自白
「……か、クラインが部屋に戻ってきたのか。まぁ良い、こちらにはこの娘もいるしな」
「ミシェル・フレデリス様からのお手紙を発見出来ず……申し訳ありません」
意識が徐々に浮上して、周りの話し声が聞こえてくる。結衣は意識が戻ったことがバレないよう、目を閉じたままで状況把握に務めた。
(えーっと、確か私────そうだ、私はクラインの部屋でシュバインに気を失わされちゃったんだった)
意識が途切れる直前の状況が、結衣の脳裏に次々と思い返される。
(見つからなかったのは良かったけど、大丈夫かな……クライン、無事に証拠の手紙見つけられたかな?)
自分が手に握っていた、場所のヒントが書かれたメモは、どうやら手の中には無いと分かる。
結衣は、メモがクラインの部屋に落ちていることを願った。
「幸か不幸か、この娘はまだクラインに会えていないだろうさ。彼女が証拠を持ち去ってから、まだそれほど時は経っていない。クラインに証拠を渡す時間は無かっただろうからな……さて」
人が近寄る気配がする。
そろそろ寝たふりも限界と踏んで、結衣はゆっくりと目を開けた。
「……シュバイン王子」
「おや、お目覚めかな?おはよう、ワタリ・ユイ。先程は手荒な事をして悪かったね」
どうやらここはシュバインの部屋の中らしく、見覚えのある家具などが並んでいる。
「────っ!」
軽く首を動かすと、鈍い痛みが走った。
おそらく手刀されたときの影響だろう。
「……悪気の全くない謝罪はいらないです。それよりもなぜ、私にこのような事を?人違いなら、ヤバいこと聞く前に立ち去りたいのですが」
あくまで自分は無関係だと、結衣は主張する。
そんな態度を面倒に思ったのか、シュバインは態度をガラリと変えた。
目つきが鋭くなって、結衣の虚勢を剥がしにかかる。
「なぜだと?フッ、どこまでも苛立たせてくれる。証拠を盗んだのがお前だと言うことは、確信しているというのに」
(……な、何で?!だって証拠持ち出したときは顔バレしなかったし、クラインの部屋に行って捕まるまで、それほど時間は無かったよね?!あ、分かった!ハッタリだ、ハッタリだこれ!)
「随分動揺しているな。不思議か?自分の行動がなぜバレたのか」
「……いいえ?だって私、封筒なんて取ってませんし。まったく見に覚えの無いことですね」
結衣はシュバインのハッタリに屈しないよう、必死で抵抗をした。
だがその瞬間、シュバインはニヤリと不敵に笑えむ。
その表情は、まるで全て分かっているぞとでも言いたげだ。
「な、何がおかしいんですか?!これ以上言いがかりをつけるなら、こちらにも考えというものが……」
「言いがかり?たった今、盗みを認めたお前に、そんなことを言う資格があるとでも?笑わせてくれる」
(認めた?誰が、何を認めたって?)
「私は認めてなんか……」
「では、なぜ知っている?証拠が“封筒”だと。証拠について、誰もお前に教えていない」
「────っ!!そ、それは……」
(そ、そうだった──っ!証拠の内容について、シュバインは一度も触れていない!それを……それを知ってるなんて、自分から認めているようなものじゃない!!)
まさかの誘導尋問に乗せられ、自白した結衣は、己の馬鹿さ加減に呆れかえる。
これではもはや、どちらが悪役なのだか分からない。
「まぁ、こんな方法でなくともお前が盗ったことは知っていたがな」
「だから何でですか?!」
「証拠が盗まれたと聞いて、まず始めにやったことは目撃情報の回収だ。その結果、私の部屋からメイドが出て来たのを見たと教えてくれた者がいたのだよ」
メイドであったため、その時点ではさほど不思議には思われなかったようだ。
「その他に、メイドについて尋ねたら面白い情報が手に入った。クラインが見掛けないメイドと話をして、彼の部屋の方に歩いて行った────とね?」
「……なるほど?それで、私が来そうなクラインの部屋に現れた────と」
これだけの広い城内から、ここまで情報を早く引き出して人物を推測し、実行に移す。
想像をはるかに超えた彼の有能さに結衣は、ぐうの音も出ない。
ここまでバレているのなら、もう隠し立てする意味は無さそうだと彼女は踏んだ。
(仕方ない、クラインがここに来てくれることを祈って、待とう。それまでは、今度は私がこいつから情報を引き出してやる!)