目覚めたら見覚えのある部屋
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「クラインっ!」
自らの叫び声で目を覚ました結衣の視界に入ってきた景色は、見覚えのある部屋の天井。
起き上がって結衣は、そろりと周りを見渡してみる。
「……嘘、元の世界に帰れて、ない?」
部屋の内装が、ここはまだエメラルド国であり、姫の専属メイド専用の部屋だと教えてくれた。
「どういうこと?フローラを助けて、私の役目は終わりじゃないの?」
寝起きというだけでなく、まだ現世に帰れていない現状に困惑しつつ、頭を働かせる。
だが考えるまでもなく、その疑問に対する答えはすでに彼女自身、身を持って知っていた。
つい先程まで見ていた夢が、彼女にまだ役目が終わりではないことを告げているのだから……。
「もしまたフローラのときのように、あの夢が未来を示す予知夢であるなら────」
今度殺されてしまうのは、確実にクラインだ。
「そんな……もうやだよ、知り合いが殺される所なんて、もう見たくないのに!!」
二回のループを経てようやく、ようやく一人の運命を変えられたというのに、再び始まる悪夢の予感。
その絶望感を、一体どう表現すれば良いというのか。
しかも次の助ける対象は、結衣がやっとの思いで助けた人の旦那様だ。
新たに王族に加わり、今幸せの絶頂にいるクラインがまもなく殺されるなど、一体誰が信じたいだろう。
「とりあえず、今はクラインの無事を確認しないと……」
のろのろとベットから起き上がって、身支度を整える。昨日メイド長に教わった通りに、結衣はフローラを起こしに行く。
扉をノックする前に、自分の顔がきちんと笑えているか少しだけ不安になった。
パチッと軽く頬を両手で叩いて、結衣は軽く気合いを入れる。
今からフローラに会いに行くというのに、余計な心配はさせたくないと思ったからだ。
コンコンとフローラの部屋の扉をノックをすると、思いがけず返事があった。
「はーい、ユイ?」
ガチャリと扉が開き、中からフローラが現れる。
「おはようございます。まさかすでに起きて、身支度まで整っているとは。すみません、来るのが遅すぎましたね……」
「いいのよ、いつもならまだ寝ていたわ。でもなんだか今朝は早く目が覚めてしまったの」
昨日の結婚式の興奮がまだ冷めていないみたい、と軽く笑うフローラに、結衣はこのあとの予定を話した。
「まずは朝食ですね。そのあとは……」
「あ、その前にさっき使いの者が来て、朝食前にお父様と謁見があるそうよ?」
「そうなのですか、分かりました。では朝食の準備をしてお待ちしてますね」
(国王との謁見ならば、私が行く必要はないだろう。というより、私が聞いてはいけない話なのかもしれないし)
「何を言っているのよユイ。あなたも同行するのよ?何でも昨日の結婚式での事情説明だそうなの」
「なるほど、そういう事でしたら。では一緒に参ります」
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「と言ってついて来たものの、この場違い感半端ないのですが!やっぱりここにメイドはいるべきでは無いのでは?!」
今、謁見の間にいるメンツは全部で6人。
国王、王妃、フローラ、クライン、シリウス、そして結衣だ。
今権威が高い順に言ったが、シリウスと自身の間には、天と地ほどの権威の差がある気がすると結衣は思う。
ちなみに補足しておくと、兄であるのにシリウスがクラインより下になったのは、クラインが姫の専属騎士から次期国王へと肩書きが変わったからだ。
シリウスの方が兄であるとはいえ、国王専属騎士と次期国王では仕方のない事とも言えるだろう。
「そんなこと無いさ。ユイ、君がいなければフローラ姫の命は無かった。その功績は君が思っている以上に大きいんだよ?」
「そうそう、兄上の言う通りだ。お前はそれだけの事をしてくれた」
「そなたはあまり分かっていないようだが、そなたに与えたその称号は、フローラのいるところならどこにでも入れる。この場にいる権利は十分あるだろう?」
シリウス、クライン、国王にまで口々に言われ、さすがに結衣も頷かざるを得ないのだった。
だが今の会話についていけていない者が一名。
首を傾げて国王を見ている。
「私の命が無かった?功績?────どういう事なのか、きちんと私にも説明して欲しいわ!お父様」
「分かっておるよ、そのためにお前を呼んだんだ。さて、どこから話そうか……」
こうして始まった昨日起きた事の告白は、それから優に一時間ほどかかることになる。
(良かった、取りあえずまだ何も異変は起こってないみたい。クラインが生きてる……今はそれだけで、十分だよね)
結衣はクラインが生きていることにとりあえず安心しつつ、国王の話の間、なるべくフローラが傷つかなければと、ただそれだけを祈るのだった。