初任務終了
無事に次期国王として(?)の初任務を終わらせたクラインは、大きく一つ伸びをした。
「あーくそ、やっぱりいくら国王命令だからって、朝からこの任務は重すぎたぜ。ったく、完了報告もしねぇといけねぇし。めんどくせ……」
ガシガシと頭をかきながら、執務室にいるであろう国王の元へと向かっていく。
すると、廊下の反対側から結衣が歩いてきた。
結衣もクラインに気付いたのか、小さく手を振っている。
「あ、クライン!また会ったね」
「ん?……あぁユイか、もうフローラとの話は済んだのか?」
「うん!話もすごく盛り上がって、とっても楽しかったよ」
まぁ主に、その盛り上がったネタはクラインのことについてであるのだが。
しかし諺にもある通り、それは“言わぬが花”というやつだろう。
(ごめんクライン。幼い頃のエピソードとか、最っ高ーーに楽しませて頂きました!やっぱり幼なじみ設定って素敵だわほんと!!)
「そういえばお前一人でいるけど、フローラの専属メイドの仕事はいいのか?」
「うん。今は特に用事ないから、城内見学してきたらどうかってフローラが提案してくれたんだ。でもクラインに聞きたいことあったから、会えてちょうどよかったよ!」
「聞きたいこと?何だ、今から国王のところに報告があるから、手短にしろよ?」
「いやさ、疑問がいくつかあるんだけど。そうだな、例えば魔女の封いっ……」
“魔女の封印”と言おうとした途端、クラインの手が慌てて結衣の口元を覆い、急に小声になった。
「ーーーおまっ!何こんな城内の廊下で、その単語出してんだよ?!“魔女の封印”についてはある意味禁句にも等しいんだぞ!言わなかったか?封印に関するほとんどが、王族にしか伝わってないんだ」
「え、そうだったの?ごめん、知らなかった……」
「……ったく。その関連の話をしたいんなら、ついでにこのまま一緒に来いよ。国王の執務室でなら、話しても大丈夫だからな」
コクリと結衣が頷いたのを確認して、クラインは執務室に向かって再び歩き出した。
「……ところでユイ、俺に対して敬語使わないのは無意識か?」
クラインに指摘されて初めて気付く。
完全に無意識……というよりも、つい忘れてしまうのだ。
「あ……ごめんなさい。はい、もう完全に無意識でした!き、気をつけよう」
「いや、別に公の場以外でならむしろ使わないでくれると嬉しいぜ。まぁ今は一応、話口調だけな?」
「うん……あ、はい!ーーーあれ、怪我してますよ、首筋」
クラインの左の首筋に、何かがかすったような、真新しくて細長い傷があることに結衣は気付いた。
まだじわりと血が滲んでいて、見ていて少し痛々しい。
「ん?あぁ、これか。別にたいしたことねぇよ、ただのかすり傷だ。俺の甘さが招いたもんだしな」
(よく分からないけど、まぁ確かに傷は浅そうだし心配はいらないかな)
「そうなんですか。でも首筋は本当に気をつけて、クライン!頸動脈やられたら即死ですからね?!」
「……けいどうみゃく?首筋のことだろ?大丈夫だ、致命傷の場所くらい分かってるよ」
「なら良いんですけどーーーお願いですから、死なないでクライン」
最後の言葉はわざと小さい声で言ったからか、本人には聞こえていないようだった。
(駄目だ。普段ならいくら首筋だからって、かすり傷など気にしたりはしないのに)
彼は騎士だったのだ、そのうえ剣豪。
かすり傷の一つや二つ、別にあっても不思議じゃない。
クラインの怪我に対して過敏に反応してしまうのは、確実に今朝の夢の影響だろう。
(うん……早く原因を突きとめよう)
クラインの後ろを歩きながら、そう心に誓う結衣だった。
そして、後に彼女はこの時の傷について、あまり詳しく追及しなかったことを心底後悔することになるのだが、それはまだ、誰も知らないーーー。