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無理なお願い

 クラインは結衣の願いの内容に、信じられないという思いでいっぱいだった。

 それもそのはず。

 結衣が会いたいと願った相手であるフローラ姫は、この国の王族なのだから。

 国民ですらその階級次第では話すことなど不可能だというのに、他国の人間────そのうえ怪しい雰囲気を出しまくりの結衣が、彼女に会えるはずもない。


(まず、こいつはなぜそれを俺に頼んだ?冷静に考えてみれば、一般人がそう易々と会えない相手だということくらいは分かるはずだろ)


「あのなぁ……それが不可能な願いなことくらい、分かってるんだろ?どうしてそれを俺に頼むんだよ」


 第一、結衣がなぜ突然そんなことを言い出したのかもクラインには理解できない。


「いや確証は無いんだけどさ、クラインは会える立場の人間な気がするんだよねぇ。それに、お城の方に用があるんでしょ?」


「…...ほう?」


 結衣の鋭い指摘に、クラインは少し驚く表情を見せる。


(こいつ、案外頭が切れるのか。俺の何気ない一言を、しっかり覚えていやがった)


「確かにお前の言うとおり、俺は城の中に入ることはできる」


 本当の事を言うならばクラインにとって、フローラ姫に会わせるなど造作もないことだった。

 それだけの地位を、彼は持っているからだ。


 だが無闇に自身の身分を明かすことを好まない彼にとっては、それを結衣に教える義務は無い。


「会えなくても、遠くから顔を確認するだけでも構わないの!」


「んなこと言われてもなぁ……」


 クラインには結衣が、とにかくフローラの顔を確認したいというように見えた。

 それだけを聞くと、敵が対象の顔を確認したがっているようにも聞こえる。


(……が、目を見れば別の意味だと察しはつくな)


「きちんと理由を言え。まさか理由も無しに、会いたい訳では無いんだろ?」


「うっ……うん、まぁね」


 クラインの真剣な目が、結衣に向けられる。

 その目を見て結衣は、彼にどこまでのことを話すべきなのかを悩む。


(クラインはやっぱりお城に入ることができる人間だった。だけど夢の中での内容を、どうやって話せばいいんだろう)


 まだ起こってもいない未来の出来事を話したところで、信じる人間はまずいない。

 ましてや、クラインと結衣は出会って間もない関係なのだ。最悪の場合、結衣に対する疑惑を生みかねない。

 だがもう、なるようになれと結衣は心の中で覚悟を決めた。


「実は私、結婚式の日にフローラ姫が狙われるという情報を掴んだの。お願い、細かいことは聞かないで欲しい」


 それを聞いたクラインは、整った顔の眉間にしわを寄せながら何かを考え込むような表情になる。必死に見返してくる結衣の様子を横目に、クラインは心の中で葛藤した。


(ユイいわく、狙われている本人かどうかを確認したいだけだと言うが……いやいや、突っ込み所が多すぎて、どこから突っ込むべきかも分からねぇよ!この国の名前も知らなかったやつが、突然何を言い出すんだ?)


「もしそれが確かな情報なら、お前を今すぐにでも城に連れて行き、顔を確認させるだろうな。お前の目を見る限り、嘘をついてるようにも見えない。だけど、フローラに会わせるとなれば話は別だ」


「……そう、だよね」


 落ち込む結衣を尻目に、クラインは無意識に唇を噛んだ。


(くそっ。内容が内容だけに、このまま捨て置くわけにもいかないな。どうする?どうすればいい)


 二人の間に沈黙が流れる。


 だがいくら考えても、互いに良い案は浮かんでこなかった。


 打つ手はないのかと諦めたそのとき、背後からふいに誰かがクラインの名を呼んだ。

 まるで鈴の音のように綺麗な声に、クラインはハッと息を飲む。


「誰かと思えばクラインじゃない。こんな所で彼女とデート?」


 整ったクラインの顔から、徐々に血の気が引いていく。


「そ、その声は、やっぱりまさか……」


「無事に会えて良かったわ!クライン」


 笑顔でそう言う彼女に対し、クラインは唖然とした表情をしている。


「おいおい、なんでこんなとこにいるんだよ……」


 その様子はまるで、悪夢でも見ているかのようだった。



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