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目覚めたら異世界にいました ~バッドエンドは変えられる!!~  作者: 江笠 愛
番外編 総合50ポイント達成記念ストーリー
45/167

番外編 1 “はじめてのお城”

今日から数日間、番外編やります!

内容はクラインとフローラ姫の出会いの物語。

まだ幼い彼らの出会ったときのお話です♪

 

 それはある晴れた日の思い出。

 今からちょうど10年前。

 まだ幼かったフローラとクラインが初めて出会った日の、姫と未来の騎士の物語ーーー。













 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「うわぁ、でっけー!」


 自分の目の前にそびえ立つ城を、初めて近くで目にして感じた気持ちが、素直に声に出る。


 まだ成長期を迎えておらず背の低い子供にとって、その城の醸し出す迫力は、大人よりも数倍強く感じさせた。


「こらクライン、その言葉使いは今日は封印しなさいってお兄ちゃん言ったよね?」


「ご、ごめんなさいあにうえ。ついうれしくなってしまって……」


 城門の前で、シュンとうなだれている幼い子供の名前はクライン・アルベルト。

 先日8歳の誕生日を迎えたばかりだ。

 そしてその隣に立っている、成長期真っ盛りの少年の名はシリウス・アルベルト。

 クラインの5歳年上の兄であり、アルベルト家の長男でもある。


 今日はクラインの初めての登城日。

 このエメラルド国では原則として、城内に入ることを許されるのは8歳からと決まっており、また10歳になると、城で働くことを許されるようになっている。


 先日8歳になったばかりのクラインは、13歳の兄シリウスに連れられて、今初めて城内に足を踏み入れようとしていた。


 いつも遠くから眺め続けた城に入れるという喜びで、クラインの胸はドキドキと高鳴り続ける。


「良いかいクライン、もし僕達がミスをしたり礼儀を欠いたら、その責任は全て父上達に向くんだよ?」


「はい、ごめんなさいあにうえ。俺、ちゃんとします!」


 そう言ったそばから自身を“僕”ではなく“俺”と言う弟に、シリウスは軽く苦笑する。

 そして、この小さな弟を自分が引っ張っていかなければと改めて心に誓うのだった。


「うん、頑張ろうね。じゃあ、行こうか」


 門番がシリウスの顔を見て、慌てて門を開く。

 その様子から幼いクラインにも、兄がすでに門番にまで顔を認識されるほどの実力者だと分かった。


 この正門を通る人の数は数え切れない。その中で、顔を認識されるということはとても光栄なことなのだ。

 そんな兄の背中を見て、自分もいつかあの背中に追いつけるような剣豪になりたいと、そう強く思うクラインだった。


 広い城内を、迷うことなく進むシリウスに連れられて歩くクラインの姿は、否応なしに周囲の注目を浴びる。


「あれがアルベルト家次男、クライン様か」


「シリウス様もおられる。あの若さですでに剣豪と呼ばれているらしいな」


「クライン様もいつかは……」


 そんな衛兵達のささやきが、二人の耳にもしっかりと届いた。

 初めての城内の上、注目されていることに緊張しているのだろう。

 シリウスと繋がれている右手に、クラインは知らぬ間にギュッと力を込めていた。


 それを安心させるように、そっと握り返しながらシリウスは、国王との謁見の間に着いたことを彼に知らせる。


「ここだよ、クライン。心の準備は良いかい?」


「うん、大丈夫だよあにうえ」


 気丈に振る舞うクラインの様子は、端から見ても緊張しているのがひしひしと伝わってくる。


 衛兵が謁見の間の扉を叩いて、国王に自分達の到着を知らせた。


「入って良いぞ」


 中から聞こえた威厳ある声に、クラインの肩がピクリと跳ねる。


 開かれた扉を兄、弟の順に通過して、国王の前でひざまずく。しきたり通りに顔をうつむかせ、国王の言葉を待った。

 その僅かな間もクラインの頭を埋めるのは、国王への挨拶の言葉。

 何度も何度も繰り返し、練習をした口上の挨拶だった。


「顔を上げよ、シリウス・アルベルト、クライン・アルベルトよ」


「「はい」」


 ゆっくりと顔を上げて上座を見上げた途端、国王とバチリと目が合う。

 その威厳ある瞳は、頭の中で忘れないように復唱していた挨拶をどこかに吹き飛ばさせた。

 まるで、頭の中が真っ白になってしまったかのようにーーー。


「そなたがクラインか」


「は、はい。……えと、アルベルト家次男、クライン・アルベルトと申します。以後、どうぞお見知りおきを」


 若干噛みそうになりつつも、クラインは最低限の挨拶を何とか言い終える。それを見届けてシリウスが付け加え、


「クラインのために時間を割いて頂きありがとうございます。登城報告と共に、今日はクラインが近日中に修行へ向かうことの報告も合わせてしに参りました」


「おお、そうだったな。懐かしいな、五年前のお主を思い出す」


 ーーー修行。それはアルベルト家男子に定められた通過儀礼のようなものである。

 8歳で登城した後、城で働く10歳までの最低二年間を、アルベルト家所有の修行の場所で過ごすというものだ。この修行こそ、アルベルト家が剣豪を生み出せる理由の一つでもあるのであった。


 その間に学ぶことは大きく分けて、全部で2つ。

 一つはもちろん剣の腕を。そしてもう一つは、礼儀作法の徹底だ。


 剣豪である彼らが就く、最も多い職は騎士。

 騎士には衛兵とは違い、礼儀作法の徹底が義務付けられている。騎士になるための試験で重要となるのは、剣の腕と礼儀作法なのだった。


「明日より、彼の修行を開始致します。二年後の騎士の試験では、必ずや成果を見せてくれるでしょう」


 シリウスはその言葉通り、自分と会わない二年の間でめきめきと力を伸ばし、その成果は騎士の試験で余すとこなく発揮された。


 それゆえに、自身にかかる期待は大きい。

 兄のことを誇らしく感じる一方で、クラインの中にある不安感は募るばかりだ。


(ちゃんと強くなれるのだろうか……)


 そんな感情を内に秘めたまま、


「精一杯頑張らせていただきます」


 クラインのその言葉と共に、国王との謁見は無事終了したのだった。


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