牢屋での出来事ークライン視点ー
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カツンカツンカツン
地下へと続く階段を下りる度、靴音が周囲に響き渡る。
階段を下りた先には門があり、門番がその先への訪問者の無闇な入場を拒んでいた。
「お疲れ様です、クライン様。ご用件を伺ってもよろしいでしょうか」
「国王命令で、シュバイン・リーズベルトに面会しに来た。取り次ぎを頼む」
国王命令と聞き、門番も慌ててクラインに敬礼して門を開いた。
「見張りご苦労だな。頑張れよ」
「はっ、ありがとうございます!精一杯やらせて頂きたく!」
中に足を踏み入れると同時に、ひしひしと肌に感じる罪人達の視線。
怒鳴る訳でもなく、出してくれと懇願する訳でもない。
彼らはただひたすらに、クラインから視線を外さないのだ。
まるで、この場所に入れたことに対する責任を、彼にも背負わせようとしているかのように……
仕事上、この場所にはよく訪れるが、その視線に慣れることなどきっと無いだろうといつも思う。
だがいくらそんな視線をしようと、怯えることも罪悪感を感じることもするつもりはない。
確かにこの場所に入れるよう命じたのは自分だが、その原因を生んだのは、紛れもなく彼ら自身なのだから。
そう。門の先に続いているのは、罪人達を閉じこめている牢屋だ。
奥に行けば行くほど、重罪を犯した者がいる。
その最奥に、彼はいた。
(ま、王族を殺そうとしたんだ。当たり前だな)
「よ、元気……じゃ、なさそうだな」
「何しに来た、まさか今さら私に許しを請いに来たのか?ふっ、馬鹿め。もう遅い、今に兄上達がお前を不敬罪で殺しに……」
「あー、めんどくせ。まだそんなこと言ってんのか?案外元気じゃねぇか」
「うるさいうるさい!お前さえ……お前さえいなければ全ては上手くいっていたのだ!!お前のせいで私はこんな汚い場所にっ!!」
ギラギラと赤い目を光らせながらこちらを睨みつけるその目には、憎悪の念が宿っていた。
その上なにやらブツブツと言っているようだが、小さすぎて聞き取れはしない。
どうやらシュバインは、家族が助けに来てくれることを信じて疑わないようだ。
残念ながら彼の願いは叶わず、誰も助けになど来ないのだが……
(それを伝えるために、こんな場所まで来たんだ。さっさと用事を済ませて引き上げよう)
クラインがそう思い、シュバインから意識がほんの少し反れたその時……
「ーー─死ねばいいんだっ!」
「───っ!」
何かが首筋を軽くかすめ、かすめたところが熱を帯びた。
とっさに避けなければ、確実に首筋から血が吹き出し、死に至っていただろう。
クラインとシュバインを隔てる鉄格子の隙間から、シュバインがクラインの首筋に向けて突然攻撃してきたのだ。
「ちっ、しとめ損ねたか。感の良い奴め……」
「……なっ?!武器なんて取り上げられたはずだろ!」
シュバインが持っている武器をよく見ると、それは石を尖らせて、凶器にしたようだった。
クラインが驚いているうちに、シュバインは牢屋の鉄格子の窓から凶器を外へ投げ捨てた。
証拠隠滅とでも言いたげだ。
「……ったく、そんなもん作ってる暇があったら反省の少しもしろよな。まだお前の処罰は決定してねぇんだ。行動には気をつけるべきだと俺は思うぜ?」
(不意打ちとはいえ、罪人に対し油断していた俺も馬鹿だったな。反省すんのは俺も同じか……)
「うるさい!そんな処罰など下されるはずが無いだろう。私はリーズベルト国第二王子だ!そんな事できる訳も無い」
(あーもう、うるせぇ。さっさと伝えよう)
「そうだな、お前がほんとに“隣国の王子”だったらな?まぁ、確かに簡単には処罰は下せねぇよ」
「……は?何を言ってる!紛れもなく私はシュバイン・リーズベルトだ!」
「あぁ、そうだったなーーー“元”王子様だった、すごいすごい」
(あ、いやどうだろう。廃嫡されたんだから、王族であった事実も無くなるのか?それならこいつは、ただの一般市民。もはや何の権力も肩書きも持ってねぇわけだ)
「元、だと?何を言っている。今このときも、私は王子……」
「いや、お前はもう王子じゃない。ましてや王族ですら無いーーーお前は廃嫡されたんだ、リーズベルト国からな」
「は、廃嫡だと?そ、そんなことあるわけが……!」
「ほいこれ、お前の“元”家族からの廃嫡命令だ。それが家族の字かどうかくらい、分かるだろ?」
受け取れよ、とひらひらさせながらクラインは、紙を牢屋に投げ入れる。
それを慌てて受け取って読んだシュバインの顔が青ざめる。どうやらクラインの言葉が嘘ではないと認めたらしい。
「は、母上の字まで……なんだこれはーー─茶番か?それとも悪質な夢か?!」
「どちらでもねぇよ、現実だ」
クラインの言葉に、突然シュバインは狂ったかのように叫び声を上げた。
「出せ!ここから出せ!私が直接確かめてやる!!お前らが……お前らが脅して書かせたんだ!そうに違いないんだぁーーーっ!!」
「ーー─哀れとは思わねぇよ。そこで状況を早く理解しろよ、シュバイン」
それだけ言うとクラインは、シュバインのいる牢屋に背を向け、歩き始めた。
後ろからありとあらゆる罵詈雑言が聞こえてくるが、振り返るようなことはしない。
牢屋中に響き渡っていたシュバインの声も、彼が門に着く頃には距離が邪魔をして、クラインには届かない。
ただ何事も無かったかのようにクラインは、門番に報告をして、地上へと続く階段を上り始めるのだった。
カツンカツンと響く靴音だけが、クラインの耳には聞こえていた…。