第三章 プロローグ
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「いやぁ、良かったな。姫様とクライン様なら、お似合いだ!」
「お二人ともお互いをよく知っておられるからな」
「知っている方が王になる方が、我々も安心というものだ」
口々に祝いの言葉が交わされているここは、城の大広間。
煌びやかな装飾と、趣向を凝らした華やかな料理の数々が所狭しと並べられている。
今はバルコニーでの御披露目直後。
今日だけ特別に開放された城の大広間には、溢れんばかりの人々が足を運んでいた。
貴族はもちろんだが、普段は入ることが許されていない民達の姿の方が多い。
その様子を、広間の数段高くなっている場所から見下ろしながらフローラは微笑ましげに見守っている。
「ほら見てクライン、こんなにたくさんの人々が私達の結婚を祝福してくれているわ」
「あぁ、賑やかな結婚式になって良かったな、フローラ。お前は賑やかな方が好きだろ?」
昔からお祭りやら記念日やらで城下町が賑わうと、必ずといっていいほど、フローラは城を抜け出し参加していた。
もちろん姫である彼女には、それが許されているはずもない。
にも関わらず、目を離せば護衛も付けずに城の外へと抜け出すのだから、“ほんとに困った姫様だったな”とクラインは心の中で笑うのだった。
「姫様、お料理これでいいですか?どれも美味しそうで、正直選びきれませんよ」
フローラとクラインが話していると、そこに結衣が料理を持って現れた。
皿の上には種類豊富な料理が、少しずつ並べられている。
「ありがとうユイ。あなたも食べてきて良いのよ?」
「いえ、私は姫様の専属メイドですからね。役目を全うしなければ!」
「うふふ、頼もしいわね」
うんうん、と自分の言葉に頷く反面。
結衣は、自分が役目を全う出来るのは果たしてあとどれ程だろうと考えていた。
(フローラを救うという使命は無事に果たした。本当は、バルコニーの直後くらいに現世に帰るのかなって思ってたんだけど……)
何らかの状況を覚悟して目をつぶり、心の中で幸せな二人にさよならとまで言った結衣だったのだが、結局それらしいことはまったく起こらず今に至る。
「私は一体、いつ帰るんだろ────あ、もしかして夢見てトリップしたから、帰りも夢からトリップ的な?そっか、それなら今帰れないのも納得だね」
(ならおそらく現世に帰るのは今日の夜。じゃあせめて、今はただ……もう会えないかもしれない彼らと、たくさん祝ってたくさん話そう。決してこの不思議な日々を、忘れることが無いように────)
「クライン、姫様、改めておめでとうございます!」
こうして、結婚式後の宴は日が傾き、そして日が落ちるまで続いた。
大広間での盛大な祝いの余韻はやがて町中に広まり、夜も更けたというのにその熱は冷めることを知らない。
城内の窓から町を見渡せば、辺り一面光の装飾。
いつもならポツポツと見える明かりは、今日だけは城下町の至る所で光って見えた。
「姫様、そろそろお休みになられますか?」
「えぇ、そうね。今日は色々と疲れたし。ユイ、あなたは私の専属メイドなのよね?なら、部屋はこっちよ」
そう言われて案内されたのは、フローラの部屋の隣室。フローラの部屋の半分くらいの広さだが、それでも現世の自分の部屋よりも、その部屋の方が断然広かった。
「ありがとうございます。何か私がやることはありますか?何分今日就任したばかりなので、勝手が分からなくて……」
「大丈夫よ、あとは着替えて眠るだけだから。ユイも今日は疲れたでしょう?あなたも早く寝た方がいいわ」
正直に言えば、疲れから早く眠りたい気持ちもあるのだ。
しかしそれと同時に、まだ話していたいと思う自分もいるのもまた事実だった。
(おそらくこれが、フローラの姿を見る最後の時間。だからせめて……声に出してさよならを─────)
「姫様────ううん、フローラ」
フローラはいきなり名前で呼ばれたことに驚いたが、それを諫めることはしなかった。
「またね────どうか、幸せな夢を」
「え?えぇ、あなたもね。ユイ」
互いに自分の部屋に戻り、用意されたベットに入る。
その心地よさに身を任せながら、結衣は目を閉じた。
「さよなら、エメラルド国のみんな。短い間だったけど、素敵な時間をありがとう」
そして最後の別れの挨拶をして、夢を見るため、眠りについたのであった───────。