、唱えられた者しかいない……これが、ペナルティーだ」
「…………え?ーーーーは?」
「我々はこれを、“魔女の嘲笑”と呼んでいる」
重々しいアイヴァントの声だけが、部屋に響いて消えた。