表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/167

牢屋での出来事ークライン視点ー

新たに評価して下さった方、ブックマーク登録して下さった方ありがとうございます!

とっても励みになりました♪

 カツンカツンカツン


 地下へと続く階段を下りる度、靴音が周囲に響き渡る。

 階段を下りた先には門があり、門番がその先への訪問者の無闇な入場を拒んでいた。


「お疲れ様です、クライン様。ご用件を伺ってもよろしいでしょうか」


「国王命令で、シュバイン・リーズベルトに面会しに来た。取り次ぎを頼む」


 国王命令と聞き、門番も慌ててクラインに敬礼して門を開いた。


「見張りご苦労だな。頑張れよ」


「はっ、ありがとうございます!精一杯やらせて頂きたく!」


 中に足を踏み入れると同時に、ひしひしと肌に感じる罪人達の視線。

 怒鳴る訳でもなく、出してくれと懇願する訳でもない。

 彼らはただひたすらに、クラインから視線を外さないのだ。

 まるで、この場所に入れたことに対する責任を、彼にも背負わせようとしているかのように……


 仕事上、この場所にはよく訪れるが、その視線に慣れることなどきっと無いだろうといつも思う。

 だがいくらそんな視線をしようと、怯えることも罪悪感を感じることもするつもりはない。

 確かにこの場所に入れるよう命じたのは自分だが、その原因を生んだのは、紛れもなく彼ら自身なのだから。


 そう。門の先に続いているのは、罪人達を閉じこめている牢屋だ。

 奥に行けば行くほど、重罪を犯した者がいる。

 その最奥に、彼はいた。


(ま、王族を殺そうとしたんだ。当たり前だな)


「よ、元気……じゃ、なさそうだな」


「何しに来た、まさか今さら私に許しを請いに来たのか?ふっ、馬鹿め。もう遅い、今に兄上達がお前を不敬罪で殺しに……」


「あー、めんどくせ。まだそんなこと言ってんのか?案外元気じゃねぇか」


「うるさいうるさい!お前さえ……お前さえいなければ全ては上手くいっていたのだ!!お前のせいで私はこんな汚い場所にっ!!」


 ギラギラと赤い目を光らせながらこちらを睨みつけるその目には、憎悪の念が宿っていた。

 その上なにやらブツブツと言っているようだが、小さすぎて聞き取れはしない。


 どうやらシュバインは、家族が助けに来てくれることを信じて疑わないようだ。

 残念ながら彼の願いは叶わず、誰も助けになど来ないのだが……


(それを伝えるために、こんな場所まで来たんだ。さっさと用事を済ませて引き上げよう)


 クラインがそう思い、シュバインから意識がほんの少し反れたその時……


「ーー─死ねばいいんだっ!」


「───っ!」


 何かが首筋を軽くかすめ、かすめたところが熱を帯びた。

 とっさに避けなければ、確実に首筋から血が吹き出し、死に至っていただろう。


 クラインとシュバインを隔てる鉄格子の隙間から、シュバインがクラインの首筋に向けて突然攻撃してきたのだ。


「ちっ、しとめ損ねたか。感の良い奴め……」


「……なっ?!武器なんて取り上げられたはずだろ!」


 シュバインが持っている武器をよく見ると、それは石を尖らせて、凶器にしたようだった。

 クラインが驚いているうちに、シュバインは牢屋の鉄格子の窓から凶器を外へ投げ捨てた。

 証拠隠滅とでも言いたげだ。


「……ったく、そんなもん作ってる暇があったら反省の少しもしろよな。まだお前の処罰は決定してねぇんだ。行動には気をつけるべきだと俺は思うぜ?」


(不意打ちとはいえ、罪人に対し油断していた俺も馬鹿だったな。反省すんのは俺も同じか……)


「うるさい!そんな処罰など下されるはずが無いだろう。私はリーズベルト国第二王子だ!そんな事できる訳も無い」


(あーもう、うるせぇ。さっさと伝えよう)


「そうだな、お前がほんとに“隣国の王子”だったらな?まぁ、確かに簡単には処罰は下せねぇよ」


「……は?何を言ってる!紛れもなく私はシュバイン・リーズベルトだ!」


「あぁ、そうだったなーーー“元”王子様だった、すごいすごい」


(あ、いやどうだろう。廃嫡されたんだから、王族であった事実も無くなるのか?それならこいつは、ただの一般市民。もはや何の権力も肩書きも持ってねぇわけだ)


「元、だと?何を言っている。今このときも、私は王子……」


「いや、お前はもう王子じゃない。ましてや王族ですら無いーーーお前は廃嫡されたんだ、リーズベルト国からな」


「は、廃嫡だと?そ、そんなことあるわけが……!」


「ほいこれ、お前の“元”家族からの廃嫡命令だ。それが家族の字かどうかくらい、分かるだろ?」


 受け取れよ、とひらひらさせながらクラインは、紙を牢屋に投げ入れる。

 それを慌てて受け取って読んだシュバインの顔が青ざめる。どうやらクラインの言葉が嘘ではないと認めたらしい。


「は、母上の字まで……なんだこれはーー─茶番か?それとも悪質な夢か?!」


「どちらでもねぇよ、現実だ」


 クラインの言葉に、突然シュバインは狂ったかのように叫び声を上げた。


「出せ!ここから出せ!私が直接確かめてやる!!お前らが……お前らが脅して書かせたんだ!そうに違いないんだぁーーーっ!!」


「ーー─哀れとは思わねぇよ。そこで状況を早く理解しろよ、シュバイン」


 それだけ言うとクラインは、シュバインのいる牢屋に背を向け、歩き始めた。

 後ろからありとあらゆる罵詈雑言が聞こえてくるが、振り返るようなことはしない。

 牢屋中に響き渡っていたシュバインの声も、彼が門に着く頃には距離が邪魔をして、クラインには届かない。


 ただ何事も無かったかのようにクラインは、門番に報告をして、地上へと続く階段を上り始めるのだった。


 カツンカツンと響く靴音だけが、クラインの耳には聞こえていた…。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ