番外編2 はじめての出会い
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「じゃあクライン、僕は国王様とお話があるから外で待っていなさい」
そう言われて部屋を出たのは良いものの、城内自体が初めてのクラインにとって、どこで待てば良いのかすらも分からない。
「……暇だな。剣、どこかでやりたい」
腰に下げている剣を軽く触りながら、クラインは一人呟いた。
その剣は両親に貰ったものであり、正式な剣は騎士になったときに国王から授かる。
開けた場所を探すうち、目に入ってきたのは花畑だ。
「あそこなら誰にも邪魔されずに出来るかな」
必然的に彼の足は、城の外の花畑へと向かっていった。
足元に咲き乱れる花畑の中で、一定の速さで剣を繰り出す。
クラインの足が動く度に舞う花々は、彼の剣に捕らわれ両断されていった。
斬られた花は真ん中で半分に割れ、彼の剣の腕前の良さを物語っている。
しばらくクラインがそうしていると、突然少女の叫ぶ声が聞こえてきた。
「ダメーッ!お花たちをいじめないで!!」
城の方から駆けてくる少女が、大声でクラインに訴えかける。
近付くほどに鮮明になるその髪と瞳の色に、思わずクラインは剣を振る腕を止めた。
「ハァハァ……あなた、ひどいわ!足元の花が目に入らないの?ーーーこんなに散らされて……」
翡翠色の髪と瞳、それを持つ少女はこの国には一人しかいない。初めて近くで見るその髪と瞳の美しさに、クラインは無意識に引き込まれていた。
「ーーーフローラ姫、なのか?」
「そうよ!だからなぁに?あなたこそ、だれなの?」
「俺はクライン・アルベルト。この前8歳になったばかりだ」
「え、あなたがあのシリウスの弟?ーーーそう、あなたもやっぱり貴族なのよね…。」
何故か名乗った途端に落ち込んだフローラの様子に疑問を抱いたが、自分が剣を抜いたままであることに気付いたクラインは、慌てて剣を鞘に収めた。
王族に剣を向けるようなことは、不敬にあたるからだ。
(それにしても面倒だな。王族の姫なんて、性格があまり良いとは思えない)
「何で一人でいるんだ?お前、姫なんだろ。護衛とかいるだろうに」
「抜け出して来たのよ。遊び相手がいなくて退屈だったから」
「貴族の坊ちゃんがいるだろ。お前の遊び相手として、友達として、誰かしら城に来てるはずだぜ?」
「……友達なんて、誰もいないわ。あんなのみんな私じゃなくて、姫に気に入られたいだけなのよーーー貴族なんて、みんなそう……」
「ふーん」
話しながらフローラは驚いていた。
確かに自分がフローラであると告げたのに、彼は貴族の息子のはずなのに、名乗ったあともまったく態度が変わらないのだ。
(貴族なんて、みんな最初は普通に話してくれるのに、私が姫だと分かった途端、態度を変えて、みんな私と対等になんて話してくれない)
「……クラインは、私が姫だと分かっても態度変えないの?今まではみんな、敬語になったり私の意見しか聞かなくなってーーー」
「へー、そうかよ。でもお前、7歳だろ確か。じゃあ俺の方が年上じゃん。年下に敬語っておかしくね?」
「…………」
言葉が返せない。だってこんなこと、今まで言われたこともなかったのだから。
フローラは、自然と笑みがこぼれてくるのを実感した。
「ふ、ふふっ、うふふ!あなた、おもしろいのね?そんなこと、初めて言われたわ!」
「……そうかーー花のことは謝る、悪かったな」
「いいわ、謝ってくれたんだもん。許してあげる」
今までクラインの想像していた姫の性格は、甘やかされてわがままな姫様だった。でもそれは、クラインのまったくの勘違い。
実際は心が優しそうで儚くて壊れやすい、まさにこの花のような存在だったことに驚く。
クラインがそんなことを思っていると城の窓から、シリウスが顔を出した。
「おーい、クライン!何で外にいるの?そろそろ戻って来なさぁい!!ーーーえ、あれ。まさか隣にいるの、姫様?!」
「げ、あにうえだ。城の外なんかにいたから怒られるかな」
「大丈夫よ、護衛を連れてない私のことを見つけて、そばにいてくれたことにすれば」
「い、いいのか?」
うん、と頷くフローラに感謝して、クラインとフローラはいそいそと城内に戻りかける。
だが、そのとき……
「危ない!クライン、姫様!!後ろっ!」
「「え?」」
振り返った背後にいるのは大きな蜂。魔物の一種で通称、“デカバチ”だ。
針には毒素は無いのだが、その巨大さゆえに、子供は体当たりされるとただではすまない。
「フローラ、下がれ!お、俺が相手だ!」
姫の手前、格好付けて安心させようと虚勢を張るが、何を隠そうクラインは、まだ魔物と戦った経験は無い。
魔物に関してはこれから修行で、経験を積む予定なのだ。
震える足に力を込めて、クラインは魔物と向き合う。
(せめて、あにうえが来るまでは俺が!!)
怯えるフローラを背中に隠しながら、そう強く誓うクラインだった。