番外編 3 “はじめての魔物”
新たにブックマーク登録して下さった方々ありがとうございます(≧∀≦)!!これからも頑張りますので、応援宜しくお願いします♪
「しょ、正気ですか国王?!」
クラインの去った部屋に、シリウスの叫び声が響き渡る。
「なあに、クラインの実力を知りたいだけだ。アルベルト家ならばあの程度の魔物、造作もあるまい?それにデカバチの危険度は極めて低いしな」
「クラインは魔物との戦闘経験が無いのです!」
「……安心しなさい。いざという時は私の部下が助けに入る。だからお前の手出しは、無用だ」
「…………」
部屋の外に出て窓の外を覗くと、花畑にクラインの姿が見えた。
「もう一人いるな……誰だ?ーーーっ!!あの髪の色、間違いない!フローラ姫がなぜあそこに!!」
その上背後に迫り来る敵に、二人はまだ気付けていない。
「危ない!クライン、姫様!!後ろっ!!」
手出しは無用と言われているのに、思わず叫んだシリウスだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「く、クライン……」
フローラの不安げな声が、背後から聞こえる。
(俺が守らないと!!)
クラインは覚悟を決めて鞘から刀身を抜き、敵である巨大なハチに剣先を向けた。
「よ、よーし。どこからでもかかってこいよ!」
その弱々しくて、虚勢見え見えの挑発に乗ったかのように、バタバタと大きな羽音をさせながら、デカバチがクラインに近づいてくる。
(巨大だし、しかも飛ぶ。こんな魔物相手にどう戦えば……)
チラリと城の窓を見上げると、シリウスがまだそこから顔を出していた。
(なぜあにうえは、来て下さらないんだ?ま、まさかこれ俺がどうにかしろ的な感じか?!くっそー、姫の前だし格好付けたい!あにうえなら、一体どうする?!)
「まずは羽だ!羽を狙いなさいクライン!」
戸惑っていると、窓からアドバイスが飛んできた。
その言葉通りにザシュッと大きな音を二度させて、両方の羽を傷つける。
デカバチの抵抗してきた前脚は、横に転がり避けつつ、剣で他の攻撃を牽制。
今まで剣は基礎をひたすら磨いて、身体能力も最低限は身につけた。だからだろうか、こんなにも思い通りに身体が動くのは。
嫌というほど身体に染み込んだ型通りに身体を動かしながら、デカバチに着々と剣で傷を付けていく。
「これでっ、終わりだ!!」
デカバチの顔面を斜め一直線に斬りつけて、動きが一瞬止まった所で首に剣を突き立てる。
その時初めて感じた、剣が肉に突き刺さる感触に、クラインは嫌悪感を覚えた。
ブシュッと嫌な音がして血が吹き出し、クラインの顔にも返り血が飛ぶ。それと同時にデカバチのその巨体は、派手な音を立てて横に倒れ、ピクリとも動かなくなった。その途端、剣先が重く感じる。
「ハァ、ハァ……やった、のか?」
確かに感じた殺しの手応えと共に、先程の嫌悪感は拭えない。
これが、生きているものを殺すということ。
たとえ魔物であっても、生きているものを殺すことに変わりはない。
そう戦闘後に感じた途端、剣先が重くなるのを、クラインは感じていた。
これはきっと、命を背負う重み。
倒したものの命に対する責任が、重みとなって現れたのだ。
幼いながらもその重みを実感し、その正体を正確に突き止めたクラインは、このあとの修行でめきめきと力をつけるのだが、それはまだ、誰も知らない。
剣についた返り血を剣を軽く振って払い、鞘にしまう。そして、自分の背後に隠れるようにしていたフローラの方を向いた。
目があった途端、フローラの顔が真っ青になる。
「ふぅ、けがは無いか?」
「っ、それは私のセリフよ!その顔の血、止めないと!!」
「あぁ、これは返り血だから平気だよ。……ごめん、怖いよな。血なんて付けて」
一歳差とはいえ、彼女は血とは無縁の世界で生きているだろうし、女の子だ。
この顔を見て、怯えないはずがない。
クラインがそう思っていると、フローラはぶんぶんと首を横に振った。
「怖いわよ!もう、震えちゃうくらい!でもっ、それは、その血は私を守ってくれた証拠だもん!だからっーーー」
涙をいっぱい溜めて、でも流すもんかと目が言っている。そんな顔をしながら彼女はクラインに、
「ありがとう、私を守ってくれて」
そう、泣き笑いの笑顔で言ったのだった。
そしてその笑顔に、クラインは自分の心がドクンと高鳴るのを感じた。
(この笑顔をもっと見たい、もっと……もっと。こいつをーーーフローラを、俺が自分の手で守りたい)
まだ将来の職を考えていたクラインにとって、この思いはある一つの職を目指す理由となった。
姫の専属騎士になりたいと、そう強く思う理由に。