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クラインの覚悟

 聞き慣れない名前がクラインの口から叫ばれたのと、ほぼ同時。

 突然結衣は自身の背後に人の気配を感じた。


「う……、うぐっ!」


 頭上でシュバインのうめき声が聞こえ、微かに首筋から剣先が離れた。

 気になって結衣がそろりと上を見上げると、シュバインの首筋にも剣先が押し当てられているのが見て取れる。


「やれやれ、クライン。公の場で呼び捨ては駄目だと、いつも言ってるでしょ?お兄ちゃん悲しいよ」


「はいはい、今それどころじゃないんで。てか天井裏から登場するわ、来るの遅いわで……もう来ないかと思ったぞ。取りあえず、そこにいるユイを助けてやってくれよな!」


 戦いながらクラインは、一体誰と話しているのか。

 シュバインが邪魔で、その背後に立つ人の姿は結衣には見えない。だがその存在感と、声だけは聞こえる。


「お、お兄ちゃん?お兄ちゃんって言いました今?!」


「……いや今それ、あんま関係ねぇだろ。あとで説明してやるから、今は大人しく助けられとけよ?!」


 まさかのクライン兄の登場で、結衣は動いて姿を見たい衝動に駆られながらも、剣がまだ首筋にあるため動きはしない。


「大丈夫だよ、ちゃんと助けるからね。そのために来たんだし。それに、真打ちは遅れて登場するものだろう?────さぁシュバイン様。あなたの命は今、私が握っていますが……」


「────っ、分かった!このメイドを解放しよう。だからまずはその剣を、おさめてくれないか?」


 たった今、クラインの剣技を間近で体験したシュバインにとって、その兄であるシリウスに立ち向かう気力は湧いてこない。


「えぇ、もちろんです。でもそれは、彼女を解放したあとで、という条件付きですがね」


 シュバインごしでも、ひしひしと感じる存在感に、結衣は息を張り詰めながら状況を見守った。


 シリウスの言葉に、シュバインはゆっくりと剣を首筋から離していく。

 そして剣が完全に結衣から離れ、シリウスもシュバインから剣を離した途端……


「────シリウス・アルベルト!私に剣を向けた罪、あがなってもらうぞ!」


 シュバインが最後のあがきとばかりに、不意打ちでシリウスに剣を振り下ろす。


「……往生際が悪いですね、王子。今大人しくしてくだされば、痛みを知らずに済んだというのに────」



 キィンと空気を切り裂くような音がして、シリウスとシュバインの剣がぶつかる。


 とっさの不意打ちを、いとも簡単に防いだ様子を見てシュバインは、改めて彼がクラインの兄である事実を認識した。

 アルベルト家の兄弟には、どんな手を使っても勝てないということも────。



 そしてクラインによって王子の護衛全員が捕まり、シリウスによってシュバインが捕縛されるのは、それからわずか数分後の事だった。



















 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 シリウスの呼んだ衛兵が、シュバイン含めた護衛全員を牢に連れて行くのを見送ったあと、クラインは改めて自分の兄を結衣に紹介した。


「名はシリウス、俺の5つ年上の兄だ。今は国王の専属騎士を勤めている」


「ワタリ・ユイさんだよね?改めまして、シリウス・アルベルトと申します。よろしくね」


 そう結衣に挨拶すると、シリウスは膝をついて彼女の左手を持ち上げ、手の甲に軽く口づけをした。


「えっ!」


 彼の思わぬ行動に、結衣の頬が真っ赤に染まる。

 シリウスとしては騎士として当然の行動なのだが、なにせ結衣は異世界人。初めて体験した騎士の行動に、動揺を隠しきれていない。


「おいシリウス、ユイが動揺してるぜ?よくそんな行為が出来るよなぁ。俺は好きなやつにしか出来ねぇわ」


「失礼な!僕だって、誰彼構わずやっているわけじゃないよ?ユイさんだから、やったまでだ。それから兄上だろう?クライン」


 その言葉に、結衣の顔は耳まで真っ赤になる。


「そ、それよりお二人とも助けて下さってありがとうございました。正直もう、駄目かと……」


「お礼ならクライン一人で構わないよ。僕はクラインに言われるまで、この状況を知らなかったからね」


「────だが結局、良いとこ全部持って行ったのは兄上じゃねぇか。てか天井裏から登場とか、聞いてないぞ?!さすがに驚いた」


「やはり内容が内容なだけに、国王がなかなか信じてくれなくてね。それに、ユイさんが人質にとられている可能性は高かったから。不意をついて登場した方が良いかと思ったんだ」


(案の定私は人質にとられて、シリウスさんの登場に救われた。恐るべし、シリウス兄の予測能力……)


「さて、来るときにこの部屋の周りは人払いをしたから、この部屋で起きたことはまだほとんど知られていないよ?────クライン、どうするつもりだい?」


 シリウスが尋ねているのはおそらく、フローラのことだろう。明日が結婚式だというのに、浮き彫りになってしまったこの事実。

 シュバインの思惑を知ったら、きっとフローラは悲しむに違いないのだ。


 クラインは少し黙り込んだあとシリウスに、頼みがあると答えた。


「今から国王に会わせてくれないか。話したいことがあるんだ」


 そう告げたクラインの瞳には、覚悟の念が映っていた。



「俺はフローラに───────をする」


 そのクラインの言葉に、その強い覚悟に、シリウスと結衣はお互い顔を見合わせ、自然と軽く笑顔になるのだった。



 結婚式の───────運命の朝が近づく。


次回、第二章完結編です!お楽しみに♪

また、お知らせもありますのでぜひお読み下さい♪

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