夢が現実に
「ほら、着いたぜ。ここがエメラルド国の城下町だ」
クラインに釣られて彼の目線の先を追うと、そこには道の両脇にお店が所狭しと並んでいた。
老若男女問わずたくさんの人が行き交っており、その人々の服装は質素な服から、煌びやかなドレスまで様々だった。
大きな通りには馬車が走っている様子も見受けられる。
この風景を見て改めて結衣は、自身が異世界にいるのだという事実を実感したのであった。感情は言わずもがな高まって、彼女の瞳はキラキラと輝く。
「凄い、まるでアニメに出てくる異世界みたい!」
「は……?アニメ、異世界?何言ってんだお前……」
「げっ……あはは……何でもない何でもない!」
結衣の意味不明な発言に、クラインは怪訝そうな顔をする。その表情を見て、結衣は心の中で反省した。
(やばいやばい、声に出てた……感情の先走りには気をつけないと)
「クライン、連れてきてくれて本当にありがとう。おかげで無事に草原を抜けられたよ」
「気にすんな、俺もこっちに用があるからな。ついでだ」
これだけ多くの人がいる場所でなら、自身がなぜここに来たのかが分かるかもしれないと結衣は希望を抱く。
それよりほら、とクラインは城下町の上の方を指差した。
「あれがこの国の城、エメラルド城だぜ。壮麗だろ?」
その言葉に釣られて、結衣はクラインの差す方に目を向ける。
「…………え?嘘ーーー」
一瞬、自分の目を疑った。
遠くから見える、見覚えのあるその城の形に。
なぜならその城の形を、彼女は知っていたからだ。
いや、正確には見たことがあると言うべきかもしれない。
そう。今朝の夢に出てきたあの城と、恐ろしいくらいによく似ているのだ。
「ま、まさか!今朝の夢に出てきたお城って……エメラルド城?!」
そういえばクラインが、近々結婚式があると言っていたことを思い出す。
あの夢に出てきたお姫様の格好は、今思えばブライダルドレスのようにも見えた。
もしこの国のフローラ姫が、夢の中のお姫様と同一人物ならばーーー結衣の頭の中を、嫌な予感が駆け抜ける。
「ね、ねぇクライン。変なこと聞くけどさ、エメラルド城の前が花畑になってたりしないよね……ね?」
違う、と言う返事がくるのを期待しつつ、結衣は恐る恐るクラインに聞く。
「あぁ、なってるぜ。城の前は一面、綺麗な花で溢れてる。けど、なんでそんな事だけ知ってるんだ?」
無情にも結衣の淡い期待は、クラインの言葉であっけなく裏切られる事となった。
(どういう訳か、ここまで私の見た夢の内容と一致するなんて!とにかくフローラ姫の顔を確認しなきゃ!)
これでは夢のバッドエンドが、現実に起きない保証はどこにもない。
結衣がそんな焦りを覚える一方。
エメラルド城を見た途端、結衣の表情が強ばったことをクラインは見逃さなかった。
(何だよその顔……まるで、恐ろしいものでも見たかのような顔だな。まさかユイの訳ありに、何か関係しているのか?)
正直に言えばクラインは、結衣が他国からの敵の可能性もまだ十分にあると見ていた。
だが彼女に戦闘力があるようには思えず、何か怪しい動きを見せるまでは特に行動を起こさずにいようと考えていたのだ。
その選択が出来たのはたとえ彼女が敵だとしても、ある程度の相手ならば対応できる確かな実力を、クラインが持っているからである。
「おいユイ、一体どうしたんだ?先程から急に黙って。エメラルド城が、どうかしたのか?」
「……クライン、お願いがあるの」
結衣の真剣な表情に、クラインは無意識に息を飲む。
クラインの左手は無意識に、腰に差した剣の鞘に触れていた。
「私をフローラ姫のところに連れて行って欲しい。できれば、今すぐにでも!」
「…………は?」