魂の誓い
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昔々、このエメラルド国の王城では二人の美しい姉妹が働いていました。
姉の名はフェリナ、妹の名はクレアと言って、それはそれは仲の良い姉妹だったそうです。
彼女達は元々孤児で、親が誰なのか定かではなく、また貴族でもありません。
それにも関わらず彼女達は、貴族をはじめ王族にすら一目置かれる存在でした。
なぜなら彼女達は……
魔術師だったから。
この世に魔術を使うことのできる存在は彼女達たった二人だけ。
なぜ彼女達が選ばれ、彼女達しか使うことが出来ないのか────それは定かではありません。
しかし事実、魔術師は、光の魔術を司る姉フェリナ、闇の魔術を司る妹クレアの二人だけなのです。
彼女達は常に二人で行動し、国のために魔術を行使することも厭いません。
はじめは他国も躍起になって彼女達を欲しがりましたが、何度誘拐を試みても失敗に終わり、やがて考えは変わります。
自らの手に入らない力なら、いっそ国ごと滅ぼしてしまえ────というように。
その考えは小さな火種となって、そこから国同士の戦争の火蓋が切って落とされました。
もちろん魔術師のいるエメラルド国は圧倒的な強さを持ち、望めば領土を好きなだけ増やすことも出来たでしょう。
しかし当時のエメラルド国王は争いを好まず、彼女達の力は襲い来る敵にのみ行使されました。
それが分かった他国のほとんどはエメラルド国への侵略を諦め、戦争は終結に向かったかのように見えたのです。
しかし……
「まぁそのあとも色々あって、結果二人の魔女は封印されることになったんだよね。今は東にクレア、西にフェリナが封印され、長い眠りについているよ」
(……え────っ!!いやその封印までの過程はどうしたっ?!そこ絶対に省くとこ違うから!!……まぁいいや、あとでフローラにでも聞いてみよ)
「それで、現在魔術を使える人はいないのですか?」
「ん?あぁ、いない。今も昔も、魔術を使えるのは彼女達だけだよ」
(ふむふむ、じゃあこの世界には魔法やら魔術は現状存在しないわけですか。良かった。死の原因がもし魔術とかだったら、一般人の私じゃ適わないからね。……本音を言えば、私も魔術使ってみたかったけど)
「兄上、それだけでは説明不足だ。“今も”ってところを、もっと掘り下げねぇと伝わらないぜ?」
「まぁそれもそうか。でもそれ言う必要あるのかい?いつのことかも分からないのに」
「え、それはどういう意味ですか?」
結衣がシリウスに尋ねると、ヤレヤレと言うように言葉を続けた。
「うん、さっき“封印”と言ったでしょう?ようするに彼女達は死んでるわけじゃない。ただ“眠っている”状態なんだ」
「魔女達の力が強大すぎて、完全に無くすことはできなかったってことだよ」
シリウスとクラインの、やけに含みを持った言葉が気になる。
「つまり、その封印が弱まれば、彼女達の力はこの世界に再び現れる。魔術が再び復活するんだ。それは避けられない事実だよ。でも同時に、封印が弱まるのがいつかなんて誰にも分からない……恐ろしいことにね」
シリウスの言葉に、結衣以外の全員が頷いているのが分かった。まるで、皆同じ気持ちだとでも言うように。
(あれ、でもそれって少しおかしくない?どうしてみんなが恐れているのかが分からないんだけど)
「どうして恐ろしいのですか?味方なんでしょう、その魔女達は。たとえ復活したとしても、少なくともこの国に危害は─────」
「及ぶんだよ。主に、東の魔女クレアによって。僕らの祖先は、彼女を怒らせてしまったからね」
悲しげな表情をして告げるシリウスに、突然国王が口を開く。
「シリウス、そこまでじゃ。そこから先は、たとえユイでも話してはならん。そこから先の事実はごく一部の者しか知ることを許されていないのだからな」
「申し訳ありません、主。ご忠告感謝致します……すまない、ここから先は無闇に教えるわけにはいかないんだ」
シリウスの謝罪に付け加えるようにして国王も、言葉を付け足す。
「ユイよ、考えてみるが良い。いつ目覚めるか分からず、その上安全が保証されていないことを国民が知ったらどうなる?」
「……なるほど、パニック状態になりますね。封印されているのは国内ですし」
その答えに満足したかのように国王も頷く。
「うむ、それゆえに本当は安全が保証されていないと教えるのも躊躇ったのだが……まぁ良い」
「あとは“魂の誓い”について教えていなかったね。これは国王とその専属騎士の間で交わされる、永遠の忠誠を誓うものだよ。これを交わした相手を裏切るような行為をすれば、誓いによって死がもたらされるんだ」
「最も裏切ることを許されない身分だからこそ、この誓いはせねばならん。機密情報をもらさないための対策でもあるのだよ」
「その誓いの言葉の中に、魔女が登場するのさ」
(なるほど、そういう関連性か)
「さて、此度の話は以上だ。朝食にせねばな」
朝の謁見は、こうして国王のこの言葉をもって、終わりを告げたのだった。